ルル、たとえ星がおわっても

 ルル、どうにもこうにも、星は、廃れてゆくものらしい。
 ぼくらの仲間のうち、何人かは冷凍睡眠をえらび、もう何人かは、宇宙に飛び立ち、ぼくと、あと、もうひとりは、この星とともに生きてゆくことにした。生きてゆくことにした、とはいえ、この星の寿命があと何年か、何十年か、はたまた、意外にも、何百年と生き永らえる可能性も、あるんだよなぁと、もうひとりがさも他人事のような調子で言ったので、なんだか、正直、どうにでもなれと、ぼくは思ったのだ。ぼくらと星、どちらが先に死ぬか。しかし、星が廃れはじめていることに、変わりはないのだし、冷凍睡眠も、宇宙脱出も、お金がかかるし、手続きもややこしくって、めんどうだったので。それに、ルル、きみが、この星のどこかで、ひそやかに生きている以上、ぼくに、星を離れる選択肢は、ないのだ。いつの日か、きみが、ぼくのからだに還ってくるときのために、ぼくという器が手の届かないところにあっては、困り果ててしまうだろう。冷凍睡眠のカプセルは、世界でいちばん頑丈な素材でできているもので、なにものにも傷ひとつ、つけられないし、宇宙は、なんせ、ルルでも、大気圏を越えることは、不可能であって、いつ還ってくるか、寧ろ、還ってくる確証もない、きみのことを、でも、ぼくは、待つことに決めた。はんぶん、期待しているし、はんぶん、期待していない。
 冷凍睡眠のカプセルは、地下シェルターに保管されていて、星が廃れても、星自体が消滅することはないという専門家の見解のもと、何百年、何千年後に目覚めてもいいように、できているらしい。目が覚めたとき、あのときから、百年、二百年、三百年、もしくは、千年、二千年と経過していた場合、ぼくらという生きものは、正常でいられるのだろうか。百年、千年後の未来を受け入れ、あたらしい生活を送ることができる順応能力は、あるのだろうか。なんだか、とても、宙ぶらりんな存在になるような気がして、ぼくはすこし、こわいと思った。一緒に残ったひとりが、ワインを飲みながら、宇宙に飛び立った恋人を愛していることに変わりはないのだけれど、さみしい気持ちはどうしようもないと呟いて、ぼくに、今夜はそばにいてくれと懇願してきたので、ぼくは、チーズを食べながら、いいよ、と答えた。虫の声ひとつしない、静かな夜だった。
 ルル、ぼくは、きみを失った日からずっと、さみしいままだ。

ルル、たとえ星がおわっても

ルル、たとえ星がおわっても

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-24

CC BY-NC-ND
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