月夜の秘め事

烏丸萩聲

 灯り一つ無い、真っ暗な部屋。開け放たれた窓から、ふわりと冷たい夜風が流れ込む。ひらひらと戯れる様にカーテンが緩やかに揺れ、シャラシャラと窓枠に吊していたサンキャッチャーが小さな音を奏でる。もそりと私はベッドから起き上がり、赤い華が乱れ咲く素肌にブラウスを引っかけた。素足でペタペタと夜風を招き入れる窓の方へ向かう。バサッと、カーテンを開け放って夜空を眺める。白んだ繊月が私を嘲笑うかのように、煌々と輝いている。窓辺のサンキャッチャーがくるり、くるりと廻りながら、月光を真っ暗な部屋に散りばめてゆく。先程の情事をふと思い返し、そっと唇を撫でる。ガサガ
サと荒れた感触。ああ、リップが欲しいな。なんて暢気に思いながら窓枠に腰を預け、火照った軀を夜風で冷ます。
「宵月?」
 私の名前を呼ぶ少し掠れた愛おしい声。声がした暗闇へと振り向こうとした瞬間。にゅっと長い腕が伸びて私を絡め取り、ベットへと再び縛り付けた。
「離れちゃ......駄目でしょ?」
 優しげな声音とは裏腹に不安そうにゆらゆらと揺れる黄金の瞳。反論しようと開く私の口を塞ぐ、絶え間なく降り注ぐキスの雨。そっと這わされた冷たい彼の手が、私の頬から胸、腰へと降りてゆく。擽ったくて身を捩りながら笑みが零れ落ちる。
「名前を呼んで、宵月。僕の名前.........呼んでよ」
 彼は苦しげにそう乞いながら、私の荒れた唇を塞いでしまう。執拗に舐られた後、ふらつく思考に息も絶え絶えになりながらも彼に応える。
「残月」
「もっと......もっと呼んで。僕を、僕だけを呼んで」
「残月、残月。残月、ざんげつ.........」
 私に呼ばれる度に彼は嬉しそうに、それでいて寂しそうに微笑む。灯りが落とされた真っ暗な部屋。サンキャッチャーが運び込む小
さな瞬きに、彼の素顔が垣間見れる。雑に前をくつろげた彼のブラウス、幾つかのボタンが力なく項垂れていてる。彼の名前を呼びな
がら、そっと熱の籠もった軀に触れる。とくとくと脈打つ鼓動、上下する胸。彼が息を呑み込んだ音。
「宵月......何処にも行かないで。ずっと傍に居て」
 子供のように縋る彼。絶え間なく私の軀を這い回り愛撫してゆく彼の熱い手。これは一時の戯れ。私は彼の傍にずっとは居られない。彼もそれは解っている筈。それなのに、そんな戯言を宣う。私だって......―― 愛おしさと寂しさに痛む胸を見ない振りして、泣いてしまいそうな彼を抱き締める。
「大丈夫よ、残月。また、逢えるから。少しだけ、待っててくれる?」
 彼の為に、今まで一等美しく微笑む。こくりと頷く彼。そしてまた、お互いの熱を、感情を貪るように愛し合う。そんな私達を嗤う鋭利な月。

月夜の秘め事

月夜の秘め事

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 成人向け
  • 強い性的表現
更新日
登録日 2020-05-23

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