白いマグカップ

白いマグカップ

 そこはマグカップ屋さん。

 お店にはたくさんのマグカップが並んでいます。

 大きなカップに小さいカップ。

 たてじま模様によこじま模様。

 赤、青、黄色、色とりどり。


 お店の奥のふとっちょおじいさん。

 ごわごわエプロンがトレードマークで、いつもにこにこ。

 お店のカップはみんなおじいさんが作った、
 
 おじいさんのこどもたちです。

 
 ある日おじいさんは雪のように真っ白なカップを作りました。

 綺麗に色づけされたお姉さん、素敵な模様の入ったお兄さんたちと
 比べるととても簡単な造りだったので、

 「お父さんは私を愛してくれなかったのかしら。
  どうして私には綺麗な色や模様をくれなかったの。」

 白いカップは恨めしく思っていました。


 「おや、随分愛らしいカップがやってきたね」

 お店のテーブルが白いカップに話しかけました。
 ずっとお店にある古いテーブルです。

 「愛らしい?私はただ真っ白いだけのカップだわ。」


 そんな白いカップもお店のテーブルから、旅立つ日がやってきました。

 でも心の中は不安で仕様がありません。

 「私には綺麗な色も、素敵な模様もないけど大丈夫かしら。」


 静かな部屋にいい香りが漂っていました。

 これから白いカップを使って、コーヒーを飲もうとしているようです。

 準備をしている様子を見て、カップは緊張していました。


 白いカップにコーヒーが注がれました。
 
 こうなったら考えてばかりいられません。

 白いカップは注がれたコーヒーがこぼれないように、一生懸命、優しく受け止めました。

 それが終わったところで、カップはコーヒーに話しかけられました。


 「とても丁寧に受け止めていただいて、ありがとうございます。」

 「私はなんの取り柄もないカップだから、
  それしかできなかったの……」

 「取り柄がない?
  あなたの白い身体は他のどんなカップよりも私たちを
  上手に受け止めていますよ。
  私たちにとってあなたより素敵なカップはないでしょう。」


 褒めてもらってうれしかったのに、
 思わずカップは言い返しました。
 
 綺麗なレース模様のテーブルクロスが見えたからです。

 「おじいさんは今まで一つだって、カップに手抜きをしたことは
 ないよ。ただ真っ白いだけ、そんなことあるはずないさ。」

 「じゃあ私が……その最初の一つだわ。」

 悲しい気持ちでいっぱいでした。



 そんな白いカップもお店のテーブルから、旅立つ日がやってきました。

 でも心の中は不安で仕様がありません。

 「私には綺麗な色も、素敵な模様もないけど大丈夫かしら。」


 コーヒーの言う通りでした。
  
 カップとコーヒーは、まるで夜空とそこに浮かぶ月のようでした。

 白と黒の色合いも、
 おじいさんとエプロンみたいにぴったりでした。

 白いカップは自分の勘違いに気が付きました。

 もしも顔があったら赤くなっていたでしょう。

 おじいさんはちゃんと考えてくれていたのですから。


 日当たりが良く、
 明るい静かな部屋の角には小さな棚がありました。

 中を覗いてみると、
 たくさんのマグカップが……あの白いカップも座っています。

 でももう心配いらないでしょう。

 自分にもおじいさんがくれたものがある。

 白いカップはそのことを知っていますから。

白いマグカップ

白いマグカップ

長い絵本、短い童話といった内容です。 私の処女作でもあります。 少し空いた時間にでもどうぞ^^

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-07

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