【鯉月】働く男

しずよ

二次創作(腐)につきご注意ください。
お題メーカー「今日のふたりを見てみよう」で出た5/4のお題に沿ったお話です。
連休中、今日だけオンラインミーティングがあるという月島さんの仕事中の様子を見て、惚れ直す鯉登くんのお話。Twitterとpixivに投稿しているものに、加筆修正しています。

 鯉登と月島の家のダイニングテーブルは、二人用にしてはやけに大きい。なのでテーブルの隅には、ボックスティッシュや充電器や味付け海苔の容器がいつも置かれている。それらの物を、昼食後に月島がいそいそとキッチンへ移動させていたので、鯉登は不思議に思って聞いてみた。
「どうして急に片付けているんだ?」
「実は宿題が出ておりまして」
 月島は目を伏せる。
 連休に入る前、鶴見からとある資料を手渡されていたらしい。それは、先月ロシアからフランスの米国大使館に亡命した研究者の手記だった。ロシア語で書かれており、ところどころ暗号と思われる表現がなされていたから、鶴見、菊田、月島、尾形の四人がそれぞれ解読して、解釈をすり合わせることになっていた。そのミーティングを本日午後二時から始めるというのだ。
「仕事だったのか」
「はい、突然すみません。内容が内容なので、鯉登さんはできれば寝室に移動するか、ここにいる間はイヤホンで音楽でも聞いてもらえたら助かります」
 月島はふだん音楽を聴かないせいか、自分がイヤホンをするという考えがないらしい。そういうところが月島らしくてかわいいな、と鯉登はにんまりとする。月島は着々とミーティングの用意をする。テーブルにタブレット端末を斜めに設置し、あらかじめ鶴見から指定されていたオンライン会議システムの準備をする。開始五分前に壁を背にした位置に着席した。
 だから鯉登はヘッドフォンをつけて月島の向かいに陣取った。月島が仕事なら私も勉強するか。前から視聴しようと思っていて見ないままだった、エコノミストの動画をこの機会にまとめて見てみようと思った。
 二時を少しすぎると、月島の表情が変わった。タブレットに向かって会釈している。口が動いているから「お疲れ様です」などと挨拶をしているんだろう。それから月島は手元の資料に必死に書き込みを続けている。それから面をあげると盛んに口が動く。そして斜め上を見て思い出す風な顔をしたり、たまにスマホで調べ物をしてみたり、そして厳しい表情で画面に向かって話をしている。
 格好いいな。
 鯉登は素直にそう思った。これまで月島が仕事をする姿を見る機会なんてなかったので、想像するしかなかったのに。おいのほれたおとこはほんのこてよかにせじゃ。
 鯉登が月島に惚れ直していると、月島は突然うつむいて肩を震わせる。どうした? 具合でも悪くなったのか、と鯉登は動揺を隠して様子を見守る。するとヘッドホン越しに笑い声が聞こえてきた。月島のタブレットからだ。顔をあげた月島も、よく見ると笑いを堪えており、目尻には涙が少し滲んでいる。
 何がそんなにおかしいのだ? 気になった鯉登は動画の再生を止める。ヘッドホンはつけたままで耳をすませると、鯉登もよく知るバイオリンのあの曲――日曜午後十一時の情熱的なテレビ番組のテーマソングが聞こえるではないか。
『菊田さんが眠そうだったら、眠気を吹き飛ばしてやる気の出る曲をかけてさしあげたんですよ』
『尾形、もういいから止めろ……』
『いや、これはこれでいいと私は思うんだがな。なあ月島』
「……はあ、そうですね」
 自分も笑ってたくせに、なぜそんなにとり澄ましているんだ月島ぁ! 鯉登は心の中だけで突っ込みを入れる。
『三人とも、コーヒーでも飲みながらやってくれ』
『はい』
「了解です」
 会議はそのまま続行のようだ。鯉登もそのまま、聞くともなしに聞いていた。
『……この【牛】とは何だと思う?』
『金のなる木、でしょうね』
「オレもそう思います。この研究所の持株比率を見てみても、民間の振りした国営でしょう」
『研究者の扱いなんてそんなもんでしょうな』
 鯉登はヘッドホンをはずし、キッチンへ向かう。コーヒーを二人分いれて、リビングに戻る。月島のタブレットのカメラに入らない位置に、カップを置いた。一瞬だけ月島が鯉登を見たから、鯉登は労いの意味の笑顔を向ける。鯉登は再び向かいの席に座る。耳栓の振りしたヘッドホンをつけて。
 窓の外に目をやると、去年の五月と何ら変わらない景色に見える。でも、確実に新たな世界に否応なしに突入してしまった。だから、自分も早く社会に出て何かを成し遂げなければ。そんなことを鯉登は漠然と考えた。早く卒業して、月島とも肩を並べたい。
「鯉登さん、終わりましたよ」
 気がつけば月島は鯉登の横に立っており、鯉登の耳栓もどきを外した。
「聞こえてたでしょう」
「……すんもはん」
「今日の資料は機密は機密なんですが、もともと鶴見さんが米国のインテリジェンスから入手したもので、おそらく数日内に米国とフランスからも同じ内容のものが報道されるでしょう。だから、それまで口外しなければ大丈夫です」 
「もちろん口外などしない! 信用してくれてありがとう、月島」 
 そして鯉登は、仕事風景を見られたこと、月島が格好よかったこと、早く卒業して働きたくなったことを月島に話した。
 すると月島は急に無表情になり、くるりと背を向けキッチンへ行こうとする。だから鯉登は、すかさずがっしりと腕を回して月島を捕らえた。
「こっちを向け月島ぁ。照れてないで、私の月島が格好いいといい加減に認めろ」
「いやなんですかそれ。あなたから褒められているのか脅迫されているのか分かりません」
 そうして照れて憎まれ口をたたく月島がかわいいので「むぜ」とつぶやいて朱に染まる首筋を強く吸った。
〈了〉

【鯉月】働く男

【鯉月】働く男

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-05-21

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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