【鯉月】TKG

しずよ

二次創作(腐)につきご注意ください。
お題メーカー「今日のふたりを見てみよう」の5/3のお題です。
天気がわるいので、インスタで新しい遊びを始める鯉登くんと月島さんのお話。転生パロで、単行本21巻以降のネタが含まれます。

「雨だな」
 起きてきた鯉登が月島に声をかける。窓には雨が激しく打ちつけ、轟々と風の音が聞こえる。
「ええ、台風みたいですね」
 春の嵐、別名メイストームと呼ぶらしい。そんな小洒落た呼び名があったなんて、月島は鯉登に教わり初めて知った。
「今日はジョギングも無理だな」
 先月以来、食料品の買い出し以外に何をしようかと話になり、人の少ない時間帯を狙って散歩に出るようになった。すると体力を持て余していたのか鯉登の歩くペースが次第に速くなり、月島も負けてなるものかと追いつき追い越し鯉登と競り合う。そしてついにはふたりとも走って帰宅したのが二週間前の出来事。意外に健全な自分たちの毎日が清々しい。
「昨日、買い出しに行って良かったです」
「そうだな。……じゃあ月島! 今日はプレステでもするか!」
 予想だにしないことを鯉登が言うので、月島は小さく噴き出した。
「例のイタリアの市長の若者への説教ですね。悪くはない案なんですけど、知ってますか鯉登さん」
「え、何をだ?」
「なんと、我が家にはプレステがないんです」
「……そうだった~、残念だな!」
「そうなんです。しかも他のゲーム機もない」
「切迫した状況だな。では月島、代替案だ。朝食後にスマホのアプリを調べてみるぞ」
 鯉登が提案するので、ふたりで何か面白いアプリがあるのか検索し始める。月島は普段まったくゲームはせず、鯉登も同棲を始めてからめっきり遊ばなくなっていた。ストアにはあふれんばかりのゲームアプリがあり、どれがどんなアプリなのか見当もつかない。
「別にゲームやらなくてもいい気がしてきたな」
 鯉登がぐったりした様子でスマホをソファーに放る。
「探すのに飽きましたか」
「……あ、そうだ月島! インスタをダウンロードしろ!」
「え? 写真アプリですよね、それ」
「そうなんだが、先月、杉元らがこういう使い方をしていてな」
 いわく、杉元、明日子、白石、頭巾ちゃんの四人が、インスタグラムのストーリーズで遠隔しりとりをしていたそうなのである。例えば『りんご』で始まる場合、りんごの絵をスマホで描いて、次に指名したいユーザー名をイラストと一緒に投稿するやり方である。これだと友人が各々自宅にいても、イラストしりとりが可能だ。
 そのとき鯉登は彼らのしりとりを眺めているだけだったが、杉元の絵は壊滅的だし、逆に頭巾ちゃんはプロ級の上手さでかなり面白かったらしい。
「え、でも鯉登さん。それぞれの家にいて離れているなら、そのしりとりも面白いかもしれませんが、オレたちの場合、普通にしりとりできるじゃないですか」
 月島が指摘すると鯉登はぐっと言葉を詰まらせる。
「いや、そうなのだが……、私は月島と新しい遊びをしてみたいんだ! なあ月島ぁん!」
「なんかその言い方だといかがわしい遊びみたいに聞こえるんで、謹んでもらえますか……」
 でもしりとりならいいか、と月島は考え、インスタをダウンロードした。鯉登から使い方をかいつまんで教えてもらい、イラストしりとりをさっそく始めた。
「じゃあ私からいきますよ。はい、りんごです」
 月島がりんごの絵を指で描いて鯉登に送る。
「では次はゴリラだな」
 鯉登がスマホの画面に指先で描き始めるが「なあ月島。ゴリラはこんな顔だったか?」と、途中で見せてくる。
「いいんじゃないですか。そしたら次はこれ」
「ラッパか。というか早すぎるぞ月島ぁん!」
 そして『パンダ』から『大根おろし』と続いた。
「し、し……、そうだ尿瓶! 懐かしいな月島」
 鯉登が目を細めて柔らかい視線を向ける。が、勝負の最中なのに甘すぎる、と月島は鋭い視線を向ける。
「……尿瓶描きたいなら止めませんけど、鯉登さんの負けになりますよ」
「あ」
 あっけなく終了した。鯉登はテーブルに突っ伏す。
「どうしましょうか。もう一回やりますか?」
 月島が尋ねると鯉登は「んー」とうなって悩んでいる。月島はふと思う。そういえばインスタにはどんな写真をあげているんだろう。すぐに鯉登の過去の写真を見てみた。するとそこには、食卓の写真ばかりが投稿されていた。
 なんだこれは。
 人物の姿はなく、写っているのは盛りつけられたご飯だけである。いつの間に撮ったんだ。しかも、よくよく思い出すとそれらは月島が作った料理ばかりだ。カレーや牛丼などの普段の夕食や、トーストとコーヒーだけの朝食の写真もある。いわゆる映えは気にしていないらしい。
「あっ、月島! さっきからないを見ちょっど!」
 上体を起こした鯉登が、慌てふためき画面を遮ろうとする。
「私から隠さないといけないことをしているんですか?」
「いや、勝手に投稿して怒られると思ったんだが……、怒ってないのか?」
「はい、特に問題ないかと。なんだか、写真日記みたいでいいですね」
 月島が感想を述べると「そう、それなんだ月島!」と鯉登はいたく感激した様子になる。共感が嬉しかったらしい。「月島が私に作ってくれた料理を忘れるのが忍びなかったのだ」と、鯉登は少し恥ずかしそうにする。
「でも今度からは、鯉登さんの作った料理も投稿してくださいね」
 月島がお願いすると、鯉登は「私はまだ料理のレパートリーが少ないからな……」と渋る。あ、そこは気にするのか。月島は鯉登の新たな一面を見られて、密かに口角を上げる。嵐の休日もわるくない。
 それから翌朝、鯉登の投稿した写真は、卵かけごはんと味噌汁だった。
〈了〉

【鯉月】TKG

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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Derivative work
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