慈しみ畏れ夢見よ
やさしさに首を絞められたとき浮かんだのは君の笑った顔だったし僕の青白い足だった。くちびるからはらはらと赤い花弁が零れ落ちてゆく季節に吐息を孕んだ都会がぬくもりを求めて彷徨う誰かのゆりかごになればよかったのに。にんげんはおわらない夢をみていると有名なひとが言ってでも僕らがみているもののほとんどは夢なんて甘いものじゃなくうつろな空白であることは子どもでも知っている。かなしいな。かなしいね。みえないひとびとがささやきあう午後のプラットホームに電車が滑り込んでくる線路に咲いた小さな野花を轢いて。
学校のプールの更衣室の傍らで野良猫が死んでいた日のことをいまでもときどき思い出すのは僕と君が第一発見者だから。いつだってこわいのは死ぬことと自分が傷つくこと。宇宙に忘れ去られるよりもおそろしいことはたくさんあるし神さまに見捨てられるよりも君に見放される方がいやだよ。白い服のおんなのひとたちが歌ってる磨かれたガラスの表面を撫でるような声で。
さんびか。
慈しみ畏れ夢見よ