アクセス・カウンタ

小澄桂馬

 誰にでも趣味の一つや二つはあるだろうが、あらためて「何が趣味ですか」と聞かれると、答えあぐねる人も多いんじゃないかと思う。実際には余暇に好んでやっていることがあったとしても、世間一般で言うところの「趣味」を思いっきり楽しんでいたり、「趣味」を極めようとしていたり、そういう風なものと比べると趣味だと言っていいのか、自信を持てなかったりするものだ。もしくは、あまりにささやかなことすぎて、こういうことを趣味だと言っていいのか、などと考えてしまったりする。素晴らしい趣味を目一杯楽しんで充実した人生を送らないともったいない、みたいな価値観が、主に商業的な理由から流布されていることも一つの原因ではあるだろう。そういった大層な趣味でなくても、趣味は趣味であるはずだ。
 俺にも趣味の一つや二つはある。もちろん大層な方の趣味じゃない。俺の趣味は、もっぱら、ウェブサイトのアクセス・カウンタを眺めることだ。こう言うと、多くの人は「訪問者がたくさんいるサイトを運営されているんですね」などと言ってくるが、そんなことはない。そもそも自分のウェブサイトだなんて言ってない。とあるウェブサイトだ。そうとだけ言っておこう。
 このウェブサイトは前世紀から存在する。俺がインターネットを始めた頃――そう、親のパソコンで今ではもう死語になったネットサーフィンをしていて、たしか検索エンジンのGoo――Googleではない――で何かを探していた時に、リンクを辿っていった末にたまたま辿り着いたウェブサイトだ。
 当時はまだ、こういったウェブサイトがたくさんあった。トップには「誰々のホームページへようこそ! Welcome to XXX's Homepage」などと書いてあり、真下にはJavascriptで制御された時間ごとに変わる挨拶が並んでいる。電話代を気にしてテレホタイムに繋いでいた俺は、夜更かしですねとしか言われたことがない。その更に下には、黒地に白文字の無愛想なアクセス・カウンタが置いてあり、更新履歴にはキリ番を誰が踏んだかが並んでいて、人気コンテンツは足あと帳、掲示板、チャット。そして日記とリンク集。こういったいわゆる「個人サイト」というものが山ほどあった。
 何せ、その頃、インターネットに触れたばかりだった俺は、年端のいかないガキだったこともあって、この未知の技術への興奮をそのままに、色々な個人サイトを見つけては挨拶をして回り、チャットに入り浸り、大はしゃぎする俺の相手をしてくれる立派な大人たちの何人かと仲良くなった。なんとかがんばって自分の個人サイトをつくって、相互リンクをしてもらったりしたものだ。
 しかしやがて年月が過ぎ、俺がインターネットに飽き始め、別の遊びに夢中になり、個人サイト巡りなどもしなくなった。その間に、当時主流だったウェブサイトのレンタルサービスは終了し、俺の物を含めて多くの個人サイトは消滅した。
 ある時、探し物をしていて、古いハードディスクの中を漁っていると、思いがけず、当時入り浸っていた個人サイトのアドレスを控えたテキストファイルを見つけた。ためしにブラウザを開き、順にアドレスを打ち込んでいってみるが、どれもこれも404かサービス終了のお知らせ。その中に、一つだけ、まだ生き残っているサイトを発見した。更新は止まっていたが、HTMLで書かれていた静的なコンテンツは全て閲覧できた。足あと帳、掲示板、チャットはCGIレンタルサービスが終了してアクセスできなくなっていたが、アクセス・カウンタだけは自前だったようで、まだ生きていた。しばらくは懐かしんで、その主が残したかつて手作業で更新されていた日記を読んだりしていた。特に何があるわけでもないが、折にふれては、そのサイトを眺めていた。
 いつもなら、このサイトのアクセス・カウンタは、一日に1カウントしか増えない。一日あたりのユニーク・ビジターを計算しているらしい。一日に何度もアクセスしても、リロードを繰り返しても、アクセス・カウンタの示す数字は変わらない。だから一日に1カウントしか増えない。俺は更新の止まったサイトのアクセス・カウンタを毎日1ずつ増やしていった。
 それがある日、一日あたり2カウント増えていることに気づいた。
 それからしばらく、カウントが2ずつ増えていくことを確かめる日が続いた。
 俺は興奮した。あの頃の仲間の誰かか。このサイトの本来の主か。誰かがまたこのサイトを見ている。今の俺の様に。その証拠がこのアクセス・カウンタだった。
 向こうも、気づいているだろうか。そうでなければこんな更新の止まったサイトに毎日アクセスしまい。このもう一人の訪問者と何とかコンタクトを取れないか考えてみたが、掲示板もチャットも何も使えない以上、どうしようもなかった。
 俺がアクセスするのを止めれば、カウントは1しか増えなくなる。そうするともう一人ももうこのサイトにはやって来なくなるかもしれない。きっとそうなるだろう。続けてもどうなる見込みがあるわけでもない。ただ毎日続けている。一日に2ずつ増えていくアクセス・カウンタを毎日眺めている。

アクセス・カウンタ

アクセス・カウンタ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-05-19

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