三題噺「ハロウィン」「瓢箪」「焼き芋」(緑月物語―その14―)
緑月物語―その13―
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緑月物語―その15―
現在執筆中
「ウロボロスの末端組織かぁ……。まあ、自業自得といえばそうだけど哀れだよねー」
事の顛末を報告した神樹達三人の目の前には、お茶と小皿に乗った見慣れない和菓子が置かれている。
黄色い瓢箪型の和菓子はヤマト名物『七福神』の一つ、『寿老人』であるらしい。
酒野も一口食べてみたが、焼き芋を使ったスイートポテトのような味が懐かしみを感じさせ、緊張を少しは抑えることができた。
「どう、美味しいでしょ? この『七福神』は僕が監修したんだよ?」
報告の最中は真面目だった理事長も、報告内容がさほど重要でないと判断したのか、いつもの飄々とした態度で話をしていた。
「……理事長、ところで宮都で何かあったのですか?」
その理事長の顔が、神樹の言葉にぴくりと反応する。
「……んふふふふ、さすがは神樹君。鋭いじゃないか。ハロウィンの厄災を生き残っただけはあるね?」
その言葉に神樹の険のある表情が一層厳しいものとなる。
「……いえ。ただ宮都からここへ来る途中、大型陸上輸送機『ラタトスク』に大型空中輸送機ブルーコメットを見かけました」
「あー……確かに目立つからね、あれは。あははは」
不機嫌になった神樹に、苦笑しながらも飄々と理事長が話しているのを横目に、酒野は森本に聞いた。
「なぁ、『ラタトスク』って宮都に行く時乗った巨大な電車のことか?」
「おいおい、さすがに電車はないぞ……。お前、まだこっちに来て二週間くらいだっけ?」
「……地球出身で悪かったな」
やや同情交じりの視線に酒野が憮然と答える。
「まあまあ。『ラタトスク』っていうのはお前の言う通り、緑月の主要都市をつなぐ巨大な大型陸上輸送網の輸送機って認識で間違いねえ」
「そうか。ブルーコメットっていうのは?」
「ブルーコメットは空飛ぶでっかいグリーンモスみたいなもんだな」
グリーンモスという言葉に神樹がわずかに反応する。
「グリーンモスと同じく元軍用機体なんだけど、型が古くなったから民間に払い下げられたらしいぞ」
「ん? グリーンモスは民間に払い下げられなかったのか?」
「ああ、輸送機であるブルーコメットとは違って元からグリーンモスは一人乗り用だったし、何より熱暴走を起こすような危険な代物だからな」
機体について澱みなく答える森本の知識に改めて驚かされつつも、酒野はさらに疑問をぶつける。
「熱暴走って……もしかして燃えるのか、あれ?」
「いや、あれ自体だけなら大丈夫だけど、発火性の高いものが近くにあると不味いかもな」
「……たとえば、あなたたちが見つけた爆薬とか」
「そう、まさにそれ! ……って、神樹?」
的を得たような答えに喜ぶ森本とは対照的に、神樹の顔はやや青ざめている。
「……理事長、宮都で何が起こっているんですか!」
真剣な表情の神樹に詰め寄られた理事長は、困ったようにしかし愉快そうな顔で口を開く。
「宮都での爆破テロ未遂って奴さ。ま、今はほぼ沈静化しているけどね?」
その言葉に森本と酒野の顔も青くなる。
「ば、爆破テロって! 大丈夫なんですか?」
「まあ、心配はいらないよ、脱走したグリーンモス二機のうち一機は沈黙しているし、もう一機も神樹君達が対処してくれたんだろ?」
すっかり事件は終わったものだと思っている理事長に、神樹が青ざめた顔のまま言葉を紡ぐ。
「理事長! 急いで宮都に連絡を! 私たちの倒したグリーンモスは、そもそも”逮捕されていない三機目”の機体なんです!」
直後、理事長室に突然サイレンの音が響き渡る。どうやらヤマト全体に響き渡っているようだ。
[非常事態警報。非常事態警報。宮都にて大型未確認生物の発生が確認されました。総員非常事態に備えてください。繰り返します――]
理事長の顔が歪み、神樹は顔面蒼白となり、森本は表情を険しくし、そして酒野は突然の非常事態宣言に呆然としている。
そして、誰かが呟いた。
「【魔獣】が……出た……!」
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