アーユルヴェーダ*拾撥

これちかうじょう

  1. 最後の恋
  2. ぽむぽむ
  3. 夢で逢いましょう
  4. 夢で逢いましょう、お迎え篇

結ちゃんと俺の日常が戻ってきた。
そして俺の、妙な力も戻ってきた。

最後の恋

「寒い」
冬至が熱を出した。
俺が修学旅行から帰って来て次の日のことだ。
「なんかすげえ寒い」
「…」
暦は、7月。
夏真っ盛りとまではいかないけれども、夏服も合ってきた気候の中でのこの台詞。
「ご飯も要らない」
「!」
熱は21度(死んでるんじゃないのかと思うほどだが)、
それより何より、すべてを犠牲にしてまでも求める食欲まで、
熱が奪ってしまった。
俺は焦る。
やはり旅行になんか行ってる場合じゃなかった。
冬至の傍にいてやればよかった。
あたためてやれば、…あたためる?

「…」
温度計が壊れた。
「よし」
ぐつぐつと煮えくりかえる風呂に頷く。
ここにぶちこめばいい。

「やっぱ結ちゃんは俺のこと食べるつもりなんだ!煮て食っちゃうんだ!」
「…」
「んだよこれ!熱湯風呂もここまで来れば笑い事じゃねえぞ!」
そういうつもりじゃ、と言おうとしてもすぐに、
「さむ、さむ!」
と夏服をいきなり脱ぎ始めた。
そして冬服を着て(しまってなかったのかと愕然とする)、
おまけにマフラーと手袋をしてしまう。

「さすがに冬服じゃ登校できない」
「でも寒いもん!」
「それに今日は学校、休み」
「…あー」
今日は土曜日。

「ご飯は食べないと」
「でも食欲ないよ」
「おかゆ」
「ううん要らない」
「…あまざ」
「もっと要らない」
冬至が食べないのなら、作りようがない。
そして俺も、食べる気力もわかない。
どうすればいいんだろうか、どうしたら、元気になってくれるんだろうか。
「もう十時か、…洗濯しないと」
「俺がやるから冬至は寝ていろ」
「洗剤ドバドバ入れないよな?ちゃんとしわ伸ばして干せるか?」
「うん」
「じゃあ頼むわ、俺、ちょっと寝る」
「うん」
ふらつく冬至を思わず支える。
「…結ちゃん」
上目遣いで見つめられる。
「…のエッチ」
「…」
5日間、逢えなかった。
戻ってきたとなっても、ハグしかしていない。
そうだ、熱を下げるには、風邪を、そのものを他に移してしまえばいいだけのこと。
これが俺の最初で最後の恋。
冬至が、最初の人で、最後の人。
「…」
顔を近づけて、角度を変えて、唇を重ねる。
ああ、なんて冷たい。

ぽむぽむ

「うー…」
なんつーか、なんつーか!
熱のせいなのかもしんないけど!
結ちゃんがめっちゃ情熱的なキスしてきたんですけど!

俺は結ちゃんのベッドの中で悶えている。
やばいやばい、なんか、ずっと寒かったんだけど、
今はすげえ熱い。
口から、炎でも出てるんじゃないかってくらい、
すげえ熱い。
結ちゃんとはそれほど、というかあんまり、というか、
全く、というか、
スキンシップがない。
キスだってねだらないとしてくれないし、
その先のことだって入学式の日くらいしか、
していないわけであって。
「…あ、俺のせいか」
もっと俺が誘えってことか?
いや待て、あいつが図に乗るだけだぞと言い聞かせる。
でも、あんなキスされた後じゃあ、
体が火照って仕方ないのだ。

「おやすみ」
ぽむぽむ、と頭を撫でられた。
午前十時のおやすみ、とは何ぞや。
そして自分のベッドじゃなく、結ちゃんのベッドに潜り込む俺って何様。

俺、期待してるのかな。
せめて、夢の中でも、同じことしてくれたらいいのに。

夢で逢いましょう

「凪ちゃん、恋してるんだねえ」
「!」
「すんごく可愛い顔してたよ、その人のこと考えてたでしょ?」
お母さん、と俺は呟く。
俺、結ちゃんのベッドに寝てたはずなのに。
なのに、目の前にあの日のままの、お母さんがいる。

ここは、どこだ?

夢で逢いましょう、お迎え篇

「また逢えたね、凪ちゃん」
「…ここ」
「すごいね、死んじゃった私の夢の中にまで入れるようになったんだね」
「…」
死人って夢、見るのかよ。

「凪ちゃんが危機的状況だってのは分かってる?熱が下がりすぎたんだよ、
 昔の私みたいになっちゃったんだ」
「じゃあ俺、死ぬの」
「分からない。でもね、危ないってことは何度も言ったはずだよ」
夢の中に入れること、死んだ人が見えて話せること。
そのふたつが同時進行して、
今、お母さんと一緒に居る。

「ねえ凪ちゃん、何がしたいの」
「え」
「いいんだよ、甘えてもいいんだよ。今までできなかった分、
 あの人に甘えてもいいんだよ」
「…俺が、結ちゃんに甘えるの?」
「うん、相手が誰かってことは関係ないんだ。
 その結ちゃんて子を、もっと頼ってもいいんだよ」
「でも」
迷惑じゃないかな、と引け目を感じる。
感じるんだ、ご飯ばっか食う奴だなって、
迷惑じゃないかなって、自分を卑下しちゃうんだ。

「好きな子に頼られるのって、すごく倖せなんだよ」
「え」
「必要性を感じてもらいたいって、その子は思ってるはずだよ。
 だから今も頑張ってる」
「何を言って」
「こっちだよって、手を引いてくれるはずだよ」
「…お母さん?」
俺は瞬きをする。
「冬至、冬至、」
背後から声がして、俺は振り返る。
そこに、結ちゃんが、ついさっきまでのその姿で、立っている。
「冬至、しよう、ちゃんと」
「…結ちゃん」
「あの日みたいなことにはならないように、
 ちゃんと冬至の言葉を聞きたい、
 返事を聞きたい」
「…俺が、返事するの」
「うん」
結ちゃんは、ずっと我慢していたんだろうか。
俺がご飯ばっかに集中するから、
我儘ばっか言うから。

「俺は冬至としたい、セックスがしたい」

だから、その言葉を言いに、迎えに来てくれた。

アーユルヴェーダ*拾撥

我慢していた。
言わない方がいいと思って、言わないできた。
でも、言わないより、言った方が、
冬至のためになるんだとすれば、
俺は言う。
何度でも、恥じることなく。

アーユルヴェーダ*拾撥

結ちゃんと俺の日常が戻ってきた。 そして俺の、妙な力も戻ってきた。

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  • 成人向け
更新日
登録日 2020-05-18

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