【鯉月】ヒゲと矜持

しずよ

二次創作(腐)につきご注意ください。
「今日のふたりを見てみよう」というお題メーカーで、4/29に出てきた内容に沿った鯉月現パロです。大学生の鯉登くんが眠っている隙に、彼の顔をじっくり見つめる社会人月島さんのお話。ふたりは同棲中です。

 月島基は鯉登音之進の顔をまともに見たことがない。
 照れてしまうのである。
 面と向かって会話をするのは約十秒が限界で、その後は視線をそらしたり長いまばたきをしてみたり、時には何かを取りに行く振りをしてその場を離れたりする。
 付き合っていてしかも一緒に住んでいるから、なんだか不自然だと本人からそのうち指摘されそうだ。いろいろと誤解されたくないので直そうと思うのだが、ちっとも慣れる気配がなくて困っている。
 そしてそんな時に思い出すのが、会社の後輩である宇佐美の発言だ。
「不細工な女の子に迫られるよりもイケメンから迫られた方が男ってドキドキするものなんですよ~、単純ですよね~」
「そんな訳あるか」とその場にいた前山らと一笑に付していた過去の自分は、今や影も形もない。



 祝日の午後、日が陰る前に洗濯物を取り込もうと、リビングからベランダへ出ようとした時だった。ゴトリ、と重たい物が床に落ちた音がした。さっきまで映画を見ていた鯉登がタブレット端末を落としたのだ。それなのに鯉登はソファーの上で微動だにしない。
 月島が拾いに近寄ると、鯉登は居眠りしていた。
 珍しい。月島は目を丸くする。最近のように特に予定のない休日でも、昼寝をする鯉登を見たことがなかったからである。思い返すと、朝はどちらかが起きるともうひとりもすぐに目が覚めてしまう。だから寝顔ですらまじまじと見たことがなかった。
 月島は突然ひらめいた。同棲して半年で初の出来事、これはひょっとしてチャンスではないか。月島は鯉登に毛布を掛けてから横に腰を落ち着けて、顔をのぞき込んだ。
 本当に整っている、と感心してしまう。
 ふだん人の顔の造作についてあれこれ思うことはない月島ですら、鯉登については「顔がいい」と思ってしまう。
 そうして見詰め始めて約一分、顎の骨の下に髭を一本見つけてしまった。剃り残しだ。また珍しいものを見つけてしまった。鯉登は休日であっても髭を放置せずに、毎朝剃っている。だからこんな風に少し伸びた髭を見たことがない。そして想像してしまう。このまま伸ばしたら顎髭はもみあげに繋がるんだろうか。
 その昔、月島は鼻の下に髭をたくわえたいと思って、五月の連休にチャレンジしてみたのである。でも月島の髭はまばらにしか生えず、宇佐美に「コバエか蟻がいるのかと思いました~」と笑われて、鼻の下は伸ばすのを断念したのである。
 すき間なくきれいに生えてもみあげに繋がる髭も、恵まれた一部の男だけに与えたられた資質なのである。
 鯉登の父の顔を思い出すと、鯉登もそうなる可能性はある。
 天は二物を与えず、なんて嘘だな。
 月島は剃り残しのそれを指で摘まむ。今これを引っこ抜いたらどうなるかだいたい想像がつくのだけれど、ほんの少しだけわいたいたずら心を止めるようとは思わなかった。
〈了〉

【鯉月】ヒゲと矜持

【鯉月】ヒゲと矜持

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
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