白い闇

如月瑞希(きさらぎみずき)

投稿テストに昔の物を引っ張り出してみました。さらりと読み流して頂ければ幸いです。

 二月。志望し受験した学校のすべてに落ちた私は、街を彷徨っていた。昨日までの暖かさが嘘のようで、空も街も私の身や心と共に冷え切っていた。

 受かる自信はあった。十分にあった。思い上がって『私が落ちるなら果たして誰が受かろうか』などと考えてしまうほど、あった。
 模試での偏差値はいつも合格圏だった。塾内での席次はいつも一番だった。周りに私を超えるものは誰一人、いなかった。

 時に人が私を”がり勉”と呼んだが、それは私には褒め言葉だった。だからいつもお礼を言って返した。すると大概、人を露骨に侮辱する言葉を吐き捨てて去った。
 友人は持たなかった。必要無かった。先生方は私に人当たりを良くするよう求めた。私には友人を選ぶ権利も自由に行動する権利も共に有している筈だった。

 どれ程歩いたのだろうか。先程まで茜色に染まっていた西の空も、東側から広がってきた影に大分飲み込まれた様だ。下がってゆく気温が私の指から全ての感覚を奪い去ってゆく。辺りを見回すが、見覚えの有る箇所は無い。何時の間にか知らない所まで来た様だ。

 静けさの中立ち尽くしていると、光芒が辺りの闇を薙ぎ払い、私の足元まで届く。軽いエンジン音が近づいて、車が私の横をすり抜けていく。冷たく風が巻き起こり、追って行く。
 テイルランプを目で追って再び歩き始める。別に目的地が有る訳ではない。ただ誰にも会いたくなかった。私の知らない誰かでさえ、私が落ちた事を知っている様に思えた。恥をかきたくなかった。

 今までは、目を瞑って歩いていても正しい道の上に足を進める事が出来ていた。しかし今日、初めて道の真ん中に開いた穴に落ちてしまった。そして今、真っ暗な闇の中に立ち尽くしている。どちらに行けば良いのか判らない。何処に出口が在るかも知らない。八方塞がりだ。

 再び足を止める。何処か遠くで、車のクラクションが鳴ったようだ。頭上を鳥の羽音が通り過ぎてゆく。見上げれば、星々の細やかな光が視界を占める。意識が宇宙に吸い込まれてゆく。
 と、視界を上から下に何かが緩やかに横切ってゆく。ふわり、ふわり、と舞い落ちてゆく。
 手を差し出すと、掌に降り立った。

暗闇の中、光を放っているかのように際立つ純白の羽根が、私の掌に身を委ねている。重さは全く感じられない。触れているという感覚さえも無い。だが、羽根を握り締めると、羽根は確かに其処に在る。

 何となく眺めていると、羽根は本当に光を放ち始めた。段々と光は強さを増していく。眩しさに耐えかねて目を閉じる。光は指の間を通り抜け、瞼の上からでも感じ取れる程強くなっている。

 幾ばくかの時が過ぎ、光が和らいだ。周りがほんのりと暖かくなった様でもある。瞼を上げると、視界は真白に染まる。視界の何処にもその他の色は存在しない。雲の中に佇めば、この様な感じなのかも知れない。
 後ろで何か動いた。そんな気がした。振り向くと、羽根が浮いている。同じ白色でありながら、周りの白い闇の中にあって際立っている。再び手を伸ばし、羽根を握り締める。やはり、重さは感じられない。

 目を瞠る。羽根を残して、指が、手が、腕が消えてゆく。徐々に、周りの白に同化してゆく。気が付けば、もう見回す事も出来ない。ただ白い闇が目の前に広がっている。意識もぼんやりとしてきた。白い闇に飲み込まれてゆく。

 何かが目に映る。真白な翼が在る。
・・・・・か・・・

 全て、消えた。


溶けかけた雪を蹴散らして、車が通り過ぎてゆく。
昨晩の大雪が夢であったかのような、暖かい朝。夢で無い証拠に、道端は全て雪で埋まっている。
陽光が路端の雪を溶かしてゆく。更に時が経てば、真黒な鴉の羽と、それを握り締めた五本の指が、オブジェの様に光に照らされる事になるだろう。

白い闇の中では未だ、空の器が埋まっている。

白い闇

白い闇

受験に追い込まれていたころの私の妄想をシンプルに。 小説と言い張るには短く、軽すぎるやもしれません。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日

CC BY-NC-SA
原著作者の表示・非営利・CCライセンス継承の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-SA