いなくなる
いなくなる
彼からもらったブレスレットが切れた。ぷつ、と音を立てて伸縮するテグスが。繋がれていた小さな珠たちが固い床に散らばる。
あまりに突然だったから、私は呆然として転がっていく珠を目で追うばかりで動くことができなかった。
拾わなきゃ、と思ったときには、私の瞳から粒が落ちていた。
いつまでもつけていたブレスレット。眠るときは外して枕元に起き、起きたら左手首に通し、淋しくなったら指先でそっとなぞった。輪郭を確かめるように。この思いと、関係と、私の輪郭を。
散らばった私を拾い集めた。黄金色の天然石。限りなく冬に近い秋に生まれた私の誕生石。彼がひとつひとつ選んでくれた。
彼はいつも私のことを第一に考えていた。
そんな彼を拒絶したのは、他でもなく私だった。
私のためと言って押し付ける傲慢さ。
付き合う友達も、バイト先も、進学先も彼が決めた。
従うことで私は満たされていた。彼のものであることに満足した。傀儡でいることに安心していた。
けれど、私はお人形になりきれなかった。
とあるワガママ――思い出したくもない忌々しい記憶――で彼は期限を損ねた。そのことが、怖くて、逃げ出した。
ブレスレットの珠を数えると一つ足りなかった。いなくなってしまったのは、彼なのか。彼のお人形になりきれなかった私なのか。
それとも、私自身の自我なのか。
こんなにも執着している私に乾いた笑いが出た。
ねえ、どうしたら私は人間に戻れるのだろう。
いなくなる
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