火葬場で焼く芋は

佐倉愛斗

火葬場で焼く芋は

 彼女が「焼き芋大会をしよう」と言い出したので、私は庭の物置で干していた今年1番のさつまいもを袋に詰めて家を出た。
 彼女からの誘いは珍しくはないけれど私はいつも心が踊る。いつもアニメばかり見て、いわゆる『推し活』というものに精を出す彼女は要するにオタク女子というやつなのだろうけれど、好きなキャラクターを心の底から応援している彼女は私にとっては輝いて見えた。私にはできないことだから。


 彼女の家の庭には半径七十センチメートルほどの穴が既に掘られていた。
「やっと来たね」
 彼女の笑顔はどこかやつれていた。
「焼き芋するって言うからいい芋持ってきたよ。おじいちゃんが育てたやつ」
 彼女は私の名前を呼んで「持つべきものは農家の娘だ」と悪い顔をした。
「それで火は起こした?」
 私が尋ねると彼女は身を固くして「ううん、これから」と答えた。
 彼女の様子がおかしいので伺っていると「私ね、ツトムくんとお別れすることにしたの」と言った。
 ツトムくんとは彼女が心から愛しているキャラクターで、ロボットに乗って世界の平和を守っている。私はそれくらいしか知らないけれど、それでも事の重大さは分かってしまった。
「お別れ? 何かあったの?」
 彼女は歯切れ悪い口調で「彼氏が、できたの」と言った。
「えっ? 彼氏ができてもツトムくんのことは好きでいたいって言ってたよね? それとも彼氏に捨てろって言われたの?」
 私の口から出たのは直球の疑問だった。
「違うの。私が選んだの」
 彼女は語り始めた。
「私ね、ツトムくんや他のキャラクターみたいな、二次元の住人が大好きだったの。大好き、大好き、って伝えて、グッズをいっぱい買って、映画も毎日観に行った。けど、私、知ってしまったから」
 彼女はか細い声で言った。
「求められないってつらいね」
 別に三次元の男がいいって話じゃないの。と彼女は付け足した。
「寂しかった、んだね」
 ごめんね、と私はつぶやいていた。
「謝ることないのに」
 よし、燃やそっか。と彼女はダンボールいっぱいの宝物を穴に放り込んだ。
 描き下ろしブロマイド、雑誌の切り抜き、ぬいぐるみ、ポスター、映画の半券、ノベルティのペーパー。
 コミカライズの漫画は墓標にするからと残した。
 恋の遺体で焼いた芋は、遺骨ほど乾いていなくて甘かった。
 私は大丈夫だよ。
 だってあなたに求められていないから。
 さみしいなんて、分からないよ。

火葬場で焼く芋は

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火葬場で焼く芋は

恋の遺体で焼いた芋は乾いてなくて甘かった。

  • 小説
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更新日
登録日 2020-05-17

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