【鯉月】カラフル

しずよ

二次創作(腐)につきご注意ください。
3月8日 TOKYO FES Mar.2020 黄金暗号8 鯉登音之進×月島基プチオンリー 少尉殿につきっきりで無料配布する予定だったペーパーの転生パロ話です。鯉登くんが花言葉アプリのカメラ機能で月島さんを撮り続けるのですが、どういう法則で花が一緒に写るのか不明なまま、やがてアプリが配信終了するお知らせが届きます。

「そんなに写真に細工するくらいなら、一緒に写真撮影したいと中尉殿におっしゃったらどうですか」
 月島が鯉登に渡した鶴見の写真に、自分の切り抜いた顔写真を貼り付けているので、呆れた顔で見る。
「一緒にって、そうは言っても月島ァ、何もないのに私からお願いなどできる訳ないだろう! そもそも、お前のこの写真はいつ撮影したのだ?」
 月島が鶴見と一緒に写る写真を指す。鶴見の顔に傷跡がないと、それだけでも時間の経過をそれなりに感じる一枚である。
「ああ、えっと……、日露戦役の前です」
「だろう? 出征するとなるとお願いもできようが……」
 そして「早くまた戦争が起こらないものだろうか」と続けようかと思ったが、それを聞くたびに、月島はすべての感情を放棄したような顔をするので、今日は違うことを言って驚かせてやろうと思った。
「ではまず、月島と私とで一緒に写真撮影しようではないか!」
 我ながら画期的な発言だと思った。が、月島は「はあ?」とひとこと大きな声を発したあと、盛大にため息をついた。
「………ん、鯉登さん」
「……」
「目が覚めましたか」
「……うん」
 鯉登は何度か目を瞬かせる。まぶしい。
「月島ァ」
「なんでしょう」
「さっき私のことを『鯉登さん』って呼んでなかったか?」
「いつも呼んでるじゃないですか」
 月島はしばらく鯉登の顔を見つめる。それから「ああ」と得心した顔をした。
「また夢の中で少尉殿になっていましたか。どおりでうなされていたわけだ」
 月島はすっと指を伸ばして、鯉登の眉間に触れた。
「そんなにしかめ面してると、本当のシワになりますよ」
……今回はうなされていたんじゃないんだ月島ぁん。お前がため息ばかりつくから、幸せが逃げるぞと忠告しようと思ったのだ。しかし鯉登はその言葉は引っ込めた。
「当機はまもなく着陸態勢に入ります。どうぞ皆様、いま一度安全ベルトをお確かめください。客室乗務員も安全のため着席いたします。ただいまを持ちまして機内サービスを終了させていただきます。またこれより先の化粧室のご利用はご遠慮下さい」
 機内のアナウンスが流れた。歳月は過ぎ行き、元号は明治から数えて四つ目となった。鹿児島空港からバスに乗り、J   R鹿児島駅前に到着する。そこからタクシーで今夜宿泊するホテルに向かう。二人が到着した時刻はフロントがチェックインする客で混雑していたので、ラウンジでしばらく待つ。
「そういえばあの頃も嫌がる月島を伴って、鹿児島の友人の結婚式と披露宴に出席したな」
「あなた、私が嫌なの知ってて連れて行ったんですか」
「うん、知ってたぞ。百十年後に真実を知ることになるとは思いもよらなかっただろう!」
 鯉登が得意げに告白すると、月島はいつもの無表情に輪をかけた顔をした。
――そういえば、その時は式の後の集合記念写真に、月島は遠慮して入らなかったな。
だからその撮影後、披露宴が始まる前に鯉登は写真館の主人に頼んで、一枚だけ撮影してもらった。月島に芍薬の花束を持たせると「何ですかこれは」と至極不可解そうな表情を作った。懐かしい。
「あの時に撮ってもらった写真は、もしかしたら市内の祖父の家にあるかもしれない。明日、帰りに寄ってみよう」
 鯉登が提案すると月島は驚いた。
「家系図を見せてもらった時にも驚きましたが、あなたのお宅のように連綿と続いている家ってすごいですね」
 月島が鯉登の家柄をそんな風に思っていたとは初耳で、どことなく照れてしまって鯉登は話題をそらした。
「ところで月島はこのアプリを知っているか?」
「え、何です?」
 鯉登が差し出すスマホの画面には、桜色をした花の中央に「花言葉」と書かれた可憐なアイコンがあった。一見すると、二十代の男が積極的に使うようなアプリには見えない。
「花言葉を調べるアプリですか?」
「いや、それだけではないぞ。例えばもらった花束に知らない花があるとするだろう? そういう時はな」
 鯉登はそこで言葉を切り、ロビーに生けられた花にスマホを向けた。カシャ、と一枚撮影する。するとアプリ内にある花辞典に、撮影した花が載る仕組みとなっていた。
「こんなふうに実際に撮った花の名前が分かるのだ」
 だから収集癖のある人々は、花を集めたがったという。それからもうひとつ、写真撮影に際して不可思議な出来事があった。人を撮影すると花が自動的に一緒に映る仕組みなのだが、何の花が写るのか、よく分からないのだ。
 それでインスタやツイッター等でタグが作られ、様々な考察がなされた。有名な観光地や個人宅ではチューリップや朝顔やひまわり等よく見られる花が写る。そして多くの人が撮影しない思いがけない場所で珍しい花が写った。
『月下美人が写りました!』との投稿に、一万いいねが付けられる。だから×ケ×ン×Oみたいに、撮影場所が関係しているのかと思われた。しかしその後、ごく普通の児童公園でも、葉脈だけという珍しい花が写り込む事例も投稿された。
法則を解明したいヘビーユーザーがいる一方で、離れるユーザーも出始めた。というのは花の写り方に問題があるのだ。被写体に華を添える感じなら良かったのだが、人物や風景が完全に花に隠れてしまう場合があった。それとは逆に、地面に打ち捨てられたような一輪の場合があり、それは写真をうすら寂しくした。扱いづらいアプリだ。そう思う利用者が増えてきたのか、次第に花言葉アプリの話題は少なくなっていった。それに、利用者最大の疑問――どういう法則で花が写るのか、に関しては、アプリの製作者が一切質問に答えなかった。

「月島」
――カシャリ。鯉登がまた撮影した。
「あなた、なかなか飽きませんね」
 思い返せば昨年などは「私に花は似合いませんよ」と、月島はやんわりとお断りしていたのだが「どんな花が写るのか楽しみなんだ。協力してくれ」とお願いされたら、無下にできなかった。鯉登はすぐさま写真を確認している。
「おお、今日は桜だ! 眼鏡をかけて本を読む月島と桜の花。いい組み合わせじゃないか」
 鯉登は眩しい笑顔を向ける。二人が共に暮らすマンション近くの喫茶店で、ふたりでコーヒーを飲んでいる時だった。
 月島は思い切って尋ねてみた。
「鯉登さん、これまでどんな花が写っていましたか?」
 すると鯉登は目を丸くする。それもそうだろう。今まではどんなに「見てみろ、いい写真だぞ」とすすめられても、月島は見る気になれなかったのだ。
「ほら、さっきの写真がこれだ」
 月島が鯉登のスマホを覗き込むと、本を読む自分の席の後ろに満開の桜の木が写っている。喫茶店の中だから妙な感じもするが、絵本の中の一場面のように微笑ましいシュールさもある。確かに、これなら悪くはない。
 月島は写真フォルダをさかのぼる。それは昨年三月から始まっていた。お花見の写真なのに、桜の木の根本に群生するスイートピー。ゴールデンウィークに宿泊した山梨の温泉旅館で、浴衣姿の自分の足元にススキ。そして鯉登の幼馴染の結婚式では、控室で桜茶を飲む自分とかすみ草。
それからお盆の帰省やクリスマス、初詣にバレンタインデー。
 撮影したのはこれらの主だった年中行事だけはなく、家の中で過ごしている様子を撮ったものが一番多かった。夕食を作っている最中の自分と、シンク横に咲くスミレ。ベランダでタバコを吸う自分の足元に、まるで花壇でもあるかのように咲くパンジー。それから福寿草の咲くベッドに裸で眠る自分の写真を見つけて、月島は心臓が飛び出そうになった。見えているのは胸元とつま先だが、雰囲気が明らかに事後だと分かる写真だ。
「鯉登さん……、これ消しますよ」
「いやいや待て! 貴重な写真……、あっ!」
 月島はすぐさま削除して、ゴミ箱フォルダも空にした。
「容赦ないな……」
 鯉登がしょんぼりとしている。
あやしげな一枚はともかく、それらを見て月島は感慨深くなってしまった。これまでは誰かが「いい思い出になった」と言う意味が分からなかった。
人生とは、時間が過ぎ去るのをただひたすら待ち、それを死ぬまで続けるものだと思っていたからだ。
 オレの時間が見える。しかも、あたたかさやにおいや音を伴って。それは目の前のこの人がいつもオレを見ていて撮ってくれたからだ。胸の奥にじわりとわきあがるこの気持ちを、鯉登にも返したい。月島はそう決心して、自分もこれから鯉登を撮影しようと思った。

 そんな折、アプリ開発会社からユーザーへ「花言葉アプリ配信終了のお知らせ」メールが届いた。
『いつも花言葉アプリをご利用いただき、誠にありがとうございます。このたび令和二年三月末日をもちまして、アプリの提供ならびにサポートを終了いたします。何卒ご理解の程よろしくお願い申し上げます』
「ないごて……」
 鯉登は落ち込んだ。しかし無料アプリは元来そういうものだ。寂しい気持ちを振り切り、鯉登はその会社へ感謝のメールを送ることにした。これまでこんなことをしたことはなかったが、このアプリのおかげで月島が漫然と抱えている厭世観のようなものが、薄まった気がしたからだ。
 メール送信の翌日、アプリ製作者からなんと返事が届いた。
『これまでスマートフォンアプリ・花言葉をご利用くださり誠に感謝いたします。弊社では数年前から生体情報を分析する研究を進めて参りました。簡潔に申しますと『感情を可視化』する技術です。それは昨今の働き方改革による企業様からの要請によるものでした。従業員の皆様のメンタルヘルスチェックに、弊社が開発した感情分析技術が、来月から複数の企業様において導入される運びとなりました。花言葉アプリは、そのアルゴリズムを組み込んだ試験的アプリだったのです。種明かしをすると、被写体となった方の感情を花言葉で、その気持ちの強さを花の数で表現しました』
 鯉登はそれを読んだ直後に写真を見返した。あれだ、あの、月島が花にうずもれた一枚が確かあった。誰が写っているのか分からないから、すぐに消そうと思ったのだ。でも結局、うずもれる理由が分かるまで残しておいた。月島の、これほど大きな気持ちの正体は果たして。
「……あった」
 画面いっぱいに、細長くとがった黄色い花弁にうずもれた月島がいた。花と花のわずかな隙間から、短い髪とソファーがかろうじて見える。日曜日の昼食の後、月島がうとうとし始めた直後に撮影したものだった。
 最初に見た時これはユリだと思ったが、本当にそうなのか? 鯉登は画像検索した。すると、それはアングレカムというランの一種で、花言葉は――。
「いつまでもあなたと一緒。……月島!」
 鯉登は月島を呼ぶ。いますぐ抱きしめて、今のこの気持ちを伝えなければ後悔すると思った。
〈了〉

【鯉月】カラフル

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  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
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