これから僕は嘘をつく。今から僕がする話は、嘘の話なのだから何も考えずに読んでくれ。

この話の主人公は女の子だ。名前は高坂彩乃、高校生の彼女は小学校から吹奏楽部で小中高の青春の大半を部活に注ぎ込んだ。部活を引退した後は、県内の国立大学へ進学する為に塾へ通って勉強に精を出していた。そんな彼女に事件が起こったのは高校三年生の冬の頃。受験が近づき、塾への滞在時間が延びてきて家に帰るのが遅くなった十二月のある日。その日は塾の後、友達とファミレスでお喋り半分の勉強会をしていた。塾である程度勉強しているのでその後集まってしまうと集中力が持たない。受験生だということで一応勉強もしていたが、その日も雑談に花が咲き誇り、一二時を過ぎたあたりで家に着いた。最近はこの時間に帰ることも多く、家族はみんな寝静まっていた。ただ、いつもと違うことがあった。家の鍵が開いていたのだ。そして、リビングについた彼女は実感の無いまま警察へ電話をかける。こういう場合110か119かどっちに先に連絡するのが良いのだろうか?恐らくだが、素人目だが血の海にいる両親はもう死んでいる。もちろん彼女としては生きていてほしいのだろうが生物的本能が死んでいると教えてくれている。そして彼女は現実から逃げるために外に出ようとした。

 さて、いかがだっただろうか。僕の嘘の話。もちろん、君は理解してくれただろう。では、ここからは本当の話をしよう。嘘偽りの無いただの本当の話を。

 この話の主人公は僕だ。名前は渡辺俊。高校生の僕は学校の人気者とまではいわないが、スクールカーストでは良い方にいる。バスケ部として青春をした後、受験モードに入り苦手な勉強に励んだ。大学に行きたい理由なんて大して無いが、彼女と同じ大学に行きたいから勉強を頑張る。彼女にとってはあんまり難しい受験ではないが、僕にとっては結構厳しい。同じ塾に通い、終わった後は良くファミレスなどでお喋りをした。そして、同じ大学に受験し、彼女は余裕で僕はギリギリ合格する。大学生活は喧嘩もしながら結局は仲良く進んでいき、就職はどちらも東京に決まった。数年後、僕は彼女に精一杯ドラマチックにプロポーズをしてOKをもらって結婚した。そして遂に第一子を授かり、無事に男の子が生まれ、新しい家族が増えた。このまま幸せがいつまでも続けば良いと思う。

 めでたしめでたし。本当の話なんてつまらないものだ。事実は小説よりも奇なりと言うが、そんなことは滅多に無いと思う。どちらの話の方があなたにとって面白かっただろうか。もちろん僕は二番目の話の方が好きだ。救いがないところが素晴らしい。もしかしたら、この話自体が救いなのかもしれないが、それが最も救いようがないところだ。そう思うだろう?さて、そろそろ僕は言いたいことが無くなってきたので筆を置く。付き合ってくれてありがとう。最後に僕が何を伝えたかったかというと、嘘の嘘は本当では無いかもしれないということ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-16

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