随筆:「記憶の宝石」

随筆:「記憶の宝石」

生活音が響き、足音が残った場所

ひとつめの宝石 -送るはずだったメール-

ひとつめの宝石 -送るはずだったメール-

失くしたものが見つかったら

失くした場所から、やり直せるかもしれない



34歳の手前、突然に居場所を失った
自己都合の退職だから、私の意志ではあった
だけど、本意なことではなかった
社内恋愛での恋のもつれ
お互いを信じられなくなった
いや、間にあるものが多く、かさばってしまい
見えなくなってしまったんだ

趣味は合わなかった
お互いが過ごした時間も違った
接点は少なかった
でも、好きになった

特別な美人ではない
だけど、愛嬌のある、とても惹かれるものがあった

なんで失くしてしまったんだろう?
お互いが、お互いを好きな気持ち
弱い部分を好きになれたら、きっと変わったんだろう

スマートフォンを手に取るーーあの時、送るはずだったメールを探す

覚えているかな?
忘れてしまっただろうか
最後に見たのは、いつだったかな
目を合わせたのは…もっと前だね
声が聞きたくなったんだ

チャンスをくれないか?
なんて今さら、言ってもどうだろうか
最後に送ったメールは、あっさりとしていたね
止まってしまった時間から…少しも進んでいない
もう一度、声が聞きたくなったんだ

元に戻すのが難しいのなら、壊れてしまったほうが良い
そう思って、あれから生きてきた
思い出すたびに、忘れようと
違うことを、違う世界を
別な考え方で、きみを解釈できたなら

大雨の日には、きみが心配になる
寂しいのは僕だと思う
きみが無事でいればそれで良い

どうしても捨てられなくて
今では、ホコリを被ってしまったけど


あの時、送るはずだった
覚えているかな?
忘れてしまっただろうか
最後に見たのは、いつだったかな
目を合わせたのは…もっと前だね
声が聞きたくなったんだ

チャンスをくれないか?
なんて今さら、言ってもどうだろうか
最後に送ったメールは、あっさりとしていたね
止まってしまった時間から…少しも進んでいない
もう一度、声が聞きたくなったんだ

元に戻すのが難しいのなら、壊れてしまったほうが良い
そう思って、あれから生きてきた
思い出すたびに、忘れようと
違うことを、違う世界を
別な考え方で、きみを解釈できたなら

大雨の日には、きみが心配になる
寂しいのは僕だと思う
きみが無事でいればそれで良い

どうしても捨てられなくて
今では、ホコリを被ってしまったけど

ふたつめの宝石 -欠けていた爪が治ったら-

ふたつめの宝石 -欠けていた爪が治ったら-

仕事柄、爪がよく割れる
割れるというのか、ヒビが入って、そこから、割れる
何度も繰り返す


爪が治ったら、またギターを弾こうと思っていた

仕事を辞めた
時間が空き
ヒビが入りやすく、弱くなってた爪が治った
思い出しながら、爪を削る


何度も、何度も、与え続けてきた
私が支払える対価は優しさ
優しくすることだけ
いや、意見も言ったさ
歩み寄るための
価値観をすり合わせるために
近づこうとする努力をした
相手が悪かったのさ

与え、与え、与え続けてきた
受け取ったものが分からない
見合うだけの対価が分からない
私は時間をしらみ潰しにして、彼女を愛したのか

愕然と、失望し
なぜなら、愛したから
真実のように、愛したから


痛みが残った
失恋は何度目かな
私の想いは空回りする
失ってばかりだ
もう、馬鹿馬鹿しくなって
疲れたよ


おかしいな
真剣に、いつも、愛したのに

還ってくるものなど、何もないのか?

私の人生は?


誰か、誰かを欠いて
痛みが遺る


泣く力も失って
疲労が遺る

どんな調子かい?


失恋した時に聴いていたCDがある
恋に裏切られた男の物語
また聴くことになるなんてね

仕事柄、爪がよく割れる
割れるというのか、ヒビが入って、そこから、割れる
何度も繰り返す
   -エルヴィス・コステロの“painted from memory”-

みっつめの宝石 -眼鏡の柄-

みっつめの宝石 -眼鏡の柄-

眼鏡の柄が、折れていた。
調べたところ、修復できるタイプのものではない。

少し珍しいものを買うと、取り返しがつかないことがある。

だけれど、ありがたいことに免許証では、裸眼でもぎりぎり。
車が運転できる。だけれど、

 裸眼で 物事を 視る ようにと

眼鏡の柄が物語るーー


「誰かを傷つけるかもしれないよ
 今は、裸眼でボヤけて視えるものを
 大切にしようよ」
 

『緊急事態宣言』

窓越しの昼
太陽が一番、高いところで
窓を開けて、外の空気を取り込んだ
また、外に出れなくなったんだ

部屋の中に居るのは
飽きているのに
いつになったら

うつむいていたら
悪い考えばかり
顔を上げても
いつもと変わらず

眼鏡の柄が物語るーー

「自分の運命に負けないで
 たぶん、日常に居るということが
 夢の中にリビングを作るようなもの。」


物事がきみを囲い始め
苦しめ、貶めるとき

眼鏡の柄が物語るーー
      裸眼で 物事を 視る ようにと

随筆:「記憶の宝石」

ただ、既視感ではなく 脳裏に 失っていなかったこと 宝石のように

随筆:「記憶の宝石」

記憶 生活音 足音 場所 既視感 宝石

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-16

Copyrighted
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  1. ひとつめの宝石 -送るはずだったメール-
  2. ふたつめの宝石 -欠けていた爪が治ったら-
  3. みっつめの宝石 -眼鏡の柄-