海と泥
海
ねえ、ずっと覚えていよう
この先は見渡す限り海だったこと
おびただしい命を飲み込んで
水面は鈍くたゆたっている
長く尾を引く飛行機雲と
空を満たした光の果てを
覚えていよう、声が枯れても
叫び続けた誰かの姿
覚えていよう、今はもうない
憩いがそこにはあったはずだと
いつか、いつかを重ねつつ
絶えてしまった呼吸を求め
寄せては返す波の温度に
砂にまみれた足を浸した
泥
視野はとっくに海霧の森
灯台、星も瞬きはせず
呼吸におびえる波涛へと
暗澹たる船を出そう
行き着く先が憂愁の浜辺ならば
何がこの櫂を動かすのか
貝類の這う泥をめがけて
生贄として詩片を投げる
海と泥