いつも通りの日常に、ちょっとしたスパイスを

斬戸零也(小説家になろうでも同名で活動中)

学校の帰りに

僕の名前は六間日立。北海道第二の都市旭川に住む、将来の展望が多少見えている高校二年生。そうは言っても、他人よりちょっと手先が器用だから、技術系の大学に進みたいなと思っているだけ。そんな僕が、今、救急車に乗って、見知らぬ女性を心配そうに見ている。
何故そうなったのか、話そうと思う。

今日は学校が早く終わったから、さっさと家に帰ろうとしていた。まぁ、途中まで親友の俊と一緒だったけど。他愛のない話をして、交差点でいつも通り解散。さて、ここを曲がれば家に着くぞ、なんて思ったら、一瞬前に僕を追い抜かした自転車が、空に跳ねた。自分が跳ねたわけでもないのに、脳の処理スピードが上がる。跳ねた自転車の主は、緑がかった茶髪を短く揃えた女性で、綺麗だと思った。その人が今、目の前で仰向けになり、目を閉じている。髪の一部がゆっくり、確実に、染布のように赤く染まっていく。
「だ、大丈夫ですか!?」
んな訳ねぇだろ、頭から血を流してるんだぞ?
えーと、まずするべきは…あ、そうだ!救急車だ!
「早く呼ばないと…」
急ぎスマートフォンで119をダイヤルする。コール音が鳴っている間に女性を見てみると、一瞬だけ、不思議なものが見えた。
「え、これ…猫の…耳……?」
目を擦ってからもう一度見る。すると、もう無かった。
「また霊的な物なのか…でも、なんでこの人に…?」
僕は生まれつき右目が無い。そのため、義眼をはめている。黒いガラスでできた義眼で、これを着けるようになってから、普通は見え無いモノが時々見えるようになった。
まぁ、そんな話はどうでも良い。
繋がった電話に極力落ち着いて応答する。
暫くすると、規則的なサイレンの音が二種類。パトカーと救急車だ。僕はパトカーに乗せられて事情聴取かな、と思っていたが、予想に反して救急車に乗った。いや、救急救命士の手によって乗せられた。
なんで僕が赤の他人と救急車に…そう思っていても、やはりこの女性が心配だった。

一度家に帰ることにした。制服のままでいるのはなんとなく嫌だというのもあるし、明日は日曜日で学校が休みだから、帰りが遅くなっても良いのだ。それに、僕が丸一日病院にいたとしても、心配する家族は、誰もいない。両親は、半年前に死んだ。それ以来家には一人で住んでいる。交通事故に巻き込まれて死んだらしい。喪主は、当然僕だった。彼女を放っておけなかったのは、半年前に交通事故で親を亡くしたからだろうか。
誰もいない家の玄関を無言で開け、手を洗い、着替えて、昼食を取る。土曜日の学校は午前中で終わるので、昼食を自分で作らなくてはいけない。
諸々の支度を終えて、自転車で旭川医大までとばす。日赤だったら、時間がかかっていたかもしれない。駆け足気味で手術室の前に着いて周囲を見渡すと、あることに気付いてしまった。
「あれ、何であの人の身内的な人がいないんだろ…僕だけしかいないじゃないか。」
手術室の前で待つこと一時間、突然[手術室中]のランプが落ち、手術室の扉が開いた。
…………手術が終わったのか…?心拍を示す機械の液晶は、拍動を波として絶え間なく刻み込んでいく。
「よかった、無事に終わったんだぁ…」
一人胸をなでおろすと、白衣姿の医師が一人、スーツ姿の男性(きっと警察官)が一人、立っていた。
「君が、六間君だね?」
「は、はい。僕がそうです。」
スーツ姿の男性の質問に答える。答えると、向こう二人で顔を見合わせた。今度は、医師から色々と言われた。
「君のことを、隣にいる警察の方と一緒に調べさせてもらったよ。君は今、一人暮らし中だね?」
「はい、両親は半年前に死んだので…それ以来、『交通遺児の為の支援金』を受領しています。」
てか、やっぱり警察だったのか。
「出る金額はわかってるよね?二人暮しくらいならできるはずだね。」
そんなことも調べんの?警察って怖いなぁ…
「はい、それが…何か?」
「先程まで手術をしていた女性の名前は猫目金華という名前なんだけど、彼女も身寄りがないんだよね。君は素行が良いようだし、近所の人からの評判もいいと聞いたよ。」
え、僕って近所の人からの評判良いんだ。そんな事実に浮かれながらも、少しだけ考える。この後何と言われるのか。…………あ、まさか
「もしかして、僕の家にあの人が来るってこと………ですか?」

彼女、猫目金華さんの病室は、個室だった。金華さんは2週間程度の入院が必要らしい。僕は金華さんの看病をすることにした。そこで、学校に連絡をする。
「もしもし、二年六組の六間日立です。木葉先生はいらっしゃいますか?」
『はい、暫くお待ちください。』
保留音の間に金華さんの顔を見る。キレイな顔立ちをしていて、目を閉じたその顔は、涼やかだ。
ーーープッ『はい、木葉です。六間君?』
「もしもし、先生?今日は。」
『おぉ、今日は。何か用かい?』
「はい。2週間分の単位…免除してもらえませんか?」
『…………理由は?』
「目の前で事故に遭った女性の看病です。」
『うーーん…わかった。2週間経って戻ってこなきゃ、単位全部落とすからな?』
「は…ハイ…気をつけます…」
『じゃ、2週間後な。』
ーーーーーーーープツッ ツー、ツー、ツー
やっべぇ、めちゃくちゃ頑張らなきゃ…それと、俊にも連絡しなきゃいけない。
「もしもし、俊?今暇k
『おいおいおい!日立、お前事故って手術したって本当か??!?!』

「あー…面倒くせぇことになった…」
何ということか…あいつ有ろう事か俺が事故ったと勘違いしやがってた…説明に30分かかった。疲れた脳で指に通話を切断させる。疲れて仕方がない。
「あー…バックの中…飴…飴…飴…」
パイナップルの飴が2つ。1つは自分用で、もう一つは金華さんが起きたときに渡す用だ。
包み紙を開け、飴を口に放り込む。そして寝顔を見る。
「この髪の色、何色って言うんだろ。緑がかった茶色…オリーブ色とも違うんだよな…」
申し訳ないとは思いつつ、少し髪に触れる。サラサラしていながら、しっとりしている。
「ん…んぅ?あれ、君は誰?」
ガタンッガタガタッドサッ
「ッつう…いてててて…」
「あ、驚かせちゃったネ…初めまして、私h
「猫目金華さん、ですよね?」
じんじんと痛む頭を手で抑えながら、名前を言ってみせる。彼女は狐につままれたような顔をしている(僕だって猫につままれたような気分だ)。
金華さんに対しても、俊にしたような説明をした。途中で飴を勧めると、特に警戒するでもなく、何でもない様子で食べた。
そして、「思ってたより酸っぱいね。」と言った。

「つまり、私はお昼頃に車と接触事故を起こして、偶然近くにいた君が呼んだ救急車に乗って緊急搬送。手術で頭の傷を縫って、この病室で君と二人……こんな感じ?」
「はい、まとめたらだいたいそんな感じです。」
その後、一緒に暮らす事になるという旨を伝えると、一瞬驚いたような顔をし、
「じゃあ、私は六間君の朝ご飯を作って学校に行く君を見送って、諸々の家事をしたあとに晩御飯を作っておく…そういうことだよね。」
「あ、はい。飲み込み早いですね。」
少し得意げな表情を見せたが、何かに気付いたような顔をして、それから少し申し訳なさそうな顔をした。
「でも、二週間はここから出れないや…」
「大丈夫です。その間の単位は免除してもらえました。」
「………頭、いいんだね。」
……………何だろう、凄く照れる。
「あ、ありがとうございます…」


ある一日の、不思議な出来事だ。

いつも通りの日常に、ちょっとしたスパイスを

六間日立

珍しい事に、高二に進級しても一人称が『僕』のまま。誰に対しても気兼ねなく接する好青年で、女子ウケも良い方。手先が器用で、細かい作業も得意だが、年相応の力もある。
右目を髪で隠しているが、それは生まれつき右目がなく、黒ガラスの義眼をしている事をコンプレックスにしているから。この事を知っているのは、担任教諭の木葉先生と、八原俊、龍華雪菜のみ(後に金華も知ることになる)。両目とも見えていて、時折霊的なものが見える。


猫目金華

訳あって六間と同居している。
猫をそのまま人にしたような性格で、料理が得意。


八原俊

日立の親友。哲学的な面があるが、ゲーマーでもある。日立の良き理解者で、相談相手。眼鏡をかけている。

いつも通りの日常に、ちょっとしたスパイスを

目の前で起きた交通事故。 偶然その場に居合わせた僕、「六間日立」は、事故に遭った女性、「猫目金華」と同居することになる。 一つの事故が結ぶ、本来なら出逢うはずのない二人と、彼等を取り巻く友人たちを描く。 この小説に登場する地名は実際に存在する地名ですが、登場人物は現実とは一切関係ありません。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-05-16

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