二十時のゆめうつつ

 すこしだけゆめをみていた。秒針の音。二十時。
 ひっそりとしのびこんだすずしげな夜。冷えた足先。水滴まみれのコップ。窓を閉める。カーテンは、いつも閉めている。
 どんな月の夜にも、この窓から月はみえない。
 近くにあるとか、ずっとあるとか、いわれても、みるには、むきあうには、いつもたりない。
 ほら、中古の望遠鏡が、埃をかぶっている。窓辺に行くまでに、歩かなくっちゃならない。八畳は、せまくて、ひろい。テレビのリモコンは、のばした腕のその三センチむこう。
 ね、たりない。
 なんのゆめだって、話すには信頼がいる。そんなゆめはうそでしょうって、いわれたく、ない。
 くり返しみるのは、だれのものだか考えたくない背中に手を振るのとか、やめた部活を続けているのとか、そんなのばっかりで、ゆめのなかでだって、ゆめはみれない。
 無謀なゆめ、恋、ぜんぶ、もう、遅い。
 だんごむしに触るくらいの無邪気さで、触れるには、壊れやすいものたちと、公転軌道をぐるぐるまわる、触れたくってたまらない月、いちばん近くにある星、それでもほら、一生、触れあえないままだ。

二十時のゆめうつつ

二十時のゆめうつつ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-13

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND