二十時のゆめうつつ
すこしだけゆめをみていた。秒針の音。二十時。
ひっそりとしのびこんだすずしげな夜。冷えた足先。水滴まみれのコップ。窓を閉める。カーテンは、いつも閉めている。
どんな月の夜にも、この窓から月はみえない。
近くにあるとか、ずっとあるとか、いわれても、みるには、むきあうには、いつもたりない。
ほら、中古の望遠鏡が、埃をかぶっている。窓辺に行くまでに、歩かなくっちゃならない。八畳は、せまくて、ひろい。テレビのリモコンは、のばした腕のその三センチむこう。
ね、たりない。
なんのゆめだって、話すには信頼がいる。そんなゆめはうそでしょうって、いわれたく、ない。
くり返しみるのは、だれのものだか考えたくない背中に手を振るのとか、やめた部活を続けているのとか、そんなのばっかりで、ゆめのなかでだって、ゆめはみれない。
無謀なゆめ、恋、ぜんぶ、もう、遅い。
だんごむしに触るくらいの無邪気さで、触れるには、壊れやすいものたちと、公転軌道をぐるぐるまわる、触れたくってたまらない月、いちばん近くにある星、それでもほら、一生、触れあえないままだ。
二十時のゆめうつつ