やさしくなれる砂糖菓子

 ねこが、やさしくなれる砂糖菓子を売ってくれる、午前一時の、さびれたラブホテルと、占い小屋のあいだの、路地に、ねこはいて、きみが、それを買ったというので、わたしはすこしだけ、ばかじゃないの、と思った。
 どうしようもないくらい、眠かったんだよ、きっと。
 やさしくなれる砂糖菓子は、なみだの形をしていて、色は白や、赤や、黄色があって、青はなくて(なみだの形なのに)、値段はひとによって異なる、とのこと。五千円だった、と、きみは云って、それって、いわゆるところの、詐欺、なのでは、と思ったけれど、でも、実際にわたし、やさしくなったよ、と、きみはおだやかな笑みをたたえるので、ほんものかもしれない、と思ったし、ただの思い込みでは、と半信半疑であった。高速道路では、いつも、夜のバケモノが歩き回り、花を落としてゆくので、車が通過するたびに、花びらが散り、舞い上がった。いまの季節ならば、バラ。
 真夜中のクリームソーダに、ときどき、目に見えないくらい小さな星が、まじっていることを、わたしたちは知っている。くちのなかで、星ははじける。ちょっと刺激的。やさしくなれる砂糖菓子を売っているねこは、キジトラ、という種類のねこらしい。砂糖菓子を買いにきたひとの、もともと持ち合わせている、やさしさの度合い、みたいなものをおしはかって、ねこは値段を決めるのだろうか。きみは、そんなまやかしのものなんてひつようないくらい、やさしいのに。からだのなかに、はじけてさらに細かくなった星が、ながれてゆく。

やさしくなれる砂糖菓子

やさしくなれる砂糖菓子

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-12

CC BY-NC-ND
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