アイスコーヒー、カレードリアと、カモミール

 ぬるっ、としたものは、真夜中のバケモノのからだだった。
 五月にして気温、三十三度、夏やん、とぼやくきみが、アイスコーヒーばかりを飲んでいる、十五時のファミレスで、冷房が効きすぎている気がする、と思いながら、あたたかいハーブティーを淹れる、ぼく。夜のバケモノと、朝のバケモノのあいだにいるのが、真夜中のバケモノで、彼のからだは、とにかく、ぬるっ、とした感触の、こう、ゼリー状のものに触れたような感じの、つまりは、なんともきもちのわるいものであり、けれど、ちょっと、クセになりそうな、そういう触り心地の、バケモノであった。グラスいっぱいに氷をいれて、なみなみと注いだアイスコーヒーを、がぶがぶと飲んでいるきみ曰く、真夜中のバケモノは、夜のあれより、朝のこれより、たまご一個分くらいにやさしい、そうで、その、意味のわからない例えに、ぼくはすこしだけ、あたまを抱えたけれど、けれど、実際に真夜中のバケモノは、ラブアンドピースよろしく、平和を愛する、おだやかなバケモノであって、夜の方が確かに、少々気性が荒く、朝の方がなるほど、やや気難しい面があるのだった。
 カモミールティーで、なんだか眠くなる、時間を持て余し気味の、午後。
 そういえば図書館に、本を返却に行かなければ。本屋にも行きたいなぁと思いながら、ガラスの急須のなかでちいさく踊っている茶葉を、じっと見つめる。やがて、踊り疲れて、静かになった彼らを、いたずらにもてあそぶように、お湯を注ぐ。真夜中のバケモノに抱かれているのが、いちばんきもちいかもしれない。そう言って、きみが、店員さんを呼ぶボタンを、ぽんっ、と押して、いそいそとやってきたウエイトレスさんに、カレードリアを注文した。
 バケモノたちは今頃、夢のなかである。

アイスコーヒー、カレードリアと、カモミール

アイスコーヒー、カレードリアと、カモミール

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-11

CC BY-NC-ND
原著作者の表示・非営利・改変禁止の条件で、作品の利用を許可します。

CC BY-NC-ND