色溢れる四季、淡い青春

桐谷 迅

  1. 拝啓、桜の花々が散り行く頃
  2. 純潔にも毒あり
  3. 永遠の愛は膨らみ始める
  4. また会う日を楽しみに
  5. 孤独の中、届かぬ祈り
  6. 真実の愛を、私を、忘れないで
  7. 花便りも届く今日この頃、どうか幸ありますように

拝啓、桜の花々が散り行く頃

 寒さに眠る季節も超え、一度全てに終止符が打たれていくこの時期。僕もまた自らの想いに終止符(ピリオド)を打とうとしていた。

 桜の雨の中、傘も差さずに歩いて行く。いつかの誰かさんと同じようにしてここを歩くなんて、僕も随分と彼女に影響されてしまったらしい。
 そんな事を思いながら、鞄から一つのキーホルダーを取り出す。その中には青い花が散りばめられていた。
 彼女からの最後の贈り物。

 この花って確か……。


勿忘草(わすれなぐさ)。花言葉は『私を忘れないで』」


 そんな事を最期に教えてくれたんだっけ。彼女の声を思い出すだけでも、不思議と胸が暖かくなった。

 全く、随分なロマンチストなことで。こんな小洒落(こじゃれ)たメッセージを残さなくても僕は忘れないと言うのに。

 差す陽光に目を細め、流るる水の音に耳を澄まし、時より髪を揺らす春風に想いを募らせた。

 あれからもう二年が経つのか。
 彼女の隣にいたその時ばかりは、一年、一ヶ月、一日、一時間、一分、一秒、一瞬、刹那の時間が、永遠の時の如く長く感じたと言うのに、今となってはそれもあっという間だった。

 僕らは否応なしに時の流れに流されてしまっている。多分、もう彼女が知ってる僕とは随分かけ離れてしまったのだろう。
 もしまた会うことが出来たのなら、伸びた身長、増えた体重、少し伸びた髭、大人びた顔立ち、その全てに驚かれてしまうに違いない。いや、それとも空の上から見てくれていて、全て知っているのだろうか。

 思う所は沢山ある。伝えたい事だって山の様にある。
 そんな事を頭で整理しながら、一歩、また一歩と歩んでいく。

 本当だったら、バイクで行った方が速いに決まっている。わざわざ、お昼前に家を出る必要だってなかった。
 でも、どうしてもあの日と同じ様にしたかった。特に、今年は桜の咲いている時期は短くなる分、壮大に咲き誇っているのだと言うのだから、余計にそうしたくなってしまったのだ。


「ねぇ、知ってる?」


 不意に蘇る声。
 ハッと周りを見渡してみると、『桜下橋(おうかばし)』と書かれた橋の(たもと)に寄りかかる影が視界に映る。だが、瞬きをしてみると、影は消えていってしまった。

 あぁそうだ、ここで一旦休憩したんだっけ。
 その時に、彼女は桜について一つ教えてくれた。


「桜の花言葉って『純潔』とか『美しい女性』なんだけどね、江戸時代までは『死』を象徴する花だったんだよ」


 そう言って浮かべた悪戯な笑みの奥に秘めた本当の表情があった。それはきっと、泣いていたんだ。まぁ、そんなことに気付いたところで今更なのだが。

 大きく息を吐くと、また一歩、一歩と踏み出した。
 足音は記憶と重なり、街の音は彼女の声に重なる。それでも、歩き続けた。

 気付けば、空は茜色を追い出す様に藍が迫って来ている。

 四つ目の橋の向こう。桜並木を外れ、すぐの場所。
 ここにやってくるのは、これで五回目だ。とは言うものの、一昨日に一度訪れたばかりなのだが。

 ここには至る所に、様々な形の石が沢山置いてある。
 その中で僕は、『宮下(みやした) 花奈(はな)之墓』と書かれた立派な石が置いてある前に立つ。まだ残る線香の香りが微かに漂い、左右には色鮮やかな菊の花々が供えられてある。

 ここは、彼女のお墓だ。
 僕自身、正直、こんなところで彼女が眠っているとは思ってない。だが、きっとここで言った言葉は届くのだろうと信じている。

 そして、ここにきた理由は、渡すものがあっただけである。
 一昨日は三回忌法要を行い、彼女に挨拶はしたのだが、その時に渡せなかった物があった。ただそれだけのために、こうしてきた。だが、それは僕らにとっては大切なことでもある。

 鞄から取り出した小瓶に組んできた水を入れ、そこに小さな花を挿す。そして、手を合わせ、目を瞑り、言葉を口に出す。
「返事はここに置いておきます」
 それだけで目を開き、荷物を拾い上げ、帰路に就いた。


 夕暮れに染まる彼女のお墓には小瓶に挿された胡蝶蘭(こちょうらん)の花が鮮やかに咲いていた。

純潔にも毒あり

 川の音が聞こえるこの小道は桜一色に染まっていた。雲一つない快晴の下に咲き誇る花々はとても美しい。その美しさと言えば、見るものを魅了し、時間さえも忘れさせてしまう程。まるで、桃源郷へ続く道にも思える。
 そんな風景の一瞬を切り取り、フィルムに収めていた。

 この春、僕は高校生になった。と言っても、入学式はつい数日前のこと。
 ここしばらくは、オリエンテーションやら説明やらばかりで、午前中には学校が終わってしまう。
 だから、こうして帰り際に制服のまま、そろそろ時期も終わる桜を撮りに来ていた。

 幾度も綺麗だと思う方にアングルを向け、シャッターを切っていたが、不意に吹いて来た風に少し手を止める。

「ねぇ、そこの君」

 風に乗って、飛んで来たかのような声に振り向く。

「知ってる? 桜の花にはね、毒があるんだよ」

 桜の雨の中、物思いに(ふけ)るように桜の木を見つめる少女が立っていた。春風に(なび)く透明な髪、白いレースのスカートは舞う花弁(はなびら)のように揺れている。
 彼女が持つ美しさは、桜そのものに感じた。

「美しく咲き誇るために、自分の根本にある小さな命を刈り取るって理由でね」

 そう言う彼女は、意味深げに呟く。
 つい、そんな様子に僕は、見惚れてしまっていた。

 勿論、彼女の正体なんぞ、この高校に通っていれば誰もが知っていることで、「貴女は誰?」なんて、聴くまでもない。

「宮下 花奈先輩、ですよね?」
「私のこと、知ってるの?」
「まぁ。同じ学校ですし」

 これだけの美人で、花に詳しく、淡いピンク色をした桜の髪飾りをしている人なんて、彼女の他で聞いたことはない。

 それにしても、実際に会ったのはこれが初めてだが、噂に違わぬ美人さに少しくらいは驚いている。ただ、さして態度に出すほどでもなかったが。

「君、名前は?」
高野(たかの) 光輔(こうすけ)です」
「光輔くんね。よろしく」

 そう言って、こちらに見せた笑顔はとても可愛くて、惹かれてしまった。大人な顔立ちなのに、浮かべるのは幼気(いとけ)ない笑顔。それは相対するものなのに、綺麗だった。

「ねぇ、今お花見してるんだけど、これも何かの縁だし、ついて来てよ」
「え? は?」
「ねぇ、ほら」
「ちょっと」

 彼女は急に近寄るや否や、僕の手を取り、(なか)ば強引に引っ張り、歩き出した。

 勿論、困惑や気後れこそはあったものの、別に悪い気はしない。むしろ、男子とすれば、それこそ願ってもいない絶好の好機に他ならないのだ。なんて、少しの下心も持ちながら、彼女の背後を歩き始める。

「クラスは?」
「一年四組です」
「へぇ、新入生か」
「はい」
「じゃあ、これから面白い高校生活が始まるんだね」
「まぁ」

 時折、通り過ぎる車の音に(さいな)まれながらも、花見をして行く。その内、気が付けば、彼女の速度にも慣れ、一緒に歩いていた。

「そのカメラ、写真部希望?」
「いや、取材、みたいなものです」
「取材? 何の?」
「絵です」
「ふーん。絵を描くんだ。じゃあ、美術部?」
「いえ、今のところ部活には入らない予定です」
「なのに、なんで写真なんか撮ってるの?」
「趣味です」
「へぇ。いい趣味してるね」

 それにしても、彼女は初対面である僕に対して、何の抵抗もなく話をしていく。
 何故だろう? そんな疑問は最初こそ抱いていたが、(しばら)くして仕舞えばどうでも良くなってしまっていた。

 それから、何気ない会話を交わしていくうちに、足並みは自然と揃っていた。
 時々、(かお)る春の花を横目に、色々なことを教えてくれる。花の色や芽吹く時期から花開く季節まで。それから、花言葉なんかも。

 そんなこんなで、いつの間にか時間は経っており、空も緋色に焼け始めていた。
 そんな時、彼女はふと足を止める。

「ねぇ、最初に言ったこと、覚えてる?」

 最初に言ったこと? 思い返してみるが、ついさっきのことだと言うのに、映像は浮かんで来るのだが、決して彼女の言葉だけ抜け落ちているように感じた。

「まぁ、そんなもんだよね」

 そんな彼女の顔には、呆れも失望も浮かんでいない。そこにあるのは、どこかやるせなさが()もった笑顔だけだ。

「あのね、こんな綺麗な桜の花にも毒があるの」

 そう言って、桜色の花風は二人の間を吹き抜けていく。

「綺麗な薔薇(ばら)の茎にはトゲがある様に、こんな綺麗な花弁一枚一枚にも毒があるんだよ」

 僕はまた、つい魅せられてしまった。
 淡々と並べていく言葉の裏にあるのは、何なのか。
 浮かんでいる表情の裏にあるのは、何なのか。
 美しい彼女の裏にあるのは、何なのか。

「それってさ、人間みたいじゃない?」

 哀愁(あいしゅう)に染まった声で、投げつけられる内なる想い。
 それがどんな意味を持っていたのかなんて、一瞬で理解出来てしまう。でも、僕は何も出来なかった。

「自分を綺麗に見せるために誰かを蹴飛ばして、自分を美しく見せるために誰かを踏み滲んで」

 込められているのは憎しみなんていう醜い感情ではない。誰かを恨むような目でも、誰かを嫌悪するような声音でもないのだ。
 何か、運命やこの世の摂理(せつり)そのものが間違っているとでも言いたげな様子だった。

「君は、どう思う?」
「僕は––––」

 それは、決して難しい話ではない。けど、簡単な答えなどどこにもない。
 ある種、迷いのような感情に押し潰されてしまった。

「無理に答えを出さなくて良いよ。けど、代わりにさ、最後まで付き合ってもらってもいい?」
「……はい」

 すると、彼女は淡いピンクの道を降りて、アスファルトの道を歩いていく。それに黙って僕はついて行った。

 少し進んだ所、そこにあったのはお寺だった。

 敷地に入り、本殿を通り過ぎた先、そこには小さな霊園がある。見えるのは、苦労なく数えられるほどの墓石。ただ、そこそこな良いものばかりが揃っていた。
 そのまま少し奥の方へと進んでいくと、彼女は立ち止まり、そこにある墓石を指差す。

「ここが私のお墓。死んじゃったら、ここに入ることになってるんだ」

 そこに刻まれているは、『宮下 花奈之墓』の一言。それを見た瞬間、息を飲んだ。その時の彼女の顔は強張っている。
 それは、もう死期が近いことを意味していると容易く察せてしまうのだ。
 詰まる息、流れる汗、全身を駆け巡る鳥肌。
 何故か、僕は軽く仰け反ってしまう。

「あのさ」

 絞り出した彼女の声にほんの少し驚くが、それでも向き合った。

「……出会っていきなりでびっくりしたよね。でも、一つお願いしたいの」

 止まる風、静寂な街、沈む太陽、迫る暗闇。

「私の最期の最後まででいいからさ」

 彼女の声色は澄んでいて、そして、真っ黒だった。

 恐怖。

 彼女の言の葉に込められた重みは、今までの何よりも辛く、苦しく、胸の奥を締め付けるような、そんなものだ。
 なのに、彼女の表情は––––。
 そんな様子に僕は、呆然としてしまっていた。

「……私と付き合ってくれないかな」

 でも、彼女の目に映るのは、細やかな希望。きっと、僕だ。
 何故だろうか。この人には、不思議と惹かれ、心を許してしまう。まだ、今日が初めて会った日だと言うのに。
 そして、彼女の細く透き通った腕、しなやかなで繊細な手を繋ぐ人が、どうしても僕でないといけない気がして。

「お願い、します」

 勿論、未だに整理が付くはずもない。あまりにもいきなり過ぎたのだ。
 それでも、奥底に秘めた心の叫びを聞いて(なお)、知らん振り出来るような強さも生憎と持ち合わせていない。
 何よりも、真直ぐな彼女の目は、僕しか見ていなかった。

 僕は……。
 僕は––––。

「よろしく、お願いします」

 そう言って、柔らかで、暖かい彼女の手を握った。
 逢魔時(おうまがとき)、揺れる陽光に包まれて結んだ僕らの仲。この出会いの最初。その全てが、何処へ向かい、どんな結末を迎えるのかを暗い影の中に示していた。

 散りばめられた、瞬く星々。浮かんでいる淡く、遠い月。風の赴くままに、何処へとも知らず流される雲。(くら)き夜中でも、鮮やかに咲き誇る桜。
 そんなものの下で、僕らの運命は回り始めた。



 翌日、彼女は学校で僕と接触し、以来、まるで僕の恋人のような振る舞いをした。だが、あくまで僕は彼女に合わせるだけ。
 彼女が「したい」ということに対して、それを手伝い、「やりたい」ということに対して、一緒にした。

 流石に定期試験があったり、彼女に至っては模試が立て込んでいるということもあり、幾度か離れる時期があった。ただ、それが功を奏したのか、距離感は縮まらず、また離れず、そこそこな距離感を保てている。
 こんな関係のまま、桜は緑色へと衣を変え、アヤメが咲く時期も過ぎ、気づいた頃には梅雨も明けていた。

永遠の愛は膨らみ始める

 木漏れ日がまだらに浮かぶこの小道は、日に日に高まる暑さを和らげてくれる。すぐ隣を流れる川のせせらぎは、鬱陶(うっとう)しい蝉の音を掻き消してくれていた。

「それで? 絵の進捗は?」
「まぁまぁ、ってところです」

 適当な会話を交えつつ、歩いていく。
 初めての期末テストという山場を越え、結果の返却も終わったこの頃は、午前中下校が大半となっていた。
 お陰で、先輩とこうして一緒に下校が出来る。まぁ、家は反対方向なのだが。

「あ、ツユクサだ」
「ツユクサ……って確か、“懐かしい関係”でしたっけ?」
「うん。ツユクサの花言葉だね。でも、まだ足りないなぁ」
「うっ、勉強不足でした……」

 最近、彼女と一緒にいるせいか、花に関心を持ち、色々調べてみたり、絵を描いたりしている。僕の机の上には、そうした植物図鑑や花言葉辞典が山積みとなっているのだ。

「ツユクサはね、葉っぱの上の水滴の“ (つゆ)”って言う字と、葉っぱの“草”って書くんだよ。その由来は、朝露を受けて花開き、昼になったら萎んじゃうからなんだよ」
「へぇ、なんか朝顔みたいですね」
「そうそう。英語なんかではディフラワーって呼ばれてるらしいよ」
「なるほど」

 そんな会話もちょくちょく挟みながら、さらに歩いていく。

「そう言えばさ、うちに来たことあったっけ?」
「いえ、ないです」
「そっか」

 唐突に言われた言葉に、思春期男子として一瞬ドキッとはした。だが、よくよく考えてみれば、彼女の家が植物園であってもおかしくない。
 ただ、いずれにせよ興味があるのは事実。

「じゃあ、折角だから来る?」
「はい」
「よしっ、じゃあ急ごうか」

 すると、悪戯な笑みを浮かべた先輩はちょっと駆け足で僕の先を行く。「早く早く」なんて僕を急かし、それに合わせて僕も駆け足で追いかけた。

 淡く青い空の下、緑の草木を揺らしながら吹き抜ける風。何本とある木の下、幾度と踏まれながらも凛と咲く野花。
 その全てを横目に、過ぎ行く時間に身を任せて、僕らは日常を満喫していた。
 永遠とないこの日常を。

「よ、よし、あともうちょい、だよ」

 先輩がそういう頃には、緑があまり見当たらない住宅街の一角に来ていた。ただ、時間も時間なだけあり、随分と静かだ。

「はぁ、はぁ、あ、あともう、ちょい……」
「ちょっ、一旦落ち着いて下さい」

 それにしても、はしゃぎ過ぎだ。先輩はものの見事に息が上がっている。
 まぁ、受験生にありがちな運動不足の解消としては良いのだろう。が、この人、自分の状況を分かっているのか、なんて心配になってしまう。
 肩を貸しつつ、進んで行くと、二車線もある少し大きな通りへと出た。

 そこを沿いながら、コンビニを横目に先へと進む。暫くしたところで、十字路の信号に引っ掛かり、行き交う車を見ながら待つ。
 その頃には、ある程度先輩の体力も戻ったらしく、いつも通りの笑顔を浮かべながら「ありがとう」なんて言って、僕の調子を狂わせる。

 坂を下ったところにある歩道橋を超え、小道に入っていった先。

「ふぅー、到着。ここが私の家」

 そう言って指を指したのは、焼けたような赤色をしたマンションだった。
 ざっと見て、八階建て。さして古そうには見えない。まぁ、交通の便があまり良くないことを除けば、いい物件と言えるようなところ。

「さ、早く」

 先輩は不意に僕の手を掴み、強引に引っ張っていく。まるで、出会ったあの日のように。
 連れられ、入り口を抜け、直ぐに左を曲がり、手前から三つ目のドアの前で止まる。
 そして、先輩はそのドアを開けると、「さぁさぁ、入って入って」と躊躇(ためら)いもさせてくれないまま、強引に押し込まれた。

「お、お邪魔します」

 靴を脱ぎ、廊下を抜け、リビングへと出た。

「今は親いないから、気楽に居てもらっていいよ」
「え? あ、はい」
「適当な椅子に座ってて貰って良い?」
「はい……」

 促されるまま、椅子に座るや否や、先輩は隣の部屋へと消えていってしまった。

 それにしても良い香りがする。
 多分、花の香りなんだろう。なんとなく、そんな感じがするのだ。まぁ、ただ勘というか、先輩の人柄から察しがつくというか。
 でも、女子の部屋っていい香りがするとかなんとかって、クラスの誰かが言っていたような……。

 なんて、考えているうちに、先輩はティーカップを二つ持ってきた。

「ねぇねぇ、ハーブティーって飲んだことある?」
「ハーブティー、ですか?」
「そう。カモミールとか、ラベンダーとか。聞いたことない?」
「いや、ありますけど……飲んだことはないですね」
「そっか、なら良かった」

 再び奥へと消えていったかと思えば、ティーポットを手にして、来た。
 そのまま、慣れた手つきで紅茶を入れ、テーブルの真ん中の籠からお菓子を幾つか摘み、小皿に移すと、僕の前に置いてくれた。

「ありがとうございます」
「良いよ良いよ、そんなに(かしこ)まらなくて」

 ティーカップから溢れ出す湯気は、顔の近くまで立ち昇る。
 ん?
 良い香り。
 突然、ほんの少し緊張していた体は和らぎ、とても落ち着く感覚に見舞われた。

「良い香りでしょ? なにせ、私が直接ブレンドしたんですから」
「へぇ、凄いですね」
「まぁね」

 ただ、僕に褒められたのが嬉しかったのか、割と熱いハーブティーを少し多めに口に含んでしまい、先輩は軽く悶絶(もんぜつ)してしまった。
 そんな様子につい笑ってしまう。

「ちょっ、笑わないでよ」
「ご、ごめんなさい」

 らしくなく照れている様子が可笑しく、また笑ってしまう。

「それで? もう期末テスト返ってきたんでしょ?」
「あ、あまり聞かないでください」
「全く……。絵が好きなのは分かるけどさぁ、勉強もしなきゃ」
「は、はい」

 そうして、お茶とお菓子は、いろんな話が飛び交っていく間にその量を減らし、気付けば、なくなっていた。

「って、もうこんな時間だね」

 時計の針を見てみると、十七時過ぎを指している。いつしか、この部屋も、茜色に夕焼けていた。

「あ、そうだ、見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「そうそう。ちょっと来て」

 手招きされるまま、ついていくと、小さい庭のような場所へと出た。

「これこれ」

 そう言って先輩が指を指したのは、花壇に咲く紫の花だった。
 綺麗に咲いている。葉っぱには日焼けが見当たらないし、花も小さくない。それに、雑草も生えておらず、どころか落ち葉のような物で土を覆いかぶせているようだ。
 凄い手入れだ。

「この花って」
桔梗(ききょう)だよ」
「でも、桔梗って、秋の花じゃないんですか?」
「まぁ、昔の野草はそうだったみたい。でも、今じゃあ初夏に花が開いて、夏を経た上で、秋に散るんだよ」
「そうなんですか」

 なんだか、鮮やかな紫が夕焼けに染まっている姿は美しく、軽く目を奪われてしまった。

「桔梗は英語でバルーンフラワー。その由来は––––お、あった。これだよ」

 指を指したのは、まだ(つぼみ)の桔梗の花。
 それは、花弁が分かれておらず、ピッタリとくっつき、まるで紫色をした風船のようだった。

「面白いでしょ?」
「はい」

 そこから、隣に植えてある紫陽花なんかも見て、先輩は色々物知りげに話していく。
 でも、そんなに悪い気はしない。
 むしろ、何故か、どうしても僕が側に居てあげないといけない気がする。
 そんな感覚だった。

「じゃあ、戻ろうか」
「はい」

 そして、また部屋へと戻ると、先輩は何か思い出したように別の部屋へと消えると、若干焦りながら出てきた。
 「はいこれ」なんて言いながら、僕の前に出したのは、しおりだった。

「私、押し花を趣味でやってて、折角だからあげる」
「良いんですか?」
「勿論」

 と、見てみると、紫色の花弁が綺麗に挿されている。この花って。

「桔梗の花。さっき話してなかったけど、花言葉は––––」
「“永遠の愛”ですよね」
「う、うん」
「まぁ、なんとなくそんな気はしてましたけど」
「なっ……。うっ、不覚……」

 表情豊かな先輩は、栞を持つ僕の手を握り、一言。

「あのさ、これからも、よろしくね」

 何か隠している顔だ。それでも、僕に(すが)り付くような顔。
 そんな先輩に、彼女に僕は答えずにはいられなかった。

「はい」

 この先に、どんなことが待ち受けていようとも。



 空は焼けた赤が藍色に追い出され始めていた。

 逢魔時。

 まだ昼の暑さが残る中、僕は彼女の家に背を向け、帰っていった。

また会う日を楽しみに

 ザ・夏。
 ジリジリと照り付けてくる中、僕と先輩は夏を満喫した。

 色々な納涼祭へ行っては、人の波に揉まれつつも、綺麗な花火を見たり。海へ行っては、先輩は泳がないくせに、やけに気合の入った水着を着てきたり。大都市へ行っては、ネットで評判なお店というお店を回り、財布を空にしてしまったり。

 そんな夏を過ごしたのだ。勿論、楽しくないはずもない。
 それでも、時は過ぎ行くもの。
 夏の暑さも収まらないまま、学校は新学期へと突入してしまった。



「それで、夏の課題の確認テストで、百点だったはずが名前を書き忘れて零点。しかも追試って」
「うぅ、ついてないです」
「ふふっ。でもさ、それも自分のミスでしょ?」
「いや、まぁ、そうですけど。……って、ちょっ、先輩。笑い事じゃないですよ」

 いや、こっちは本当に萎えているんだから。
 夏の課題の確認テストがつい昨日あり、今さっきの授業で返されたのだが、まさかの零点。
 原因は、名前の書き忘れ。て言うか、マジで試験監督の先生は何をやってたんだよ。

 はぁ。
 つい漏らしてしまう溜息に、先輩は大爆笑していた。

 そんな帰り道。やはり、こんな感じがとても落ち着く。
 色鮮やかさこそ道端からは消えて行くが、また巡る季節に乗せて命の輪が繋がれて行くのだと思うと、何となく悪い気分ではない。

「あ、そうだ」
「どうしました?」
「そう言えば、絵は完成した?」
「はい」
「そしたら、見せてよ」
「えぇ」

 正直、嘘だろ? なんて言いたかった。
 ここからおよそ倍くらいの時間をかけてうちに来るなんて無茶無謀を先輩にさせるわけには行かない。

「ダメに––––」
「と言うと思って、もう親に連絡しました」
「って、何の、ですか?」
「え? 泊まりの」

 いや、平然と真顔で返されても。
 時々、この先輩は自分の状況を(かえり)みず、心の赴くままに身体を酷使させてしまう。全く、こっちがどれだけの苦労と心配をしているのかも知らないくせに。
 なんて、心では呟きつつも、一度目をキラキラさせてしまった先輩はどうやっても止められない。

 一応、「寝る場所も布団もないので、僕と同じベットですよ?」なんて言ってみるも、制止の役目は果たされない。どころか、「本当? 嬉しいな」なんて、からかい返されてしまう始末。

 まぁ、仕方がないか。
 割り切れないまま、溜息を零すと、相変わらずのクスッとした笑い声が聞こえてくる。

「ほら、そんなに溜息ばっかり吐いてたら、幸せも沢山逃げちゃうよ」
「誰のせいですか、ホント」
「さぁ? 誰のせいでしょう」

 なんて言いながら、この小道を降り、住宅街を抜けて行く。来た道をそのまま戻るのも何だし、それこそ遠回りになってしまう。
 夕焼けに沈む中、溺れぬよう笑い合って進み、愚痴り合って歩いていた。
 学校を出てから、時計の短針が一周しようとしていた頃、藍の空の下、明かりが灯らず、しみったれた家へと着いた。

「あんまり綺麗なところじゃないんで、期待しないでくださいね」
「はいはい。っと、お邪魔します」
「あ、うちも親がいないんで、気にしないで下さい」
「そうなの? いつ帰って来られるとか分かる?」
「帰って来ませんよ」
「あっ––––」
「ほら、どうぞ」

 客人用のスリッパを出すと、先輩の荷物も持ち、部屋へと案内した。
 部屋の明かりをつけ、「好きなところに座って下さい」と言うと、一度部屋を出て、飲み物を取りに行く。
 暗がりの中から冷蔵庫の柔らかな明かりに照らされつつ、コップに冷たい麦茶を注いでいった。二つ分終わると、冷蔵庫の扉を閉め、お盆にそのコップとお菓子をいくつか乗せると、戻って行く。

「すいません、お待たせ……って」

 ドアを開け、視界を部屋へと移した瞬間、全身に電流が迸る。同時に背筋がとてつもない勢いで凍っていくのが分かった。

「な、な、何やってるんですか」
「何って、着替えてるんだけだけど……あー、ダメだった?」
「部屋主不在の間に……。いや、(くつろ)いでいて下さいって言ったのは、確かに僕ですけど。どうして、そう羞恥心って言うものがないんですか」

 また溜息を吐いてしまう。
 ひとまず、僕の机の上にお盆を置き、ある程度片付けると、着替えを取り出した。

「じゃあ、着替えてきます」
「えぇ、私を置いていくの?」
「着替えさしてくれないんですか?」
「別にここで着替えればいいじゃない?」
「嫌ですっ」

 即行で切ると、廊下奥の角で急いで着替え、制服をハンガーにかけると、すぐに戻る。

「お待たせしました」
「お待たれされていました」
「先輩、それどう言う意味っすか?」
「え? いや、そのままの意味だけど」

 まぁいいや。
 ベット下にしまってある機材と道具一式を取り出し、棚から白紙のキャンパスを取り出した。
 ついでに、もう一つ奥からキャンパスを取り出す。そして、先輩の前に置いた。

「これが、頼まれてたやつです」
「へぇ、綺麗だねぇ。ありがとう」

 その言葉だけ受け止めると、すぐさま視線を準備へと向けた。
 ベット脇の机を隣に立て、タブレット端末をそこに置くと、電源を入れ、一枚の写真を表示させる。
 そして、鉛筆を取るや否や、早速下書きを始め、輪郭を描いていった。

 走る鉛筆にあとを追う黒い線。浮かび上がるは一輪の花。水辺に浮かんでいる一輪の蓮の花。
 流れ行く線はやがてその形を描き終え、鉛筆は知らず知らずのうちに相当擦り減っていた。

 下書きは、このくらいか。
 ふと、時計を見てみると、もう七時を指そうとしていた。

「終わったの?」

 聞こえた声にハッとなり、完全に先輩を放置してしまったことを思い出す。

「あ、ま、まぁ」
「よしっ、じゃあ、そろそろご飯でもする?」
「あ、そうですね」

 って、何で先輩がそういうことを言うのかな? なんて思ったことは秘密にしておく。
 ひとまず、要望を聞き出してみたが、返ってきた言葉は「なんでもいい」のみ。どころか、嫌いな食べ物やアレルギーもないと言うのだから、余計に絞り込めずに、頭を抱えてしまった。

 悩みに悩んだ末、結局、元々の予定に合わせ、バターライスを使ったオムライスにすることに決める。

「あ、私も手伝う」
「えっ? いや、待っててもらって平気ですよ」
「うーん、でも、もう待つのも飽きたしなぁ」
「はいはい、分かりました」

 画材を端に除けると、「こっちです」と台所へと案内し、冷蔵庫から色んな食材を出していく。
 そして、先輩には食材の下拵(したごしら)え、僕はバターライスの調理へと取り掛かり、あっという間に二つのオムライスが出来上がってしまった。
 それにしても、先輩は中々な手際の良さを見せつけてきた。全く、流石過ぎる。

 ケチャップとマヨネーズを端に、真ん中に二つのオムライスを乗せた皿を置いて、箸を添えると、僕の部屋へと移動し、奥に眠っていた机を拭き、そこに置く。飲み物を再び空になっているコップに注ぎ、これで準備は終わった。

「いただきます」
「いっただっきまーす」
「……先輩は子供ですか」
「ん? なんか言った?」
「い、いえ。なんでも」

 ケチャップをかけると、早速右端から崩して食べていく。
 うん、美味しい。やっぱりバターライスにして正解だった。ただ、出来立てな分、ほんの少し熱いが。
 箸は止まることなく、次々とオムライスを口へと運んで行き、気付いた頃には、もう皿の上にはケチャップと半熟な卵の残骸しか残っていなかった。

「ご馳走様でした」
「ご馳走様。いやー、美味しかったね」
「ですね」

 お皿をシンクの上に乗せ、洗剤につけている間、お風呂を掃除し、早速湯船を貼り始める。

「先輩、先にお風呂、入りますか?」
「あー、うん。そうするね」
「分かりました」

 そう言って、脱衣所へ案内し、バスタオルを準備すると、僕は食器を洗いに台所へと戻る。
 水でさっと流すと、水切り籠へと丁寧に並べていく。まぁ、勿論だが、こんなことにはさほどの時間は要さない。
 先輩がお風呂を上がるまでの残りの時間は、ちょっと先輩を驚かす準備を始めた。

「おーい、上がったよ」

 そんな声が聞こえる時には、こっちも準備を終え、下着と寝巻きを手に、脱衣所へと向かう。

 ふぁあぁぁぁ。
 そろそろ地味に眠たくなってきてしまった。割と食べ過ぎた感があるのは否めない。

 それでも、ハッと目を見開くと、出来る限り早く、徹底的に綺麗、を心がけながら体を洗い、ササっと湯船に浸かってはすぐ上がり、体を念入りに拭いて、着替え終わると、洗濯機を早速回しておく。

 急いで風呂場と脱衣所の電気を消し、台所へ戻ると、ティーポットにタイミング良く湧き上がったお湯を注いだ。
 それとティーカップを持ち部屋へと戻って行く。

「お待たせしました」
「早いね。って、お、何? 紅茶? 気が効くねぇ」
「あ、いえ。違いますよ」

 僕のベットで寝転んでいたのが、ドアを開けた瞬間、飛び上がり、こうして僕の持っているものに興味を示す感じ……。さては、何か変なことでもしてたな?
 一旦は気にしないことにして、ティーカップにポットの中身を注いでいった。

「ん? この香り––––まさか、ハーブティー? それも、ラベンダー?」
「おぉ、流石ですね。うーん、でもちょっと惜しい」

 意地悪気に告げると、六割くらい注いだティーカップを渡し、僕も手に持って、一口含んだ。ほんの一瞬だけそのままでいた後、グッと飲み込み、香りも味も堪能すると、一息吐いて、また口を開く。

「これは、ラベンダーとカモミールのブレンドです」
「おぉ。ブレンドまで覚えたんだ」
「まぁ、一番簡単なものですけど」

 先輩も一口飲み、美味しいと呟いた。

「ねぇねぇ、それ、(はす)の花を描いてるの?」
「え? あ、はい」

 指差されたキャンパスを見て、答える。

「なんで描いてるの?」
「なんで? って。えーっと、単純に水面に浮く一輪の花っていうのが綺麗だなって」
「ふーん」

 すると、先輩はティーカップを机の上に置くと、キャンパスへと近づく。

「これはお昼の蓮だね」
「お昼?」
「そう。蓮の花は昼に咲いて、夜に萎む。だから、花言葉には『休養』っていうのもあるんだよ」
「へぇ」
「でも、私はあまり好きじゃないんだけどね」

 なんて、少しばかり顔に影を残しつつ、ベットに戻ると、また一口ハーブティーを飲む。

「蓮の花の花言葉は知ってる?」
「あ、えっと、確か『神聖』と『救済』と……」
「『離れていく愛』だよ」
「あっ」
「そう。これも花の特徴からきてるの。花が散る時、外側から一枚、また一枚と散っていくの。勿論、次の命へと繋ぐためなのは知ってる。でもね、やっぱりちょっと切ないかな」

 淡々と語っていく様子は、まるで出会ったあの日のようだ。そして、やっぱり何か隠しているような感じで、顔を俯けていた。
 それでも、どうしても、僕は怖気付(おじけづ)いてしまう。

「……ねぇ」

 しかし、先輩は––彼女は違った。

「描いてもらったこの花、知ってる?」
「い、いえ。写真しか貰ってなかったので」
「この花はね、ネリネっていうの」

 一思いに全てを吐き出していく。

「あのねっ」

 でも、覚悟は決まっていないようにも見えた。

「この前の検査で、悪くなってるってことが分かってね。入院しなきゃいけないんだ」

 その言葉に戸惑う。

「しばらくは学校にもいけない。光輔君とも会えない」

 突然告げられた言葉。

「だから、この花を描いてもらったの」

 でも、気付いていた。いつかこうなることくらい。

 彼女が病気だということは、それも命に関わってしまうほどの病気だということは、出会ってすぐに知らされた。だからこそ、単に、早いか遅いかの違いだけだったのだ。
 そして、それが予想の何倍も早かった、と言うだけのこと。
 そんなこと、頭では十分理解していた。

「ネリネの花言葉は『また会う日を楽しみに』だよ。この絵があれば、頑張れるよ」

 そう言う彼女に、僕は我慢ならなかった。
 出会ったときに言えなかった一言。すべきだったけど、出来なかったこと。
 思いっ切り彼女の方へと寄り、抱き締める。

「なら、そんな顔しないで下さいよ。花奈先輩」

 涙滴る彼女の顔は、みっともないくらいにぐちゃぐちゃになっていた。



 ふと、時計を見てみると、短針はもう少しで十一を指そうとしていた。

「そろそろ寝ますか?」
「うん」
「じゃあ、そのベットで寝てもらって良いですよ。僕は布団を……」
「待って」

 すると、先輩は物悲し気な顔をすると、僕の目をしっかり見て、口をゆっくり開く。

「一緒に、寝たい、な」

 それは僕の心のど真ん中を射抜いてしまった。そのあまりの可愛さに、軽く怯んでしまった挙句、断るという選択肢を失ってしまう。



 電気の明かりが消えたこの部屋。入る光は淡い月光だけ。
 そして、僕は寝てる先輩の背中に向かって一言。

「月が綺麗ですね」

 それは、告白や好きということを表さない。
 ただただ、別れの挨拶に、恋を表す言葉に他ならないことを後で知った。

孤独の中、届かぬ祈り

 あの日の翌日の朝。目覚ましに起こされ、僕が目を覚ますと、まるで夢だったかのように、先輩がいた跡は綺麗すっかり消えていて、先輩の匂いがベットに少しあるくらいしかなかった。

 そして、一応登校での待ち合わせ場所にしばらく待ってみるも、先輩が現れることはなく、どころか、昼休みも、下校時も、先輩の姿はどこにもなかったのだ。
 そう、その日以降、先輩が学校に来ることはなかった。



 それから、色々な行事を僕は一人で過ごして来た。

 だが、そんな間にいつしか、僕の見る世界から色が消えてしまっていたのだ。
 蓮の花を最後に、どんな物を見ても、色褪せていて、モノクロ映画にいるかのように錯覚している。
 これが映画のように、フィクションだったらいいのに。
 そんなことさえ思いながら、今日も葉さえもついていない桜並木を通りながら学校へと登校していた。

 まぁ、クラスに特別仲のいい人も居らず、憂鬱感残るまま誰とも話したくないといこともあり、ずっと一人で音楽ばかりを聴いている。

 授業も、上の空のまま受けているせいで、期末テストは最悪。

 やがて、芸術の授業で僕の目に異常があることが発覚し、すぐさま受診した病院では、心因性の色覚異常だとかなんだとか。

 別にそんなことはどうでもいい。
 ただただ、また絵が描ければいいのだ。

 そればかり唱えてみたが、直ぐに精神科へと回され、話はカルテの中だけに残され、解決方も教えてくれないまま、言われたことは「辛かったね」と「また次も話を聞くから」だけ。
 一応、学校から言われていることもあり、通うだけ通っているが、いつになっても変わらないことに、いい加減、僕も耐え切れなくなってしまう。

 あぁ、もしかしたら僕は本当に、どこか異常なのかもしれない。そう思いながら、毎日、何粒もある薬を一日に三度と飲んでいる。

 次第にキャンパスに下書きを描くだけ描くと、すぐに色を塗り、完成するとすぐに壊して、を幾度も幾度も繰り返した。お金をドブへとひたすらに捨てたことは分かっている。だが、それすらもどうでも良かった。



 それからカレンダーは次々と新しい日を刻んで行き、冬休みも越し、三学期が始まって、いつしか雪の季節も終わりを迎えようとしており、風には新しい春の香りが乗り始めている。

 だが、進むことを忘れた僕の部屋は、ゴミと化したキャンパスはもうどこにも収まり切らなくなっていた。
 そんなある日、二枚だけ色の付いた写真を見つける。

 一つは白で星のような形をした花。もう一つは鮮やかなピンク色をした小さな花の塊。
 勿論、何故なのかは気にならないはずもなく、ひとまず検索エンジンにかけてみる。

「アングレカムと、エリカ?……」

 ふと、思い出したように僕の机の端にある花言葉図鑑を手に取った。
 ここしばらく触りすらしていないせいか、埃被っていて、日が当たっていたせいか、紙までも軽く変色していた。
 だが、そんなことお構い無しに、後ろの索引からページを探し出し、開く。

「アングレカムは……って、全く、何の偶然だよ」

 そこには『孤独』という文字が大々的に書かれている。あまりの偶然に、もはや運命、いや必然まで感じてしまう。

 大きなため息を溢すと、続けてエリカを探した。

「エリカは……『届かない祈り』ねぇ」

 なるほど。
 納得さえしてしまうような内容でもあった。
 けれども、本心の何処かには認めたくないという気持ちがあったのもまた事実である。

 これ以上何を失えばいいのか。どれ程の痛みを味わえばいいのか。
『孤独』と『届かない祈り』の二つを見て、そう思い返す。

 そう言えば、母が死んだ時もこんな感じだっけ。
 父は母が死んで以来、人が変わってしまい、酒を飲んでは暴れ、タバコを吸っては苛立ち、やがて麻薬に手を染め、警察に捕まった。
 だが、弱っていた上で大量の麻薬を服用したと言うのもあり、直ぐに病院に送られたと思えば、数日中に死んでしまったのだ。そして、僕には衰弱死だとしか伝えられなかった。

 あまりの呆気なく捨てられたことに絶望感を覚えざるを得ず、まるで暗闇に迷ったかのように過ごしていたんだよな。

 あれ? そう言えば、その時はどうやって立ち直ったんだっけ?
 ふとした疑問に、何故か僕は重要性を感じてしまう。
 そして、必死に探した末、記憶の底に眠っていた一つの大事な映像が蘇る。

「そうだ。そうだ」

 目線は自然と僕の鞄のキーホルダーへと吸われる。
 一つは、前に先輩から受け取った鮮やかな紫色をした桔梗の押し花。もう一つは、青い花が描かれているもの。
 あれ? 青い花? 青い?

「あぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ」

 青い。そうだ、青い。
 色褪せた世界で、鮮やかな青色をしている花のキーホルダー。
 どうして忘れていたのだろう。

 アレは貰い物だ。あの子からの。何のプレゼントだったかまでは思い出せないが、それでも貰い物だと言うことははっきり覚えている。
 ん? あの子、あの子って誰だっけ?

 鮮明に蘇っていくシルエット。そして、あるものを思い出した瞬間、すべてが繋がった。
 途端、僕はいてもたってもいられず、着替えると、ある場所へと出かけて行く。学校なんかサボってしまって。

 この時、僕は図鑑に載っていたこの青い花のページを見ていなかった。

真実の愛を、私を、忘れないで

 自転車に跨り、全力でペダルを漕いで行く。
 早く、もっと早く、もっともっと早く。
 貪欲に、強欲に、力を最大限まで振り絞るが、普段運動していない分、呼吸は苦しいし、全身は痛いし、疲れは半端じゃない。
 それでも隣を走りゆく車に負けじと、ひたすらに漕いで行った。



 そして、着いたのは、『宮下』と書かれた表札が確かにある。秋に訪れた所で間違いはなさそうだ。
 インターフォンを押し、ほんの少し待っていると、「はーい」と聞こえた。

「すいません。宮下 花奈さんと同じ学校に通っている高野 光輔です。花奈さんのお見舞いをしたいのですが、良ければ病院を教えていただけますか?」

 そう伝えると、間を空けず、直ぐに玄関が開いた。すると、奥の方から、先輩の母親らしき人が現れる。
 途端、その人は、僕の元へと寄ってきて、何か慌てているかのように喋り始めた。

「ねぇ、高野って、あの高野さん?」
「え、えっと」
「あ、あぁ、ごめんなさい。あなたのお母さんって高野 美幸(みゆき)さん?」
「え、あ、はい。そうですけど」
「そうなんですか。あぁ、良かった。こんな所で会えるとは」
「す、すいません……」
「あ、そうだった。花奈のお見舞いに行きたいんだっけ。なら、うちの乗って。丁度行こうとしてた所だったの」
「は、いや、その––」
「後のことは車で話すわ」

 なんて、マシンガンのような喋りに圧倒されると、半ば強引に車へと乗せさせられる。
 はぁ、そうか。先輩の強引っぷりは親譲りというわけか。

 拒否することは諦め、「では、すいません。お言葉に甘えさせていただきます」と言い、助手席に乗せてもらうことになった。
 そして、直ぐにでも出発し、少し長い道のりをその人と話して過ごしていた。

 そこで、母が亡くなったこと。父が亡くなったことを話した。

「そうだったんだ。……私ね、美幸ちゃんとは少し縁があったんだ。同じ教師としてだけじゃなくって、人としても凄く好きだった。それに雅人さん––君のお父さんも良い人だったしね」
「そうだったんです、か」

 母が教師? 初めて聞いた事実だった。
 確かに仕事が忙しいとは言っていたし、日中は家にいることが珍しいほど。考えてみれば、当然と言えば、当然でもある。
 しかし、父が良い人? 正直、そこは考え難くもあった。

「でも、そうだったんだ……。残念。……っていうか、何も言わずに死んじゃうって美幸、何してんのよ」

 でも、多分、お世辞なんかでこの人が父を言い人呼ばわりするはずもない。そう思えた。

「あ、そう言えば、君、光輔って名前よね?」
「あ、はい」
「なるほどねぇ。君が花奈の彼氏くんか」
「か、か、彼氏?」
「何の偶然なのかねぇ、ホント」

 その言葉に、ついむせ返ってしまった。
 流石にその言葉の重さは尋常ではなく、あまりにも驚きが詰め込まれすぎている。まぁ、確かに彼氏でないなら、一体どんな関係? と聞かれたときに、良い答えが見つからないのもまた事実であるが。

「––––ごめんね、あんな子の最期の我が儘に付き合わせちゃって」

 ただ、先輩の母親からそんな言葉が出たことに、一番驚いた。

「実は、もっと昔から病気のことは言われていてね。成長していく度に、悪化しちゃってさ」
「え?」
「本当は、一昨年の十月かな。余命宣告を受けてたんだよ。もって半年くらいって。いつ倒れてもおかしくないって」

 瞬間、何かが、物凄い音を立てて、崩れていったような気がした。

「それでも一年も持ったんだし。あの子は十分頑張った。それに、まだ意地張って生きてる」
「そう、ですか」
「だからさ、あの子の我が儘、許してやって欲しいの。多分、あの子と一緒にいればいる程、気持ちを持っちゃうのは分かる。でも、最期の、本当に最後の我が儘だから、最後まで聞いてやってくれないかな?」

 そういう先輩の母親は、泣いていた。

「……はい。最後まで」
「頼んだわよ」

 車内に流れるラジオの物悲しいクラシックは、より雰囲気を作り出し、そんな中、決まり切らなかった覚悟を遂に決めた。



 到着するや否や、受付を済まし、直ぐにでも先輩の病室へと向かう。
 そして、先に先輩の母親に入って貰い、会う準備をしてくれるのだとか。

「お待たせ。入って。私は受付の所で待っているから。気が済むまで話して良いからね」

 そう言って先輩の母親は、僕と交代するように出て行く。ただ、やはり、その背中は、どこか泣いているかのようにも思えた。

 一度、力一杯拳を作り、大きく息を吐くと、扉を開け、真っ白な部屋へと入っていった。

「花奈、先輩」
「光輔君」

 明るい陽の差す部屋は、一先早く春の香りで満たされている。
 先輩は腕に何本もの管を通していて、よくドラマで見るような心電図を測る機械が隣で動いていた。
 そんな中でも、先輩は上半身を起こしていた。

「今日はどうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあって」
「うん」
「先輩はどうして最初にあった時、僕に最後まで一緒にいて欲しいって言ったんですか?」

 すると、先輩は今までとは全然違う笑顔で、語り始める。

「その答えはもう気付いてるんでしょ?」
「……はい」
「偶々、あの桜並木にいた君のバックについてあるキーホルダー。それが私があげたものだって分かったから」
「…………」

 全ては、僕の忘れていた過去にあった。

「昔、私はある男の子と会ったんだ。小学五年生って言ってたっけ。でも、その子はずっと暗い顔していて、遊ぶようになってからも、全然心を開いてくれなくてね。それでも、私がなんとかしなきゃって。色んな人に助けられながら生きてる私が、今度は助ける番なんだって」

 そう。青い花のキーホルダーをくれたのは、桜の髪飾りをしていた少し年上のお姉さんだった。
 そのシルエットは彼女とぴったり重なる。

「だから、文字通り命一杯遊んで、話して、笑って。そうしているうちに、その子は心を開いてくれた。でも、そんな時に私の病気も悪化しちゃった。なんて、タイミングが悪いんだって思ったよね」

 そして、最後に遊んだその日の夕方。帰る場所という場所がなかったが、帰らなきゃいけない時間。
 夕焼けした空を背後に、沈みかけた太陽を横目に、逢魔時に。

「その時に渡したのが、キーホルダー。その時の私が精一杯の技術を振り絞って作ったもの」
「これ、……だよね。花奈ちゃん」

 ポケットから、取り出したそれを見せる。青く小さい花が散らされたキーホルダー。
 僕の一番の宝物。そして、彼女と僕を繋ぐ最高の物。

「そう。––––その花、名前知ってる?」
「え?」
「その花は勿忘草って言うんだよ」
「わすれ、な、ぐさ?」
「そう、勿忘草。花言葉は名前通りで、『私を忘れないで』。あと、『真実の愛』」

 そして、先輩の頬から一粒、また一粒と涙が滴り落ちていく。
 それでも、先輩はとびっきりの笑顔を浮かべていた。

「あの時、もうこれで光輔君とは会えないかと思ってた。でも、また会えた。何かの奇跡だと思った。でも、私に残されてた時間は過ぎちゃってたんだよ。だから、最初はちょっと話しただけで諦めようとした。だけど、出来なかった。だって、光輔君は優しすぎるんだもん」

 苦しいほど切ない声が部屋中を埋め尽くす。辛かった心の内、その全てを。

「どれだけ我が儘言っても聞いてくれるし、無茶しようとしたら支えてくれる。どんな時だって心配してくれてた。気にかけてくれてた。あー、もう。もし死んでも、光輔君への未練が残って、この世に留まちゃったらどうするのよ」

 つられて僕も涙を浮かべる。いや、違う。
 僕は想像してしまったのだ。先輩がいない世界を。そこで独りでいる自分を。
 そして、飛びつくように彼女を抱き締めた。

「先輩……––––」
「光輔君……––––」

 すると、彼女も手を後ろへと回し、僕を抱き締めた。

「約束。このキーホルダーをずっと持ってて。あと、『私を忘れないで』」
「はい。絶対に忘れません」

 こうして、僕は心に決めた。
 その約束を、今度こそ果たすと。



 以降、僕は出来る限り、彼女の元を訪れるようになっていた。
 日に日に弱っていく彼女を笑わせてあげることしか出来ない。そこに無力さを感じながらも、花の話をしたり、描いた絵を見せたりした。
 話題を作っては、幾度となく話しかけて行く。
 その努力は届いたのか、次第に先輩は元気を見せるようになってくるようになり、会話が出来るほどまでになっていた。
 その様子に、医者さえも驚いていた。それをクスクス笑ってみたりもしたっけ。

 だけど、そんな日々もいつか終わりは来るもの。

 ある日、学校に突然連絡が飛び込み、僕は急ぎ先輩の元へと呼ばれ、駆けつけた。

 聞くと、一度心臓は停止し、何とか蘇生は出来たが、次はないとの事だった。

「花奈、花奈」

 先輩の両親の呼びかけにも、応じず、もうないかと思った。でも、やっぱり最後の言葉くらい聞きたい。
 そんな思いからか、気付けば、僕も声かけてた。

「花奈先輩。花奈先輩」

 僕は賭けた。
 昔で終わっていたはずの僕と先輩を、花奈ちゃんを繋げてくれたこのキーホルダーに。

 脳裏に浮かぶのは、僕に向けてくれた笑顔。
 どれだけ苦しかったのか、どれだけ辛かったのか、そんなこと考えるまでもない。
 僕も、そんな彼女を命懸けで支えた。

 だから。

 だから、だから。

 だから、お願いします。

 先輩の本当の最後の我が儘です。僕のお願いです。

 手に持ったキーホルダーを握り締めながら、一心に願った。たった一度の、最後の奇跡を。

「……ぅるさぃなぁ……もぅ」

 掠れた声が聞こえた。先輩の声が。

 流石に、首を横に振っていた医者や目線を落としていた看護師達も、この時ばかりは奇跡でも見たかの様に、目を見開いていた。

「花奈」
「花奈」

 弱々しくも挙げられた腕を先輩の両親は強く握りしめる。

「……ぉ父さん、ぉ母さん……ぁりがとぅ……」
「あぁ、よく頑張ったな、花奈」
「おやすみ、花奈」
「……まだ、夜、じゃあ……なぃ……よ……」

 消えかける命の灯火。それは誰にも求めることなんて出来ない。
 それでも、最後の最後まで燃やし尽くそうと、全力を尽くして最大級の光を放っているのだろう。

「……光、輔……君……。……約束、守……て……ね……」
「うん、守る。守るよ」
「……破っ、たら……怒、る……から……ね……」

 涙で濡れた視界に映る先輩は美しかった。

「もぅ……行か、な、きゃ……」
「あぁ、行ってらっしゃい。花奈」
「気をつけてね。花奈」
「先輩。またいつか」
「……うん……」

 ––じゃあね––

 命一杯振り絞って、最後の力を全部振り絞って、先輩はその人生に幕を閉じ、新たな道へと旅立っていった。

 先輩の両親、そして僕は、泣きながら彼女を見送り、無慈悲なまでの機械音をしばらくの間、聞いていた。

 窓の外では、あの日の桜が舞って行った。
 彼女の命を乗せた風とともに。

花便りも届く今日この頃、どうか幸ありますように

 あれから何度もここの桜の雨が降るのを見てきた。
 一体、何回見たんだろうか。もう数えきれない程見てきた。

 僕は高校を卒業し、無事に大学へと進学することが出来た。ただ、私立大学と言うこともあり、奨学金制度を利用しているため、将来は厳しいものになるのだろうと言う不安ばかりが後へと残ってしまう。

 そして、時間の出来たこの大学生の間に、僕は母と父について、色々調べてみた。
 母はどうやら中学校の先生をやっていたらしい。科目は国語。それはそれは生徒達から良く慕われていた何て言う話を良く聞いた。
 それに、何の偶然か、僕も今こうして国語教師になろうと教育課程を受講中である。

 一方、父は高卒という肩書を持ちながらも、ひたすらな努力で上へと登っていった努力家の真面目人間だったという。
 それがあんなのに成り果てるなんて、誰も思わなかったらしい。
 でも、今なら少し分かる気もする。死ぬほどの努力をして、それを支えてくれていた人が亡くなってしまったら自暴自棄になってもおかしくない。
 まぁ、それを理解するのは到底無理な話だろうが。



 それと、年に二度、僕は彼女の元を訪れている。

「誕生日おめでとう」

 毎年の一度目は、春先の命日。そして、今日がその二度目。九月の終わり辺りの先輩の誕生日。

 来る度に、墓石周辺の清掃をして、挿されてある菊の花の確認をしている。そして、端に置かれた小さな瓶に入っている花を入れ替えていた。
 毎回毎回、新しい花を持ってくる。
 まぁ、今でこそ、そうしているが、いつしか全部の花を持ってきてしまうだろう。その時はどうしようか。そんな事を考えるのも悪くはない。

 取り敢えず、挨拶と近況報告。それを済ませると、時々、軽く愚痴も笑いながら溢していた。

「またね」

 毎回、そう言って立ち去る。
 人間、何時何処かで突然の終わりが来てしまうかもしれない。でも、そう言っておけば、またここに来れるような気がして。
 だから、そう言う。



 移ろいゆく季節。その度に、色んなものを僕達に見せてくれる。
 短き花の命は永遠に。長き星の命はいつか終わりに。
 そんな中で、僕達は季節に生きている。
 芽吹く様々なお話。十人十色の恋愛模様。
 あなたは、どんな季節にどんなお話を紡ぐのか。



 ––––花便りも届く今日この頃、どうか幸ありますように。––––

色溢れる四季、淡い青春

 お読み下さり、有難う御座いました。
 さて、この作品ですが、僕の中では一番文量が多い作品となっています。基本的に、僕の短編小説の殆どが起承転結がある一つのお話の中からワンシーンを取り出して、一つの短編小説として書きあげるのですが、この作品は、その全てを書いた為、長くなりました。
 また、一年間という時間がある作品だったこともあり、勿論製作時間も普段の倍以上掛かりましたね。推敲作業も大変でした。
 ただ、その分、良いものに仕上がっているのではないかと思います。

 さて、作品に触れていきましょう。
 この作品は、花言葉を中心にしています。また、一つ一つのサブタイトルも花言葉中心に組み上げたので、詳しい人は一瞬でピンときたのではないでしょうか。そうではない人でも、作品の中で出てくるので、楽しめたのではないでしょうか。
 でも、きっと花言葉だけ知っていても完全な面白さは味わえないと思います。それに、桜が死の象徴だったと知っていた人は少ないでしょう。
 全てには裏もあるのです。
 この作品には、綺麗な部分ばかりが綺麗に描かれています。ですが、その裏を読むように今一度読み返して見て下さい。
 きっと大きく違って見えるはずです。

 さて、あとがきはここで終わろうと思います。
 今後とも宜しくお願い致します。

色溢れる四季、淡い青春

春夏秋冬。 四季折々に咲く花には、言葉が込められている。彼女はそんな花が好きで、そんな様子にどこか惹かれてしまっていた。 だが、一輪の花には、繰り返す命の輪の中に幾つもの終わりがある。 満開の彼女に待つのは最期だけだった。

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-05-10

CC BY-NC-ND
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