いち、に、さん
散った花の色に染まる水面はチャロアイトのマーブル模様にも似た紫色でそれはすこしだけ星が病んでいる兆しのよう。ぼくたちは神さまがくりかえすあやまちを傍観者の気分で眺めている。終わらないサーカスみたいだときみが云って道化師にあふれる街でぼくときみだけが欠けた陶器の寂しさを湛えている。雨が降り止まない二十一時のファミリーレストランのドリンクバーで紅茶の種類もよくわからないのに茶葉のなまえを見比べては吐く息の生温さ。きみの好きだという言葉と共に融解したのはぼくの思考。猫が鳴いたら家に帰りたい。
ぼくはもうひとりのきみが好きです。
きみは分裂した身体を持て余している。
三つ数えるともうひとりの自分がぱらぱらと切り刻まれた紙のように床に山を作る仕様を考えたひとはきっと残酷。チョコレートパフェをゆっくり丁寧に食べ進めてゆくきみとコーヒーを飲みながら煙草を吸っているきみのその唇と指に翻弄される真夜中のことを想像して自分の浅はかさに泣きたくなる。ぼくはもうひとりのきみが好きなのにさいしょのきみのことも好きだなんてもともとはひとりのにんげんだったきみがふたりになっただけのことでこんなにも切ないよ。たったひとりの愛し方も忘れてしまった。
いち、に、さん