山春

山春


段々畑の下方 墓地では鬼火がとび ひかりの跡

月が ぽかりとあいた天球をそのまま

照らしだしたほがらかな夜は



黒い海に慰霊の灯し火

家畜小屋は寝静まり

笛の音が山に返る

坂路の荷車も

(蛙のなくねも かねの音も)



そのどれもを相変わらず月が照らした

すこしずつ

人肌ほどの温度でみたされる

山のすみまで



なめらかにうつろうこよみ

ふたたび交合(まぐわ)うわたしと春

たがいの躯に手を差しいれるように

微温い宵のなかへしずみこむ

(ああ、春は遠くからけぶつて来る、)



月は未だ山間にあり

九天はなお澄みわたり

山春

引用
 高野辰之「朧月夜」(作曲・岡野貞一)
 萩原朔太郎「陽春」


朧なき夜

山春

段々畑の下方 墓地では鬼火がとび ひかりの跡

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 冒険
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-05-07

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