雨の日とアジサイ
紫色のアジサイ
まっさらな晴天に雲一つない。
アジサイの葉から、滴が一つ落ちたけど、その音に心地よささえ感じた。
「さっきまでの雨がうそみたい。」
ゲコッゲコッ
カエルの鳴き声が聞こえる。
「さつき」
父さんに呼ばれて振り返ると、父さんはリビングで新聞を詠みながらくつろいでた。
「そんなところにいつまでもいないで、中に入りなさい」
雨と土でぐしゃぐしゃになった地面が、靴を奥深くに沈める。
紫色のアジサイにのった、透明な水滴は、光に反射してキラキラ輝いてる。
一歩動くだけで、地面にもっと深く沈んで、買ったばかりの靴は泥だらけになる。
「父さん、アジサイが紫色に光って綺麗だよ」
遠くの方からカエルの視線を感じる。
太陽が眩しくって眩しくって、くらくらして、ふわふわして、暖かい気持ちになってくる。
ずっと遠くにいる誰かに会えるような気持ちになってくる。
「父さん、決めた」
「私、ずっと遠くに行ってみる。ずっと向こうにいって、何かに出会ってくる。」
振り向いたら、父さんはいなかった。
紫色のアジサイはこの家に来た時から、ずっと咲いてる。
父さんがいなくなった今も、ずっと咲いてる。
雨の日とアジサイ