ムーンライト
ちょっとダウナーな曲で、酔った気分で、吐く不満はきもちいい。恋を、わすれるための渦におぼれる、ような、錯覚。
体育の授業でならった泳ぎ方では泳いでいけない。ぶあつい布が隔てたそこに、きみがいる。波はかえらない。いつでも。思うようには、どうしても。
へたに泳ぎをおぼえたせいで、すきにおぼれることさえできなくなった。わすれかたは、ならわないじゃないか。きみのこと。きみのすべやかな足の裏。ていねいに切られたつめ。キャップからこぼれた、襟足。
死んだらおわり、ゆうれいも、あのよも、ない、わたしの思想はこのためだけの救いになる。死んだらきみを、わすれられる。
でもそうできない、きみのなみだの海だけは、泳いでいかれない。
おぼえることばかり強要されてきた。くりかえし、くりかえし、波のように、静謐な、夜をくりかえし、わすれようとする作業は、きみを深く、刻んでゆく。
ムーンライト