ひしめく空
言葉でも行動でも、これほどまで私に愛をくれる男の人がこの世界にいるだなんて、思いもしなかった。彼といると時間なんて溶けてなくなるようだったし、彼と食べるごはんは今まで食べてきたどんなものより美味しかった。彼と共有する思い出は尊く、ことあるごとに思い出しては私を幸せな気分でいっぱいにしてくれた。満たされている。世界が違ってみえる。私自身もかつての自分とはまるで別人のようになっていると思う。それもこれも彼が私を見つけてくれたおかげだ。
「大好きだよ」
互いに指を絡ませ、彼は囁くように言葉をこぼす。私はその言葉をかみしめるようにしてぎゅうっと目を瞑り、絡ませた指の力を強めた。言葉の代わりに愛を伝えるようにして。
彼の鼻は高く先がつんとしていてきれいだ。彼も自分の顔の中で鼻が一番好きなんだと言っていた。その鼻に指を伸ばしてそうっと触れる。彼は恥ずかしそうに笑った。愛おしくてたまらないと言いながら見つめる彼の瞳をみているとどこか違う世界に閉じ込められるかのようだった。彼の声以外の音が聞こえなくなるその瞬間が、私はたまらなく好きでありそれでいて怖くもなる。もうずっとこの世界から出られないのではないか。一人取り残されてしまうのではないか。
「あなたと出会ってから、私は変わった」
怖さを振り払うようにして私は言った。彼の瞳を見つめながら、甘く溶けてしまいそうなこの瞬間に身を委ねるようにして。
「僕も変わったよ、出会ってくれてありがとう」
目を細くして笑う彼。この笑顔を一番近くでみることができるのなら他に何もいらない気がした。彼は私の全てで、私が調和を保ちながら生きていくには彼が必要だった。彼がずっと側にいてくれないと私はだめになるんだと悟った。
深くキスをしてそして眠りにつく。たばこと彼のニオイに混ざりあうようにして私は微睡む。この世界に終わりはないと信じて彼の手をもう一度強く握った。
ひしめく空