3not... -プロローグ
初めまして、人類と申しまする。当然のごとく、初投稿です。
リアル:ファンタジー=9:1が7:3になってしまった小説、けれどもその分、確実に面白い感じに出来上がったと思っています。
プロローグ
夜、暗闇の中に雨が降る。
僕――真酒奈雄は、突然の雨に参っていた。姉さんに「今日の夜は竹やりだから」と意味不
明な電話をもらった直後だったので、正直、何の間違いかと思っていたりもする。
雨が降り始めた瞬間、僕はどこかの室内に居た訳でも、雨をしのげる場所に居た訳でもなく。
普通に、雨に降られる道端に立っていた。
周りに雨をしのげる屋根もなく、途方に暮れていたときに。僕は、一つのレストランを見つ
けた。真紅色をした看板が目印の、そのレストランを。
店の名は『カニバリズム』。
どこか独特で稀有な雰囲気を感じ取りながらも、取り敢えず、僕は中へと入って行く。店内
には、真っ赤な絨毯が敷かれていた。
「いらっしゃいませ~」
血走った目に迎えられて、僕は女性店員に店の奥へと案内される。……店先には順番を待っ
ている人たちも居たのだが。何故か、自分がいの一番に通されてしまった。別に申し訳なくは
ない。
店の壁までが赤いレンガ造り。店中のどこもかしくも真っ赤で、唯一赤くない所と言えば、
天井で輝くいくつものシャンデリアだけだった。
そんな風に店内を観察している最中に、店員によって、何故か店の中心の席に案内された。
周囲に居る客たちは皆、豪華そうな服装をしているためか、僕は否応なしに目立ってしまう。
流石に、恥じらいの色も出てしまうものである。
着いた席はどうやら木造。目の前に置かれている円形のテーブルも、その上に赤いテーブル
クロスを敷かれているだけ。……ここまで赤いと、目がチカチカして来る。
――――そんなときだ。
僕が、相席を求められたのは。
「相席、いいかな?」
聞こえたのは、馴れ馴れしい、まだ幼い女の声。
僕はここに晩飯を食いに来た訳ではなく、雨宿りをしに来た訳なので。別に目前に誰が座ろ
うとも、知ったこっちゃない。
「どうぞ、いいですよ」
「ありがとっ」
機嫌がいい返事をして、ソレ――年齢的に少女らしき人物は、一つのテーブルを挟んで、僕
と対になる形で席に着いた。何故かこちらを見詰めて来るが、まぁ、無視でいいだろう。
ここではソレを『少女』と呼ぶことにしよう。
こちらを延々と飽きることなく見詰めて来る『少女』の容姿は、一言。『美人』という言葉
に限った。白く淡い肌に、大きな黒い瞳、運動でもしてるのか引き締まった体躯。胸はまだ発
展途上らしい。顔が幼くなければ、まぁ、完全に『美人』だったのだが。背丈は、僕よりも十
センチは低い。ここで改めて見解を変えるとすれば、『少女』は『スゴ可愛い』ぐらいだろう
か。……うん、自分で何考えてるか分かんなくなって来た。
服装は、フリル付きの白い半袖のシャツに、ジーンズのショートパンツといったもの。靴は
茶色革のブーツだった。……あぁ、靴はテーブルの下に落としたハンカチを拾うフリをして、
下から覗き込みました。別二変態ジャナイヨ。
――で。まぁ、確かに数分は少女の滅多に見れない美貌に、見惚れていたことは認めよう。
それは、致し方ないことだ。多分、変態な趣味を持たない一般男子を集めたら、九割は一目惚
れするような容姿を持ってるんだもの。仕方ないじゃないか!
……いや、いやいや。別にそれはいいんだ。放っておいてもいいんだ。そっちは問題じゃな
い。問題は『こっち』だ。
――――『雰囲気』。
どこかおかしい、と思ったのが最初だった。鼻に付く生ゴミの臭いのように。腐った卵の臭
いのように。『雰囲気』という『違和感』は、僕の肌を伝った。
けれども。それを、誰かに言えるはずもなく。
眼前に居る少女は食事を頼み始めるし、周りも和気藹々とレストランという場を楽しんでい
る。そんなときに、雨宿りをするためだけに、この店を訪れたこの僕が。訳の分からないこと
を、言えるはずもない。想像しただけで、皆の視線が僕にまとわり付いて気持ち悪い。
この視線は、生々し過ぎるんだから。
「…………ん?」
想像? この、生々し過ぎる視線が? 本当に? 自分のくだらない妄想? いや、これは
きっと――
見られてる《・・・・》?
今度も、自分の気の所為かと思った。まさか、そんなはずがない、と。自意識過剰になって
るだけだと。
でも違った。
周囲を見回せば、必ず視界に入る全員と目が合う。それは偶然でも何でもなく。何度行なっ
ても合致する必然。
そんな、ときに。
「ここはね、殺人者が来るお店なの」
眼前の少女が、口を開いた。
「何を、言って……」
「だって考えてみて? アナタ、赤一色のお店のこととか、『カニバリズム』……つまり『人
食い』なんていうお店の名前とか、おかしいと思わなかったの?」
思わなかった。まったく、何一つ、微塵も思わなかった。
それは僕の日常じゃないからだ。当たり前じゃない出来事なんて、まず人の脳裏には浮かば
ない。
でも、それなら、この『違和感』にも、説明が着く。
『殺気』。
これは、きっと店中に居るお客から僕へ向けられた『違和感』。普段感じないほどの殺気。
普通は感じれないほど自然に感じれる殺気。それは、やっぱり異常なことだ。
「でも、私、アナタのこと気に入ってるの」少女は言う。「だから、アナタがこんな所で、誰
かに殺されるなんて嫌」
そう言って、少女は静かに微笑んだ。それは店に満ちる殺気を知ってしまった俺からしたら、
完全に狂気の沙汰。こんな状況で笑えるなんて、絶対に狂ってる。もしくはただの馬鹿だ。
そんなことを考えて、僕は一瞬、少女から目を離していた。それが、敗因となった。
「アナタの顔って、男の人にしては綺麗だね」
少女は機嫌が良さそうに言う。どこか声が上ずっているのは、気の所為だろうか?
「だから、敢えて言うとね。……アナタってホント、ガラス細工みたいだね」
それは、僕の顔のことを言われたのか。
それとも、僕の身体の脆さについて言ったのか。
とにかく『ソレ』は、少女の手に握られて降って来た。
自分の姉に言われた『竹やり』の如き殺傷能力を持って。
『ソレ』が、鋭利さを保ったまま、僕の胸を貫く。
ナイフは深々と胸に突き刺さり、床に敷かれた真紅の絨毯をさらに紅へと染めて行った。
その夜。
暗闇の中に雨が降る最中、僕は消え入るように、絶命した。
3not... -プロローグ
出落ちで主人公が死にましたが、一応、これでもプロローグです。
使っているエディターで可笑しな部分があるかもしれませんが、今後、解決できるのならしていくつもりです。
小分けにして投稿していくので、これからもよろしくお願いします。
できれば感想を下さい。それでは。