海の寝床
言葉が飽和して夜が誰かのものになったとき僕は海に映った月にそっと触れる。歪む。
君のために生きるという決意をつらぬくのは案外しんどいねって思いながらでもやっぱり君のために生きたいと思う。僕の見ている世界を否定されても僕は僕でいたいし誰も僕の詩を読んでくれなくたって僕は詩ってたい。野原で眠る子熊を撫でる先生と花の化石を大切にする君と町のはずれの寂れたホテルの一階にある喫茶店のレモンケーキとつかず離れずのインターネットのなかの心地よさが好きだった。足元で鳴く砂。遠くの方で灯台の光が回り穏やかな波の音が体のなかで唸るなまえのない怪物をなだめる。君はもう僕の血を吸ってはくれないで肉もない花の死骸を愛する人を愛するように扱って君の愛する人に僕がなれなかっただけのこと。子熊は自分の子どもではないと云うが先生は子熊を我が子のように接しその無上の優しさが僕には向けられなかっただけのこと。みんなひとりだ。
星の天蓋。
月の常夜灯。
魚たちは母なるものに抱かれて。
僕は言葉の海に沈んで。
海の寝床