五月のはじまりは何色にも染まらないで
くりかえす夏の午後のループエンドレスに僕らの三半規管を歪めるように世界が少しだけ傾く。歌うように呼吸をする子どもたち。眠らない白熊と途方もない未来だけを信じている占い師のいる街に雨が降って虹が架かるとき君は赤色の夢を見ないで安らかに。やさしさだけをあたえてほしかった。
悲しみに暮れる動物園で静かに生きているものたちを想えば自然と指の先は熱くなる。殖えては減ることで成り立っている世の中を神さまなんてものがうまく操作しているのだと想像すると空しかった。真夜中の横断歩道を君と手を繋いで踊るように渡った日のことは写真を焼き増ししたみたいに何度も思い出すから時々悪い夢みたいだと思った。二十五時の高速道路には横たわる無数のマネキンがいたしコンビニで買った揚げパンにバニラアイスをつけて食べるのが最高に罪深くて二人で秘密を共有するみたいに過ごしていた頃はけれど幻ではない。誰かに愛されたいから誰かの顔色を窺って自分を殺すことはしたくないのだけれど自分を愛するあまり他人を蔑ろにすると誰にも愛されないというのが世の常であることを知らしめてくるから社会ってやつは。
こわいくらいに美しいものたちが光ってる。まもなく夏。
五月のはじまりは何色にも染まらないで