雨が知りたい蝸牛は晴れ間を大事にする。




雨が知りたい蝸牛は晴れ間を大事にする。
触角アンテナの根付け部分を回し
新調しようか迷う殻のまだ良い所を
1つまた1つと確認し,
合間に葉を終わるまで食べる。
消化には早いので排泄は遅くなり,
太陽は着実に上り確実に沈んでから,
欠伸は出来ずに眠くなる。
朝を迎えて雨が知りたい蝸牛は,
大事にする日がよく暮れるように
お尻が西向きの殻にこれまたお尻から
軟体である胴全体を収めるのだった。







一日,
雨が知りたい蝸牛は晴れ間に辛い仕事をする。
労働時間は遅い深夜から早い夜明けまでであり,
終わる頃には,
カラカラ急いでよく噛まないから細いような容姿になって
どこかの骨組みの調子が1つ悪いみたいに
引っ張られると飛び跳ねた。
葉っぱをよく噛んだ蝸牛は
飛び跳ねない時間に(すなわち飛び跳ねる合間に),
よく心配に眠れないと思った。
蝸牛の前後は時間を超えてお互い言語を操れず,
また共通する意思疎通もままならない。
斜めのプラスチック版を力一杯に歩かず
軟体の身の筋が強張って殻を脱ぐ。
そうして蝸牛を辞めてしまうと触覚が反対に,
こちらに質問して内側の引き出しの
(古層のようにいつの間にか奥まったところの),
見つけて自分も一緒に知るような
見つけて自分も変わるような
答えじゃなきゃいけないものを,
見もせずに手探りで探し当てる。
そうしてから取り敢えずの
(そう,取り敢えずの),
暫定的正解を胸に一緒のテーブルで食事する。
そんな隔たりに似ていた。
それでも遅い深夜から早い夜明けまでに
蝸牛は出ない汗に殻を濡らした。
時折陽当たりがいい部屋には人影が往来し,
使い切られて机の上のセロハンのように交換された。
癖ある人は出だし1回は無駄に切ることもあり,
セロハンは引っ張られると1回飛び跳ねた。
そこにはある意味は変わらないことを確かめることで,
そこにはない意味はないまま語れなかった。
何を食べたのだろうか。
何を食べたいだろうか。
言語が違い,共有項は見つけにくい中で
蝸牛の前後は距離も縮まらないまま
質問を2つ発することも出来ず,
早い夜明けに仕事を終えて帰路につくことを始める。
方向転換を可能にする殻は,
蝸牛に思わせることを気付かせない。







蝸牛であることにはそこに,
気のせいかとも思える経験の体感がいつも残る。
けれど歩みを進めるごとに繰り返し再生も出来ず,
辞書並の語彙力より
(例えばそこに「心残り」と当てはめる等の手作業のこと),
よく葉を噛み消化を待って日向ぼっこの葉影の下にいる事が多く,
涼しさに暑さを和らげ冷たさに,
暖かさをより感じて試みに覆った葉っぱから顔を出す。
今日も雨は来ないと呟いて
雨は降るんだと思い直したり,
コリをほぐすみたいに触角を回した。
塀のコンクリを歩く修練を積み重ね
たまに人家の屋根で時間を過ごした。
直角で見る空は終わる落下を捨てていて
直角で向かう地面は這う自由を確かめていた。
粘膜を知るには蝸牛は忙しく
雨のためによく待ったから,
その違いは葉っぱほど
噛み締めなかったけど,
殻が1つの木片のように鳴って
鈴音に割れてしまいそうな
潮騒にひび割れそうな,
そんな妙な軽さを,
上部下部と葉渡りする雨が
落ちた地面で鳴らす足踏みに,
空はそこだと伝える意思に,
伸び伸びと育て迷わずに
次の洗濯まで雨を待つ。
そうすれば重力は少し助けを暮れるのだ。
渦巻はもう一周巻かれ,
貰える力は鉢巻も巻いた気分でスタートもせずに
葉っぱをもしゃっと噛めもする。







よく噛むたびに消化にはまだ早くて
欠伸は出来ずに眠くなる。
明日の天候を占うには
知識と手が足りていない。
それでも太陽は着実に上り
そして確実に沈んでから
生きる蚕が少し糸を吐くように,
夜露が朝露になるように,
ただ画面を眺めて待ち受けを想う
受信箱の当然の静けさに
心寄せる寝返りがあるように。







果たして降った雨は,
蝸牛が思った雨を含み
そうでないものも含んだ。
着任したばかりの種が驚く雨脚は
樹々の内側でも勢いはよく
蛙の子が遊べる程の流れるプールも生まれた。
葉先から揺れて見える曇天が連なる。
冷え込むの気にせずに長くなりそうだった。
見てきたもの,
感じてきたものがあって,
ある程度まとめても話し
また個別にも話した。
触角アンテナの根元を丁寧に動かして
質問を控えて聞いた。
必要な質問を選び,
後から出来る質問は読む順番に置いて
(しかし背表紙は見えるようにして),
深く頷き,
浅く理解し
ただ距離を測ったものもあった。
仕事の話は始まり,
近所で生まれ育った生い立ちに
直近から恐らく死ぬまでの未来は,
直線に進む時間に気を付けていた。
雨は全体をまとめて聞いたり
部分部分をばらけて吟味したりした。
間に降り落ちるものは蝸牛にならず
(そして雨にもならず),
ヘッドライトに輝いた。
光に変わりないから,
あれば陽光も全方位の空に帰しただろう。







雨脚に気をつけていた話し声は小雨では大きかった。
少し沈黙したのは
相応しい声量を耳から整えるため。
少し時間がかかったのは,
周囲の葉すれが風に吹かれてから聞こえてくる遅い時間を,
自然に含んでいるせいだった。







通りすがりのウェザーリポートは
晴れを告げ去る。
雨を知りたかった蝸牛は
触角アンテナの根付け部分を回す。
新しくなって入ってくる事は,
新しい事そのものかもしれず
新しく知った事かも知れなかった。
昨日の雨はもう居ないし
(自然の雨は循環して,
またこれからも会えずに),
渦巻はさらに一周して
蝸牛は重力に回って新たな気持ちになっている。
鉢巻すら巻かずに,
葉っぱをもしゃもしゃっと噛めもする。







消化には早いので排泄は遅くなる。







雨が知りたい蝸牛は晴れ間を大事にする。
触角アンテナの根付け部分を回したから,
新調しようか迷う殻のまだ良い所を
1つまた1つと確認し,
今度は合間に葉を終わるまで食べない。







蝸牛は待った雨になってみた。
その手探りは奥まったものにならなかった。
生きる蚕が糸吐くように,
夜露が朝露になるように,
ただ画面を眺めて待ち受けを想う
受信箱の当然の静けさに,
心寄せる寝返りがあるように。

雨が知りたい蝸牛は晴れ間を大事にする。

雨が知りたい蝸牛は晴れ間を大事にする。

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-11-06

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