星の終焉

 幾つもの星が存在するなかで生命体はきっと無限に近い状態で生まれては死んでを繰り返していることを想像するとその漠然としたイメージの曖昧さと底の見えない感覚にくらくらした。忘れ去られた街の壊れかけた映画館で観た映画の内容が悲しい恋の物語であったことを君は覚えているだろうか。端の破れたスクリーンに映る見知らぬ男女の駆け引きなるものを無感動で僕は観ていて、君がどういった感想を抱いたのかもわからないが荒廃した世界ではそういったものすべてが酷く渇いたもののように思えた。恋だの、愛だの、情だのというものが。
 あの日。
 君が宇宙の果てを見たいと馬鹿げたことを言い出した日に古ぼけた教会で出逢った白熊と僕は一夜を共にしたのだが、白熊という生きものは実に温柔でその大きな体躯と逞しい腕で力任せに物事を熟すのかと思いきやシーツを波立てることなくゆっくりと深くベッドに沈んでゆくような感覚を僕に植えつけたのだった。君のことはもう過去の記憶として自然に風化してゆくよりも脳裏から引き剥がしてしまいたくて何も考えられないくらいぐちゃぐちゃにしてほしかったのだが白熊の動きはただひたすらに穏やかで優しかった。熱くなった目頭を冷ます方法など思いつく余裕もない程どろどろにとかされ、ちいさな子どもみたいにぼろぼろと泣いた。涙腺が崩壊するというのはああいう状態のことを云うのかと今ならそう客観視することもできるがその時は勿論そんな暇もなかったので白熊にされるがままであった。どうやって宇宙に行くのか。伝手はあるのか。知識は。宇宙の果てを見て君は何をどうしたいのか。僕と別れてまで君は宇宙の果てを見たいのか。あるかどうかもわからないものを。
 答えを導き出すこともできないで僕の頭のなかをぐるぐると回り続ける疑問は、やがてひとつの種となって僕の脳を養分に芽吹き蔓を這わせ花を咲かせて枯れ種子を残し再び芽を開くのかと想うと鬱陶しいことこの上ない。僕よりも何倍も大きな白熊の手が僕の体を滑ってゆく感じが心地よくて嗚咽は止まらなかった。僕と言語の異なる白熊がでも言葉を発さなくともその手の動きで僕を慰めようとしていることがわかって、ますます泣いた。
 滅びかけたこの星で、君だけが僕のすべてだったのだ。

星の終焉

星の終焉

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-26

CC BY-NC-ND
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