小さな変わり者たちの日常

さんかい

  1. 1日目 3-F
  2. 2日目 三寒四温
  3. 3日目 in ミサオ’s house
  4. 4日目 アポなし旅
  5. 5日目 帰り道
  6. after
  7. 6日目 ただきのこ派かたけのこ派か争ってるだけの話
  8. 7日目 G

お久し振りでございます、さんかいです。前の休校中のとき、なんかやろうかなぁなにやろうかなぁなんて悩んでたら結局なにもできないまま終わってしまったので、今回はなんかやります。特になにもしないホンワカした日常を書きたいと思います。一日一つ更新で、休校が明ける5/10まで続ける所存でありますぜ。よろしくお願いいいたします。

1日目 3-F

桜の花も散り、葉桜ももはや終わり、すっかり夏装備の桜が校庭に立ち並んでいた。散った花びらがひらひらと踊るように舞い、小鳥のさえずりが春の訪れを祝っている。
そこは特に特別すべきところもない、ごくごく普通の中学校だった。そこで生活するまさに青春時代真っ盛りの少年少女は、春に浮かれ、やれ恋だのやれ勉強だのやれ部活だのと、忙しなくも華やかな学校生活を……

「コラァァァ小影(こかげ)ぇぇぇ‼小影(こかげ)美青(ミサオ)ぉぉぉ‼」

……果たして送れているのだろうか。



「なんすかセンセー。私寝たいんでちょっと静かにしててくださいっす」
小影美青、そう呼ばれた女生徒は、気だるげに上体を起こした。ボサボサのくせっ毛に着崩した冬の制服。授業などお構い無しに堂々と居眠りを敢行しようとするその様は、呆れを通り越してもはや周囲の者を感心させていた。
「寝るな‼いや、というかそれどころじゃないだろうお前‼」
眼鏡をかけた数学教師が、生徒たちに見せつけるかのように、誰かのテスト(20点満点の小テスト)の答案用紙をひろげてみせた。
そこには汚い字でおそらく「小影美青」と書かれているが、それ以外は全て空欄、真っ白の答案だった。
……いや、真っ白ではなかった。端の方になんとか読み取れるレベルの文字が書かれていた。
“人生に答えなんぞいらん!”
そこにはそうとだけあった。
「お前アホだろ⁉今年受験生なんだぞ⁉なに考えてんだお前‼」
成績に直結するテストだからな⁉お前わかってる⁉と教師は半ば叫ぶように言った。
しかし彼女は素知らぬ振り。まるで他人事であるかのように窓の外を眺め、「あー……あの雲の形、轢かれて死にかけのカエルに似てる……」とわけのわからないことを呟いている。
しかし周囲はそんな彼女の行動に慣れきっているのか、「いつものことでしょー」と言うかのような態度を示している。教師の声もまるで聞こえていないかのようだ。そのなかで、ミサオの隣の席の一人の少女が、ハァ、ともはや諦めたような溜め息を漏らした。
「あんたねぇ、そんなんで受験とかどーすんのよ。去年まではまぁ容認してたけど、今年になってもやってるようじゃ、いよいよ笑えなくなるよ?」
少女の名前は()日向(ひなた)(ハル)といった。彼女の持つ答案用紙には「20 very good‼」とあり、書かれた答えのその全てにマルがつけられていた。
「うっせー。学校とか勉強とかどーでもいい。つーかそれよりあまもりやりたい」
「あまもり?なんそれ」
「“雨漏り・借金地獄の森”。強制的にローン組んでくる借金取りタヌキから逃げるゲーム」
「違くない?いや違くはないけど……ていうか“雨漏り”の時点でもうボロ屋じゃん。アウトじゃん」
「コラーそこー‼授業中にゲームの話をするなー‼まぁ俺もやりたいけど‼」
「「「先生もプレイヤーだったああ⁉」」」
「センセーそれマ?なんレベ?」
「13」
「ハッ、勝ちましたね。私108です」
「「「プレイしすぎだろ‼」」」
どうやら、このクラス「3-F」には、かなりヤバい連中がいるようである。

東西東西、お立ち会い。なにをするわけでもない馬鹿げた阿呆どもの話、今日(こんにち)より、ここに始まります。

2日目 三寒四温

「あぁ……帰りてぇ」
「教室入って席ついて二秒後に言う言葉?それ」
怠そうに言うミサオにハルが笑う。
三寒四温とか言うが、まさに今日はたまに訪れる悪天候日だった。花曇りと言うのには色々な意味で微妙なラインの天気である。雨雲はまだまだギリギリ持ちこたえているといったような雰囲気だが、午後には雨が降りだす予報だ。ハルはその微妙な空模様を見遣り、ハァ、と重い溜め息を吐いた。
「やぁーな天気。帰る頃は降りだしちゃうかな?確か予報だと四時頃から降るって言ってたけど」
「えーそれマ?私傘ないんだけど」
「うっそやろお前。朝予報とか見てないの?」
「朝はギリギリまで寝る主義でして」
「あぁもうあんたは……しっかし」
ハルはもう一度空を見た。心底嫌なものを見る目である。
「雨って嫌いなのよね私。頭痛くなるし、ジメジメするし、洗濯物は外に干せないし」
ミサオはそれを聞き、机に突っ伏した状態から身を起こして、窓の外、白い枠に収まった空を見て、
「そうかな」
と呟いた。
「え?」
ハルが外から目を離し、隣に座るミサオを凝視した。
「……なに見てるのさ」
「いや、あんたが会話を続行すんのって珍しいなって。ほら、あんたよく言うじゃん?『会話すんのめんどくさい』って」
「会話を面倒だなんて言ってないよ。会話の合間合間で呼吸すんのが怠いなってだけ」
「なにそれもっと重症じゃん」
息しないと生きてけないじゃんバカじゃないのあんた、とハルが言うと、うるせぇこれが私の生き方だ黙って見てろや、とミサオが睨み返した。
ハルはそれでどこか諦めたような表情で肩をすくめたが、無論、呼吸をしないで生きていけるわけはない。そこをハルが指摘しないのは、彼女がミサオの頭の加減を知っているからである。
「で?」
「おん?」
「だーら、あんたはさっきなんで『そうかな』なんて言ったの?ってこと。なに?雨好きなの?」
ハルの問いに、ミサオは鼻で笑って返した。
「当たり前っしょ。このジメジメ具合大好き。私みたいで」
「うわぁ……根っこ曲がってんね」
でしょ?ミサオがそう悪っぽく笑うと、ハルは、あんたらしいわ、と呆れたように口の端を上げた。
「でもいいじゃん、雨って。例えばほら、植物とかが雨に打たれてるのを見ると、めっちゃ綺麗だったりしない?」
「あぁー……それはわかるわ」
目を閉じて、ハルは雨に打たれる植物を思い浮かべた。山のなか、水に濡れた緑が光を受け、艶かしく輝く植物たち。やがて雨は晴れ、空には虹がかかり、陽光が緑を美しく飾る。妄想のなかだというのに、やけに三次元的に思えた。
確かに綺麗だねぇ、そう純粋にハルは思い、そして口にした。
「そんな感じで。よくね?雨って。あと純粋に、このジメジメ感が好き。陰キャな私にゃお似合いよー」
「……最後のそれで全部いい感じの雰囲気ぶっ壊れたわ」
「らしいっしょ?」
「うん、らしい」

雨が窓を叩く。ジメジメとした空気が身体に纏わりついた。
しかし彼女たちは、そこまで嫌な気はしなかった。

3日目 in ミサオ’s house

「あー疲れたぜ」
ミサオはそう言って、帰ってきて早々家のソファに倒れこんだ。
制服のままなので、そのままだとシワがついてしまうだろう。しかしミサオは気にする様子もない。その様子を見ていた妹の()(シロ)が、「うわぁ……」と呟いてわかりやすくドン引いた。
「ミサオないわ……それはないわ……」
もはやマシロは姉を呼び捨てにしている。
「あーなにがー?つーかマシロ、テレビ点けてよ。なんか面白そうなのやってない?」
しかしミサオは怠惰である。
引かれたからちょっと直そうかしら……なんてそんなことは微塵も考えてなどいない。自分を貫き通すことは確かに凄いことだが、こういう面で自分らしさを全力でオープンされるともはや怒る気すらなくす。事実マシロはとうの昔に姉を諫めることを諦めている。
「マミートゥギャザーならやってるけど見る?」
「んー見る」
「見るんだ……うわぁ」
マシロは決して姉にどうこう言ったりはしない。ただただ引くだけだ。
普通の人ならこちらの方が(主に心の)ダメージが大きいところだが、ミサオにそんなものは通用しない。いつもと同じだ。タフなのかバカなのかは計りかねるところだが、どちらにせよここまでくると呆れを通り越して感心する。
ちなみに、この文章までがテンプレートである。
「あーマシロー、見てみて。うたのおにいさん変わってるよ。あ、おねえさんも変わってるー」
「たいそうのおにいさんとおねえさんも変わってるよ。もう私たちが見てた頃の人たちは一人もいないよ」
「そうだねぇ……あ、キャラクターも変わってる」
テレビに映るよくわからないキャラクターたちは、ミサオもマシロも知らない謎のキャラクターだった。
ところでマシロはあまり観ることに積極的ではなかったが、いつの間にかオレンジジュース片手に画面に観入っていた。
明るい画面の光が、二人の顔に映る。
「……時代は変わるもんだねぇ」
ポツリとミサオが呟いた。
すかさずマシロが突っ込む。
「時代なんて言ったって、ミサオまだ14、5年しか生きてないじゃん」
「でも確実に変わってるでしょ。こういうとことか、あとは……そうだな、携帯電話とかわかりやすいか」
「あー。私たちが生まれたときはガラケーだったのに、いつの間にかスマホ、みたいな」
「そうそれ、そんな感じ」
画面の向こうで楽しそうに笑う子どもたち。二人はそれを黙って見続けた。
マシロが呟いた。
「この子たちが大人になる頃は、どんな世の中になってるのかな」
「さぁね」
ミサオは即答した。
立ち上がり、マシロのオレンジジュースを奪う。
「あ」
マシロが奪い返そうとするも、ミサオは身長の利を生かしてそれを許さない。
無言の格闘を繰り広げながら、ミサオはまたポツリと呟きを溢した。
「未来のことなんか誰にもわからんよ」

「例えば明日、死んじゃうとしてもね」

4日目 アポなし旅

「ようハル。暇でしょ?」
「いやなにあんたどうしたの」
日曜日、ミサオはアポも取らずにハルの家を訪問していた。
一体全体、なぜ日曜日の午後に我が家を訪問するのだろうか。ミサオの奇行に慣れきっていたと思っていたハルも流石に困惑したが、まぁこいつの思考回路だしどうしようもないか、と考えるのをやめた。
「つうか暇でしょ?ってなによ。なんでうちに来たの?」
「いやアポなし旅やろうと思って」
「は?」
ミサオ曰く、アポなし旅とはアポを取らずに友人宅をいきなり訪問し、友人がいれば旅に誘い(断られれば仕方がないから諦める)、さらに次の旅の仲間を探しに行く、という目的もクソもないものらしい。
よくそんなもんやろうと思ったわね、と呆れたハルが言うと、だって暇なんだもん、とミサオは返した。
「で、ハルもどうかなって思って。暇だろ」
「だから暇人呼ばわりしないでよ。行かないわよ、よそを誘って」
「じゃあ仲間が増えたらまた来るわ」
「来ないで?」

in 友人その2宅の前──
「まぁそういうわけでだよ」
「いやどういうわけだ」
ミサオは友人その2である、クラスメイトの()(ばた)(リョウ)()の家に来ていた。
実はかくかくしかじかあってだな、とアポなし旅のことを伝える。リョウジは話を聞き終わると見てわかるほどに悪戯な笑みを浮かべ、そしてグッと右手の親指を上げた。
「じゃあ付き合ってやる。その代わり、次行く家はあいつの家な」

in リョウジの友人宅の前──
「で?それで僕を巻き込もうってわけ?」
「いいじゃんかよカタブツくんよ。お前いっつも遊ぼうっつっても素っ気ない返事ばっかりするじゃん」
ミサオとリョウジは、彼の友人である、真面目系眼鏡男子の(かき)(もと)(マサ)(ヒロ)の家に来ていた。といっても喋っているのは殆ど直接の自称友人であるリョウジだけで、ミサオはあくびを噛み殺してまるで他人事のようだ。
マサヒロは呆れたようにわざとらしく肩をすくめると、左手の人差し指を立てて説教をするように言い始めた。
「それはこの貴重な時間を君たちと遊ぶためなんかに使いたくないからだよ。わかってる?僕たち今年受験生なんだよ?それなのにそんなバカなことやって恥ずかしくないの?全国の僕たちと同じ学年の人たちは、今頃必死にカリカリ勉強を──」
「そっかぁ残念。次はアキナちゃんの家に行こうと思ってたんだけど」
「ちょっと田畑くん、誰が行かないなんて言ったのさ」

in アキナ宅の前──
「はぁ……それで私の家に?」
「そゆことー」
セミロングの髪を後ろで一つに纏めたこの美少女こそ、3-Fのアイドルこと(さわ)(ぐち)(アキ)()だ。彼女が出てくると、マサヒロはわかりやすく狼狽し、真っ赤になった顔を隠すように眼鏡を何度も押し上げた。
アキナは少し考える素振りを見せると、あ、と思い出したように言った。
「私、これからおばあちゃんの家に行くところだから、途中までは一緒に行こうかな」
「よーし仲間が増えたぜ」
ミサオは、端から見ると恥ずかしいくらいに大袈裟にガッツポーズを取った。
「で?ミサオ、次はどこ行くよ?」
リョウジがおどおどしているマサヒロを笑うように見ながら言った。他人を見ながら別の人と話すとは、器用なものである。
「んーだいぶ仲間が増えたし……じゃあハルんち戻るか」
「は?」

in 道中──
「あれーミサオじゃーん!」
「うげっ、また面倒くさい奴が……」
ハル宅に向かう途中でミサオ一行が出会ったのは、(はす)(ぬま)(オサム)、通称アホ。ミサオたちとは違うクラスだが、学年でも有名なアホである。彼のことが苦手だと堂々と公言しているリョウジが、わかりやすく眉をひそめた。
ちなみに彼と同類のミサオはよく彼とつるむため、この二人とある一人が一緒になると「三バカ」なんて呼ばれ方をする。バカなのかアホなのかはっきりしろやー!という意見もあるが、どちらにせよそういう常軌を逸した連中(かなりやさしい言い方)であることに変わりはない。
「あれれ、カタブツいいんちょーもいるー!って思ったら、なーる、アキナっちがいるからか!釣られたんだな!あははは!」
まことにうざいノリである。
さすがのアキナも「はは、コンニチハ」と愛想笑い。
カタブツいいんちょーことマサヒロは、あからさまにドン引いた。そして、恐る恐る、といった風にミサオに訊く。
「……ねぇミサオさん、まさかこの人も巻き込むとか言わないよね?」
「おおそれは()案だ。ちょうどいい、おいオサム!お前もカモン」
「おおっなになに⁉なにして遊ぶの?」
「だーっくそー‼俺はやだぞー‼どうなったって知らんからなー‼」
リョウジは頭を抱えた。

in ×××宅──
「……で?」
これでもかというほど眉間にシワを寄せたハルが、仁王立ちで立っていた。
「なんであんたらうちに来たのよ‼」
「だって来るって言っといたじゃん」
「本当に来ないでよ‼」
事情を説明しよう。数分前、ハル宅に到着したミサオ一行は、ピンポーン、とチャイムは鳴らしていた。そのときハルは二階で勉強をしていたため出られず、代わりに母親に出てもらったのだが、これが大間違い。母親は勝手にうちに上げた挙げ句、「ゆっくりしてってねー」なんて言ってしまったのだ。
一人二人ならいいものの、こんな人数を家にいれてどうすんだ!ハルは心のなかで思ったが、後の祭り。なにせミサオ、オサムに続く三バカの残りの一人は、紛れもないハルの母親なのだから。

「あー楽しい。アポなし旅いいじゃん、またやろうぜ」
「さんせーい!」
「もう二度とやるな‼」

5日目 帰り道

金曜日の学校からの帰り道。
一週間の疲れが溜まりに溜まりきっていたミサオとハルは、おかしなテンションになりながら帰宅していた。
と言っても普段よりおかしいテンションになっているのはハルだけである。ミサオはいつものことだ。
「で、そこで『お前はもう死んでいる』って言ったわけよ」
「うん、私キャラメルの話してたはずなんだけど」
「そこは『目が‼目がァァァ‼』でしょ」
「うるさいバルス」
「うあぁぁぁ‼私は決意で満たされた」
「あんたそれ元ネタわかってて言ってる?」
もちろんわかっていない。中の人はアンダー○ールはよく知らないのである。アン○ーテール知ってる人、ごめんね。
そういうのはちゃんと元ネタにハマってから使えよ、とハルが言うと、それもそうだな、とミサオが返した。
「……ミサオが素直だ」
「嘘だぁ。バリバリの反抗期よ。バリ島行けそうなくらい」
「誰もあんたが反抗期とは言ってないわよ。あとバリ島ってなによ」
「行きたいじゃん?」
「行きたいだけでしょ」
「あ~あ、あったかいとこ行きたい」
「沖縄でよくない?」
「国外がいい」
「我儘だなぁ……あ」
そんなこんなで、家の近くの公園を通りかかったときだ。
公園では、数人の子どもたちが遊んでいた。
いや、遊んでいるのだろうか。数人の子ども一人の子どもをつつき回すこの風景は、遊んでいると言えるのだろうか。
「……」
「……」
ミサオは息を吸い込んだ。

おれは息を吸い込んだ。
しかし吸い込んだだけで終わった。
「少年少女諸君んんんっ‼」
「うるさいミサオ」
バカみたいな声がした。この辺り一帯を揺るがすような、バカでかい声だった。
女の人が立っていた、それも二人。公園の入り口らへんに、阿呆みたいなクセっ毛の、まるで寝癖をそのまま放置していたみたいな人。それから隣に立つのは、セミロングヘアで制服をきっちりと着こなしている人。こいつらなぜ二人して歩いているのか、と疑問を覚えるほど違和感がある。

「……お前ら……ゴリゴリ君好きか」

しかしあの阿呆そうな女、どうやら中身まで阿呆らしい。
決めた。今からあいつの名前は「阿呆女」だ。

「好き好き!」
「なに?おねーさんくれるの⁉」
「いんや持っとらんぜよ」
「じゃあ奢ってくれんの?」
「おうよ。ハルがな」
「私が⁉あんたが奢りなさいよミサオ‼」

阿呆女の名前はミサオ、もう一人の人はハルというらしい。
ミサオは少年少女をまるで手下のように従えながら、最寄りのコンビニへ歩いていく。バカ正直なガキどもはミサオに続き、続々と公園をあとにした。
残ったのはおれと、独りだった彼女と、そしてハル。
「いいよハルさん」
おれはそう言った。
「行って」
ハルさんは驚いたようにこちらを見たが、なにかを察したのか「よろしくね」と言って一行を追いかけていった。



静かになった公園。
おれは振り返り、独りぼっちだった彼女を見た。
声をかける。

「大丈夫?──カナメさん」
「あの、ありがとう、かな?──晃太くん」

after

彼女は鷺原カナメ。
ちょっと変わり者で浮いている、クラスのあぶれ者。かくいうおれも例外ではないので、こうして普通に話すことに躊躇いはない。というか勝手に除け者にするあいつらが悪いので、特に気にしちゃいないけど
カナメはブランコに腰かけた。ふーわ、ふわと前後に少しだけ揺らした。錆びたブランコがギィ、ギィと悲鳴をあげる。
「アイス、食べに行かないの?」
「行かなーい。私、アイスって苦手なの。キンキンして歯が痛くなる」
「歯周病ってやつじゃない?」
「やだ。これでも今まで歯科検診で引っ掛かったことないのよ」
冗談のような会話。なんだか懐かしい感覚だ。
その感覚と思い出に浸るのもほどほどに、おれはポケットの中身をまさぐった。
「じゃあおれだけ一人でゴリゴリ君食ってよー」
おれとてアイスは食いたい。しかし付いていかなかったのは、その必要がなかったからだ。なぜならそれはご覧の通り、おれはアイスを持っていたから。さっきおばあちゃんの家に寄ったときにもらったものだ。おかげでポケット付近は冷たいが仕方がない。
おれはカナメの隣のブランコに座って、ゴリゴリ君の封を開けた。水色のソーダアイスが顔を出した。
ぺろりと舐める。ソーダの爽快感が舌の上で転がった。さらに一口食べてみせてから、おれはわざとらしく言い放った。
「はぁー、美味しー。これ食べらんないなんてもったいなーい」
隣をちらりと見る。羨ましそうにこちらを見ているカナメを見るに、やっぱりさっきのは強がりだったんだろう。
だろうと思った。おれはもう片方のポケットに手を突っ込み、ゴリゴリ君をもう一つ取り出した。
「あ」
「もう一個あるよ」
手を伸ばしてくるカナメ。
それをするりと避け、アイスをカナメの手の届かないところまで避難させる。
「……ちょーだい」
「100円で売ろう」
「えー……定価より高いじゃん」
「ワンコイン100円だよ?美味しいよ?」
「意地が悪いなぁ。トーカちゃんに言いつけーよお」
「うげっ、あいつに?おれあいつの目ぇ苦手なんだよなぁ」
「目付きの悪さは見逃してあげてよ。トーカちゃんも気にしてるんだよ」
そしてカナメは少し考えたあと、
「……しゃーない、20円で買ってやる」
「うっそ、定価より安いじゃん。まぁ売ってやるけど」
「やっさしー。さすが晃太くん」
「代わりに今度ゲーム貸せよ?」
「三日までなら貸し出そう」
「承った」
やりぃ、とおれは心のなかでガッツポーズをとり、「じゃあトーカコーカンね」、そう言った。
するとカナメはぎゅっと眉間にシワを寄せる。
「やだ、トーカちゃんをなにと交換する気?晃太くんきもっ」
「『トーカ交換』じゃなくて『等価交換』。取引成立って意味だよ。だから『きもっ』はやめて」
まじ?初めて知った、と言うカナメにアイスを渡す。
カナメは受け取り、封を開ける。水色のアイスをぱくり、と口に入れた。

「ねぇ、あのさ」
「なに?」
「おれたちって、独りぼっちだと思う?」
「は?二人だから、一人ぼっちじゃなくて二人ぼっちでしょ」
「はは、言えてら」
「でもいいでしょ。トーカちゃんもいるし」
「……まぁ、そうだね」

ねぇみんな、おれ、もう独りじゃないみたいだ。
ありがとうね。
おれ頑張るよ、ねぇ、ソラ姉。

「ねぇミサオー」
「しーっハル、今いい雰囲気じゃん」
「そうかな?」
「そうでしょ。青春ってやつ?」
「……違う気もするけど……」

彼女らがそんな会話をしていたなんて、おれたちは知るよしもなかったのだった。

6日目 ただきのこ派かたけのこ派か争ってるだけの話

「きのこの方が美味しい!」
「いや断じてたけのこ!」
「ねぇミサオとハルさん、私一体なにを見せられてるの?」

ここは私たち小影家の家で、そしてここはそのなかの、私、小影マシロの部屋。なのに、なぜミサオとハルさんがきのこたけのこ戦争を、しかもわざわざ私の部屋で繰り広げられているのだろうか。
と、回想するであろう雰囲気の文を書いてはみたが、正直、その必要もない。簡単な話だ。ミサオに呼ばれてハルさんが我が家に来たはいいものの、ミサオの部屋は物だらけで道ができるほど汚いし、リビングも散らかっているので入れない、よって遊ぶ場所がない。そこでとりあえず私の部屋、というわけだ。
そして、お一つどうぞ、というハルさんのお気遣いで持ち込まれたお菓子がたまたま「例のきのこのお菓子」だった。そして厚かましくも、「例のたけのこのお菓子」派だったミサオが不満を言い、それにハルさんが反論した。で論争が始まった。それだけ。

……あえて声を大にして言わせていただこう。
くだらなっ‼

「そもそもなんでたけのこがいいのよ。たけのこはきのこみたいにチョコとビスケットが分かれてないから、チョコが手に付いちゃうじゃないの」

「……あのー」

「こっちに言わせれば分かれてる方が嫌!たけのこの方がチョコとビスケットの一体感があっていいじゃん!あとビスケットの生地がサクサクだし」
「私はその穀物クッキーみたいな味が嫌なのよ。あと一体感とかじゃないのよ、きのこの魅力は。チョコとクラッカーが分かれてるからこそ、一つのお菓子で二度楽しめるんじゃない。あと手が汚れないから。ここ重要」
「手?まるごと口に突っ込めば手とか汚れないでしょ、これ名案!つかその点、きのこは口に突っ込んだときゴロゴロしててやだなー。食べにくいじゃない」

「……そのー」

「まずお菓子を一口で食べようっていうとこから間違ってんのよ。あーまぁ?そういう子どもじみた考えの人にはわかんないかもね?きのこの魅力は」
「は?ハルのくせに煽ってんの?うっざ。ていうかそういうハルこそわかってないね!ああいう一口サイズのお菓子は、一口で食べるからこそ美味しいのよ。チョコとビスケットが口のなかでいい感じのハーモニーを奏でるの」
「なによいい感じのハーモニーって」
「あーあ、ハルには一生わかんないのかぁー。もったいないけどザマァないね」

「……」

「は?うっざ。つかそもそもよ?そもそもたけのこはビスケットに比べて圧倒的にチョコが少ないじゃないの」
「あ、それ言っちゃう?じゃあこっちも最終兵器出すよ?いいの?はい言っちゃいまーす、たけのこの方が数が売れてる。はいー言っちゃった。最終兵器出しちゃったー」



無視されること三回目。ついに私の堪忍袋の緒が、ぶちりとアキレス腱を切ったとき並みの音を立てて切れた。
私は無言で立ち上がり、自分の机に向かい、引き出しを開ける。そして、今や幻と化した「例の菓子」を取り出した。
ミサオとハルさんを振り返る。普段冷静なハルさんですら、この問題を目前にして怒りに満ち溢れていた。なんと醜い争い、きのこたけのこ戦争。

それに私が、今から終止符を打つのだ。

ハルさんの手にあった「例のきのこのお菓子」を取り上げる。論争に夢中だったので簡単だった。
「え?ちょ、マシロちゃん?」
「いいぞマシロ、そのままゴミ箱にシュートだ」
「いやそれはさすがにきのこへの敵意強すぎない?なにマシロちゃん、捨てるの?」
はぁ、と溜め息を吐く。

勘違いしないでいただきたい、ハルさん。
私はきのこ派でもたけのこ派でも、ましてや中立の立場でもない。
私が好きなのは、あまり有名ではない「第三勢力」だ。

私はまたも無言で、「例の菓子」を突き出した。
「!これは……」
「マシロ……貴様まさか……」



これはきのこでもたけのこでもない、「すぎのこ」だった。




※「すぎのこ」とは……ググれば一発です(書くのがめんどいとか決して絶対そんなわけじゃない)

長らくサボっててすみませんでした。これから頑張ります。

7日目 G

ある日の3-F教室。その日はいつものように平凡な月曜日だった。
しかし、平穏とは突然壊れるものである。ある存在によって、平和な日常は崩れ去ったのだった。

「ぎゃああぁぁぁぁ‼」
「おぅわぁぁぁ⁉」

最初に叫んだのはリョウジである。そう、覚えているだろうか、ミサオたちのクラスメイトの()(ばた)(リョウ)()である。
ちなみに後に叫んだのはミサオである。全くもって女子らしくない声だ。
「どーしたのよ、昼休みだっていうのにギャーギャーと」
ハルは叫び散らす二人を迷惑そうに睨んだ。
そりゃそうだろう。今の声はきっと校舎中に響いた。それぐらい大きな声だった。
「というかミサオに至ってはリョウジの大声を聞いたあとに叫んでたじゃない」
「いやー、つい条件反射?で」
「なによそれ」
今日もミサオは通常運転である。

「お、お、落ち着いて聞けよ」
「いやそう言うあんたから落ち着きなさいよ」
すぅー、はぁー、深呼吸だぜ、とミサオが促すと、おーけーおーけーあいむリョウジ、とリョウジが全く落ち着いていない返事をした。

「い、今、今そこに」
「そこに?」
「そ、そこにっ!」
「そこになによ、さっさと言いなさいよ」



「そこにっ!G(アイツ)がいたんだよっ‼」

「は、はぁぁ⁉」
「……よろしい、ならば戦争だ」

小さな変わり者たちの日常

小さな変わり者たちの日常

いやいやいや、とそのタイトルを見たとき、私は思った。「変わり者」だと?確かに彼女は「そんな感じの人」だが、彼女を表す言葉として「変わり者」というのはやさしすぎる。胸を張ってこう言うべきだ──彼女は「変人」だと。by小日向

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-04-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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