四月

今年の花見は自粛でしたので
以前、職場(飲食店)で四月をテーマに文章を書く機会があったのでそのまま載せます。
2018年の作品です。

四月

いつの間にか町の木々は、
寂しくなった緑を隠していた雪化粧を落とし初々しい芽が顔を出していた。
駅前には真新しい制服の学生やスーツを着込んだ新社会人の姿が見える。
友人と笑話に花を咲かす学生とは真逆に新社会人は口を一文字に緊張した面持ちで電車を待っている。
四年に一度のオリンピックも終わり四月は私の誕生日があるのと競馬の春のクラシックが始まる以外に何も思い浮かばない。
アルバイトの子に四月について聞いてみると年間で自殺者が一番多い月だと返ってきた。
四月は始まりの季節だと言われているのに何とも残念な話である。
その子のネームプレートの櫻と言う漢字に目が留まった。

そうだ、四月は桜がある。

日本料理でも桜に見立てた料理が多くあり、
百合根を花弁にしたり当店も鯛子と青豆をゼリーで固め花にしたりする。
私は今までに桜に対し特別な感情や有難みを感じる事は無かった。
当店がある吉祥寺には井の頭公園があり、そこに咲く桜は多くの花見客を呼び寄せる。
花見客と言っても殆んどが花より団子いや酒で騒ぐのが大半である。
私は何故、桜がそれ程に人を魅了するのか興味が湧き
毎日の様に休憩中に店を出て公園に咲く桜を眺めた。
桜が三分から七分と咲き始めると人が増え満開と同時に花見客が押寄せてきた。
私は満開の桜を見ても何も感じる事が出来なかった。

やがて桜は散り始め、徐々に花見客の姿も少なくなってきた。

等々、殆んどの花が散ってしまい私は何も感じずに公園を後にしようとした
その時、一瞬にして目が奪われ全身に震えが走るのを感じた。

散った桜の花弁が渦を巻き空へと舞い上がった。
それは何とも美しい桜吹雪だった。

最近見たフィギアスケートの羽生選手の華麗な舞にも例えられるし
昔フィルムで見た戦時中に敵艦に体当たりして果敢無く散った若者にも見えた。
私が我に返ると花弁はゆっくりと足元に落ちてきた。
その花弁はどこか愛おしい物に感じた。
私はその花弁を眺めながら花も人も散り際が一番美しい方が良いと思った。

                              ラムカタ ダンカ

四月

四月

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-24

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