きみとぼくの十八時から六時まで

 六時になると、夜のばけものは消失した。
 朝のばけものがにたにた嗤っているので、たぶん、六時になると夜のばけものを、朝のばけものが消しているのだと思った。じゃまなの、とたずねると、朝のばけものはとつぜんまじめな顔になって、あたりまえでしょ、と深く頷いた。
「十八時なるとあいつがわたしを消すのだから、わたしも六時になったらあいつを消すに決まってるじゃない」
 朝のばけものは、はきはきと言った。ぼくは、なんだかいやな感じだな、と思いながら、しおれた月見草を土にかえした。月見草は、夜のばけものにもらったのだった。朝のばけものは、六時から、十八時までのばけものであり、とにかく、いうなれば、魔女、のような雰囲気の、けれども、身につけているものだけみれば女神のような、つまりは、しゃべらなければ、ばけもの、と呼べないほどの、うつくしさではあるのだけれど、正直、ぼくからすれば、ただの、性格の悪いおんな、である。対して、夜のばけものは、争いごとを好まぬ、おだやかなおとこ、である。しかし、朝のばけものからみれば、かれは、優柔不断でつまらないおとこ、であるらしい。ばけもの同士、仲がいい、というわけではないのは、まぁ、にんげん同士と、おなじようなものかと思うのだけれど、ぼくは、断然、優柔不断で、つまらなくても、夜のばけものの方が、好きである。月見草を、すこし照れくさそうにプレゼントしてくれる、夜のばけもののことが、好きである。二十四時間、ずっと、夜のばけものが消えないでいてくれればいいのに、それは、世界の理的に、いけないことであるのだと、夜のばけものは、やさしくおしえてくれた。
「どうせ十八時になればまた性懲りもなく出てくるんだから、まったく、担当制度なんてさっさとなくしてほしいわね」
 朝のばけものはくちびるに、赤い口紅をぬりたくっている。春の六時なので、もう、空は明るくて、夜のばけものと過ごした夜が、まるで、夢だったかのように、かすんでゆく。これから、にんげんたちの時間になる。夜のばけものは、ほんとうは、うごいているにんげんたちを見ているのが好きなのだと云っていた。夜は、うごいているにんげんたちがいなくてさみしい、とも。
 土のうえにおいた月見草を、ぼくは踏みつけた。土にこすりつけるように、たんねんに、ぐりぐりと踏みつぶした。しおれた黄色い花が土まみれになって、無性にかなしかった。左胸のあたりがつきんと痛むくらい、かなしかった。朝のばけものからする朝のにおいが、だいきらいだった。

きみとぼくの十八時から六時まで

きみとぼくの十八時から六時まで

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-24

CC BY-NC-ND
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