【真選組】call me

しずよ

二次創作につきご注意ください。
真選組の年末のお話です。(山崎がメイン)原田が町内会の餅つきに呼ばれて山崎が様子を見に行ったり、気になる捜査を少しこなしたりしてます。カップリング要素はありません。が、土山の人が書いておりますので、そう感じられたら申し訳ございません。
個人サイトに2011年ころ掲載していたものに、加筆修正しています。

 朝礼が終わって山崎が自室へ戻ると、机の上の携帯電話の角がピカピカと光っていた。着信を知らせる点滅だ。名前を確認すると、村田鉄子からだった。
 妖刀・紅桜をめぐり村田兄妹を巻き込んだ高杉と桂と万事屋の抗争が、一応の決着を見せたすぐ後のことだった。山崎は鉄子に情報屋としての協力をお願いしたのだった。事件の関係者には、鬼兵隊が再び接触する可能性があるからだ。他の浪人にも接触する機会が多い。だから保護を兼ねての要請だった。
 通話ボタンを押す。
「はい、山崎です。おはようございます。何かあった?」
「あ……おはようございます、村田です。朝からすみません……。あの、大した事ないかもしれないけど……」
 相変わらず鉄子はおずおずと自信のない話し方をする。
「いいよ、どんな小さいことでもありがたいから。電話じゃまずいから、これからそっちに向かっても大丈夫かな?」
 山崎自身の携帯電話は盗聴の対策はなされているが、鉄子がどんな状況で通話をしているか分からない。なので直接会って話を聞くことにした。



 土方に銀時を探れと命令されて、恒道館にひそんだその帰り、山崎は初めて鉄子と会った。銀時と仲が良いとの勘違いから、警戒されずに済んだことはラッキーな出来事だったと振り返る。
 隊服で鍛冶屋に出入りするわけにはいかないので、地味な私服に着替える。真選組が徹子に接触していると知られない方がいい。
 土方へ断りを入れて、鉄子の家へ向かった。
「ごめんくださーい」
「……いらっしゃい。あの……、わざわざすみません」
「いや、気にしないで。電話ありがとう」
 鉄子と話すようになってから何ヶ月たっただろうか。今日もいつもと変わらず彼女はもじもじとしている。
 山崎の周りには、男女問わず自己主張の強い面子ばかりなので、こういう引っ込み思案は非常に新鮮にうつる。
 鉄子は作業の途中だったようだ。打った鋼の形を、大まかに整えるやすりがけをしていた。今では山崎も真剣を作る工程にすっかり詳しくなってしまった。
 まだこの時点では、刀と呼べる段階ではない。冷徹な美しさを醸し出すあの刀文や独特の反りは、次の行程で出てくる。現時点では単なる薄い鋼である。
「連絡どうもありがとう。はい、これどうぞ」
 手土産を渡す。包装の中に謝礼もいれてある。そして、鉄子が遠慮の言葉を言い出す前に、話をするように山崎は促した。
 鉄子は静かに話し始める。
「昨日打ち終えた分を、鍔の職人さんのところへ持って行ったんです。そしたらその人が妙なことを言ってて。ここ二〜三ヶ月、同じ模様の鍔の注文が入るそうなんです。お客さんの職業や住んでいる所とか関連は無いみたいだけど、そう言うことは普段ないから珍しいって言ってて……」
 山崎がすぐに思い浮かべたのは、団体のシンボルマーク的な意味合いの物である。何か新しい徒党でも結成されたんだろうか?
「鍔の職人さんか……。その、同じ柄の鍔を注文するお客さんの連絡先を聞いてないよね?」
「ええ、そこまでは……、ごめんなさい」
「いや、いいんだよ、ホント気にしなくて。ほら、個人情報保護とかあるし」
「あ、でも昨日うちからその人に渡した刀身も、その鍔で仕上げるよう連絡を受けているって言ってました」
「そうなの? ひとりだけでも分かると助かるよ。あと、鍔職人さんの事も教えてもらえる?」
 山崎は怪しいと思われる客の一人と、職人の氏名と連絡先を聞き、鍛冶屋を後にした。住所を確認する。ここから遠くもなく電車だと十五分くらいで着きそうだったので、見て帰る事にした。携帯のGPSで鍔職人の作業所を確認し、少し手前から眺めた。村田家と同じく年季の入った建物だ。
 電柱の影から三十分ながめる。それから素知らぬ振りをして前を通り過ぎる。裏に回って裏口を三十分見ていたが、人の出入りは特にない。その怪しげな連中について直接たずねたら、教えてくれるだろうか。やはり客の話を聞き出すのは難しいだろうか。どちらにしろ土方に報告を上げて判断を仰いだ方が良さそうだと感じて、出直すことにした。
 間もなく正午になろうとしている。この近くの定食屋を探して昼食をとることにした。食べている最中も、他の客や店の者の言葉に聞き耳を立てていたが、それらしき話は拾えなかった。


 山崎が屯所へ戻ると、すぐに土方がやって来た。
「山崎、見回りに出るぞ」
「あれ、原田と一緒だったと思ってましたけど」
「原田は二時から町内会の餅つきに出るから、俺と代わったんだ」
 近隣住民との親睦をはかるため、町内会主催の年末恒例行事の餅つきに、真選組は二年前から参加している。その日の勤務状況で餅つきに参加する隊士は決めているのだが、昨年出た原田は今年も早々に参加が決定していた。というのも、主催団の一人である青年団長と意気投合したらしく、餅つき後の打ち上げに近藤と共に飲んだくれて帰ってきたのだった。
 原田はこの手の話が多い。だから「お前ほんと男にモテるよな!」と昨年は山崎はからかっていたのだが、実際のところは自分の友達が人から好かれるのは嬉しくなるものだ。昨年のことを思い出して、山崎が勝手に誇らしい気分になっていると「早く隊服に着替えて来い。先行くぞ!」と土方が急かした。山崎は慌てて部屋へ戻る。
「餅つきが三時頃終わる予定だ。だからそれに間に合うように、今日はいつもの巡回ルートとは違うからな」
 歩きながら土方が説明する。
「副長が挨拶に行くんですね。局長は今日は本庁なんですよね?」
「まあ一応今日が仕事納めだからな。もっともそんなの本庁職員の極一部だけだろうって」
 まず向かうのは隣町の駅方面だった。すると歩道の先の方に、座り込んでいる老女を発見する。
「どうかしましたか?」
 声を掛けたのは山崎だったが、老女が視線を向けたのは後ろにいる土方だった。
 あ、俺このおばあちゃんに絶対認識されてないぞ。
 山崎は心の中でそう思った。が、それが自分のアイデンティティでもあるので、特に悔しいとも思わない。
 老女は土方に向かって理由を話し始める。なんでも、シルバーカーのタイヤが動かなくて困っている、との事。土方の顔しか見ていないので、山崎は徐々に後ろへ遠ざかった。この件は土方に全部任せる事にした。
 土方がしゃがんでタイヤを確認している。それを離れた所で山崎は眺める。どれくらいで終わるかなぁ。ぼんやりして待っていると、横から「あの、すみません」とサラリーマン風の中年男性から声をかけられた。
「ここへ行きたいのですが、どのバスに乗っていいか分からなくて……」
 おそらく出張かなんかで江戸へやって来たんだろう。大きな荷物を持っている。年の瀬に大変だな。山崎は同情した。
 駅の近くのバス停留所の前に来る。山崎は路線図と時刻表を見て、バスの系統番号を確認する。
「29番か31番のバスに乗ったら大丈夫です」
「ありがとうございました」
 監察方は見回りに出ることが少ないので、こんな風に市井の人々から直接感謝されることは少ない。だからとても清々しい。が、爽やかな風が吹いたのは、ほんの一瞬だった。
「……おい、そっちはもう済んだのか」
 地を這うような声が横から聞こえる。山崎がこわごわ振り向くと、険悪な形相の土方がいた。タバコのフィルターを噛み締めている。
「あ、あの、タイヤは直りました?」
 山崎が迫力に押されて、後退りしながら尋ねる。
「ビニールロープが絡まっていただけだ」
 先ほどよりも更に低い声。そして、獲物でも追い詰めるような緊迫感で、土方はじわじわ山崎に近付く。そして線路の目立たない側道に入ると、感情を爆発させた。
「てめっ、人に修理押し付けやがって!」
 土方は山崎の足を蹴る。
「だってあのおばあちゃん副長に修理して欲しかったんですよ。“あんたいい男だから役者さんかと思ったよ!”って嬉しそうだったじゃないですか」
 そんな風に面と向かって褒められるのは、照れくさくて土方が苦手にしていることを、山崎は知っている。だからわざと強調して言ってやったのだ。
「うるせえ、そんなことはどうでもいいんだよ!」
 もう理屈なんてどうでもいいヤクザ者の台詞だった。でも先ほどと比べると迫力がなくなり、手も出なかった。
 よし、怒りを分散させるの成功、と胸の中で山崎はガッツポーズをしていた。
 それはそうと不意に山崎の目に付いたのは、土方の真っ黒な両手。おそらく油と泥汚れだろう。
「副長、駅の反対側にコンビニありますよ。手洗いに行きましょう」
 二人でコンビニへ向かう。隊服では雑誌の立ち読みをするわけにはいなかいので、山崎は店の外で待つ事にした。
 こういう時は、喫煙者だと一服できてちょうどいいんだろうなぁ。
 手持ち無沙汰で空を眺める。山崎は浪人などの監視のために、昼夜逆転の生活が実働部隊よりは多い。こんな風に冬の澄んだ青空を見れる日は、実は貴重だ。間もなく土方が店から出てきた。
「ハンカチ忘れた。貸せ」
「え、俺ハンカチなんて持ち歩きませんけど」
 山崎がそう答えると、土方は呆れた表情になる。
「じゃあさ、手洗った後どうすんだよ」
「こうやって自然乾燥です」
 山崎は両手をぶらぶらさせた。
「そうか、洗わない訳じゃないんだな……」
 土方の声は心なしか元気がない。
 それきりくるりと背を向けると、餅つき会場である公民館へ向けて歩き出した。もと来た道を引き返し、大きな道から横道に入り、二十分ほど歩く。するとその辺りは住宅街だった。そして、たくさんの人が集まっている広場が見えてきた。
 人だかりをかき分けるように、建物近くまで進む。玄関横にある水道で、臼と杵がジャブジャブ洗われていた。餅つきは予定通り、すでに終了していた。
 山崎が建物の横をみると、たくさんの女性がテーブルで餅を丸めている。その周囲には子どもがさらにたくさんで、紙皿に乗せた餅を頬張っている。土方は建物の玄関奥に町内会長を見つけて、そちらに歩いて行った。
 残った山崎は原田がどこにいるのか探した。すると婦人達が餅を丸めている広場のさらに奥で、若い男と話しているのが見えた。
 そちらに近寄る。
「原田、お疲れさん」
「おお、山崎来たな。もうちょっと早かったら餅つきできるところだったぞ。そうそう、こっちが青年団の団長さんだ。俺は去年も世話になった」
 青年団長と山崎がお互いあいさつを交わす。原田は自分で鏡餅を丸めたらしく「ほら、これ屯所へ持って帰れ」と山崎に手渡した。大きい方の餅は、直径三十センチはありそうだ。かなり大きい。
「原田はまだ帰んないの?」
 山崎がそう尋ねると「原田さんにはこの後の打ち上げにも参加してもらいます!」と青年団長が屈託のない笑顔で答えた。
「そっか。じゃあ俺は帰るわ。飲みすぎて団長さんに迷惑かけんなよ」
 よろしくお願いします、と山崎は団長に頭を下げる。
「そうだ、山崎」
「なに」
「動けなくなったら電話するから。車で迎えに来いよ」
「タクシーで帰って来いハゲ」
 山崎は軽口でその場を後にした。
 食べながらもうろちょろ動く子ども達の間をすり抜けようとしていると「あんた手が空いてんならたくあん切ってちょうだい! 足りないのよ!」と山崎はおばちゃんに横から袖を引っ張られた。
「普段料理する?」
「しないですね……」
「ま、刀持ってるなら大丈夫でしょ」
「……」
「玄関の横の水道で手を洗ってらっしゃい」
 なんて一方的なんだ……。
 そう思いながらも、必要とされて悪い気はしない。手を洗って戻ると「はい、これたくあんと野沢菜。包丁は今持ってくるわ。まな板はそこ使って」と、てきぱきと指示された。
 包丁を受け取り、適当な大きさに切っていく。切っていると、なんだか一切れつまみたくなってきた。一切れくらいなら食べてもいいよね?
「お前なんで参加してんだよ」
「うわっ、つまみ食いなんてしてません!」
「は? なに謝ってんだよ」
 突然、声をかけてきたのは土方だった。挨拶が終わったらしい。
 土方の手をよく見ると、紙皿を持っていた。それもきな粉三つに、餡餅が三つも乗っている。おやつにはずいぶん多いな。山崎が考えていると「ほら食え」と餡餅を箸でつまんで土方が差し出す。
 全部自分で食べたくないから、俺に押し付けようとしているんだろうな……。それか、今日に限ってマヨネーズを忘れたのかもしれない。
「副長のもたくあん無いじゃないですか。どうぞ」
 自分の切った漬物を多めに乗せてやった。ちょっと嫌味のつもりだった。そして机の上にあった箸箱から箸を取って、きな粉の方をひとつ食べた。
「副長はもう帰りますか?」
「ああ、俺は打ち上げには出ねえ」
「やっぱり誘われたんですね」
「お前はまだいるのか?」
「はあ、なんかみんな忙しそうなんで、この辺てきとうに片付けてから帰ります」
 山崎がそう言うと、土方は少し広角を上げる。
「じゃあ、頼むわ」
 土方は山崎のこういう気の回し方が結構気に入っている。面倒だと感じたとしても、知らないふりして帰れない性分なのだ。それを、本人には伝えたことはないのだけれど。



 片付けが大体終わるともう辺りは暗くなっていた。山崎はのんびりと歩いて屯所へ戻っていたが、途中鉄子から聞いた怪しい客の住所をふと思い出した。ここから近い訳ではないけれど、思い出したら俄然見たくなる。タイミングよくバスが来たので、それに乗る。二十分か三十分経っただろうか。降りてバス停から五分歩く。やがて古い長屋が立ち並ぶ風景に変わった。
 ここは……、うーん、隊服でウロウロできる場所じゃないな。
 知り合いじゃなかったら、すぐ感づかれる雰囲気の生活道路だ。前方に犬の散歩をしている人があったので、ここで急に引き返すのも変に思われるかもしれない。巡回中の振りをして、そのまま通り過ぎた。
 そもそも、その客が鉄子に教えた住所が本当か嘘かも分からない。まずそこから確認しないといけないな。
 そこで山崎は、この場所の監視を長谷川に丸投げしようと考えた。
 長谷川が入国管理局に勤務していた当時からの知り合いであるが、今の彼の住所不定ほぼ無職な身の上は、諜報活動においては色々と役に立つ。
 彼は山崎とは違った意味で町の風景に溶け込むし、他人との関わりの薄い彼らには闇社会から闇求人が舞い込む。事件があっちからやって来るから、長谷川もまた情報屋にうってつけなのだ。
 しかしこんな風に、連絡を取りたい時にすぐに連絡がつかないのはもどかしい。それでも彼は銀時とは飲みに出掛けたりしていると聞く。
 万事屋の旦那は一体どうやって長谷川さんと連絡取ってるんだ? ……は、まさか犬笛?
 山崎が冗談とも付かない事を考えている時に、ポケットに入れていた携帯が振動した。画面を確認すると土方からだった。
 ああ、これは俺の犬笛だな。苦笑いしながら山崎は通話ボタンを押した。

〈了〉

【真選組】call me

【真選組】call me

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
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