星のお姫様 2

二つ目

最初に着いた星は砂の更地が広がっている星だった。私の星よりも何もない、とおもったとき足元でカサコソ音がした。そこには一匹のサソリがいた。

サソリなまっすぐに私の目を見て、
「あなたは私の敵ですか。敵ならば攻撃しなければいけません。私には毒がありますが無駄遣いはできません。」といった。

「私がいた星にも毒を持っている花がいたわ。その花は体内に毒を持っていてね、折ってしまうとその毒に侵されてしまうんだって。」と私は言った。

「それは変だね。だって、それじゃ自分を守ることはできないじゃないか、何のための毒なんだろうね。君と話していてもメリットもデメリットもないように、その花が毒を持っていようとなかろうとメリットもデメリットもない。」とサソリが言った。

私にはこのサソリの役に立つことはできないだろう。なんせ私は無知で、何の手伝いをする事も出来ないのだから。「メリットが無ければ話さないのね。それじゃあ今から言うことはあなたにとってはメリットが無いから図々しいお願いになってしまうけど、良ければここはどういうところなのかを教えてほしいな。」と私が言うと。

「ここにはもう何も残っていないところさ。向こうに行けば廃墟が残っているから君が見た事の無いものは見られると思うけど、それが君の見たいものかどうかは分からないな。メリットとなるかどうか。」とサソリは言った。

私は言われた方向にひたすら歩いた。

廃墟、というものはみるまではっきりとしなかったけど、遠目で何か分かるぐらいに見えるころには、ああ、これが廃墟か、とわかった。朽ちたビル群は全体的に乾燥していて土も建設途中の鉄骨も赤茶色になり薄暗かった。大小さまざまな建物が残っていたけれど建物の中は散乱しているか、中に何もない空っぽの状態かのどちらかだった。私は、その朽ちたビル群の間を縫って突き進んだ。

すると、体がふわっと持ち上がって少し胃が挙がる気持ち悪い感覚に襲われた。ロケットに初めて乗って浮きあがるよりも早く、乱暴な上がり方だった。地面が下に見える。自分が乗っているのは丈夫そうな網だった。上がったのはたった1メートルくらいだったけどバランスを崩して立っていられなくなり立ち上がる事もすぐにはできなかった。

すると右前方から近づいてくる人影が見えた。自分と同じくらいの背丈の少年だった。うすい茶色のマントを丈夫そうなパーカーの上から羽織っていて顔はよく見えない。
「何だ、人間か。おまえ、どこから来たんだ。」とその少年は最初、戸惑ったようだったがすぐに現実に引き戻されたようにどこからか取りだしたナイフを体の前に構えた。

「見ない格好だな。どこから来たんだ。何をしに。もうここには何も残っていないっていうのに。持っているものをすべておいてここから立ち去れよ。」少年は慣れた手つきで網を地面に下ろし、私の格好をじろじろと見た。生憎、私が持っているのはわずかな食べ物で、少年にもって行かれそうなものと言えばロケットのメンテナンスに使う道具くらいのものだった。だけれど少年に言わせるとそれはここでは何も役に立たないのだという。ここの部品には合わないし、もろくなっていて使おうとするとボロボロと崩れてしまうのだ。

立ち去れと言ったのは少年のはずだが、少年は私にとても興味があるようだった。疑い半分興味半分といった調子で話しかけてくる。見慣れない格好と金目の物を持たない自分がよっぽど奇妙だったのだろう。

なんでも少年が恐れているのは海を挟んで向かいにある町の住人たちなのだという。二つの町は海の資源をめぐって長年、小さな対立をつづけていたのだが、町自体が海から少し離れていた事もあって向かいの町の方が有利に海の資源を取っている状態で均衡を保っていた。しかし、ここの町の技術が発達し、遠くであっても資源を取り出して運ぶ事ができる様になったことで資源の取り分が変わってしまったことに怒った向かいの町との衝突が激化、町の機械は壊され生活もままならないほどになってしまったのだという。元々移り住んできた人が多かったのもあって住人達は散り散りに移り住み今残っているのは少年を含めて6人だけになってしまい、向こうの住人達も自分たち6人となった今、何も出来ないとたかをくくっているのか何もしてこない。「現に自分たち6人ではなにもできないし、食料が完全に尽きてしまうまでに違う町に移り住もうと考えているところなんだ。」と少年は言った。

私は遠くの別の星から来たのと私は言った。いろんなものを見てみたくて、とも。決して嘘ではない。それから私は自分の星の事を少し話した。

少年は「そっか、遠くの星か。僕はここに生まれた時からいるから、他の土地が分からないんだ。他の星っていう選択肢もあったんだな。あんたの話、ちょっとためになった。じゃあな。」そう言って少年は立ち去って行った。

私への警戒はどこへ行ったんだか、と思って思わず笑ってしまった。ここに一人でいても危険な状況に陥ることは無いという事は分ったが、ここにこのまま居ても何も起きないという事も分かったのでこっそり少年の後をつけることにした。少年は比較的新しく破損の少ないビルの中に入ってしまいそこで後を追えなくなってしまった。

中に入ると広い空間が広がっていた。姿はもう見えないが少年の足音が響いている。私は階段で下に行くことにした。下の階は長い廊下が暗闇の先まで続いていて両側にいくつもの扉があった。そのうちのいくつかの扉からはすりガラス越しから光が漏れ出ている。進んでいくと、うすうす気づいてはいたが6人が住んでいるところであるということが分かった。少年がいる部屋はどこだろうか、とすりガラス越しに見て回ると、マントを脱ぎベッドに置く音が聞こえた。ああ、ここかもしれない。そう思って一か八か中に入った。中にいた少年はさして驚いた様子もなく楽しそうに笑った。ちょっと嬉しかった。

「やっぱり君は付いて来たんだね。」地上であった時にはフードを深くかぶっていたし、口元までパーカーが覆っていてよく分からなかったが今は、表情がよくわかる。少年は楽しそうだった。「後でここの奴らに紹介してやるよ。俺が言えば皆も受け入れてくれるだろ。いつまでここにいるかわからないけど、よろしくな。まあ、いつでも出ていいし、けど向こうの奴らに寝返るのだけは、なんか悔しいからやめてくれよな。」といった。

「最初からそのつもり。」と私は笑っていった。

部屋は長方形の部屋で、無機質なコンクリートの壁にかこまれ、固いベッド、ニスのはがれているテーブル置いたらそれだけで埋まってしまうような広さだった。だからか、テーブルの上のかびんにさされた枯れかけた花にも最初は背景と同化してしまっていて気付く事ができなかった。

少年がランプを新たに照らして机に置き、あったまろうと思って少年と机を挟んで座った。
ゆらゆらと揺れる火に当たろうとランプに手を伸ばした。その瞬間、隣の花瓶の花が顔を挙げた。花弁の紫色が水分を含む。少年が息をのむ音がコンクリートの壁に響いた。

「おい、何したんだ。すげー」と少年は目を輝かせ、「ほかの星からきたお前にはすごい力があるんだな。」と言った。

私は驚いて自分の手をマジマジと見た。手が少しはなから遠ざかってしまっただけだけど花の茎が筋張った。

その夜、少年は言っていた通り他の5人に私を紹介してくれた。みんなあまり私と年の変わらない少年少女だったが、みんな痩せていて顔色が悪かった。私を見て、警戒するわけでもなく仲良くしようとする事もないように見え、少年とは雰囲気がだいぶ違って見える。みんなここの町しか知らず、いく当てが無いのだという。ここに残るといって残っていたのに、減り続ける食料と荒廃していく街並みを見続けているうちにああなったのだと少年は言った。

具の無いスープを5人で静かにすすった。誰もなにもしゃべることのない空気が痛かった。

その夜、私には取りあえす少年の隣の部屋があてがわれ、すぐにはベッドが用意できなかったので少年に毛布を譲ってもらってそれにくるまって寝た。

次の日から私は少年につきあってもらって彼らが試行錯誤していた畑で自分の能力を試してみる日々を過ごした。彼らが育てていたピーマンは小さく、変形していたが、私が手を伸ばすと2倍に膨れ上がった。いくつかのピーマンに手をかざして大きくすると少年はとてもうれしそうにそれらを取り、他の5人に見せた。言うまでもない、5人の目が輝いた。次の日から5人も一緒についてくるようになった。最初は大きくすることしかできなかった能力も上達してピーマンの表面につやが出る様になった。他の野菜でも難易度の差異はあったが軒並み食べられるほどには再生できるだけの能力があった。

たった数日で彼らの目が輝き、喜怒哀楽がはっきりと見える様になった。作物を育てるのには向かないであろう赤色の土だったけれど私がいれば作物が育てられるのだからと彼らは一生懸命に耕し種をまいた。どこか違う町に行こうという話を彼らはもう忘れてしまったようだった。

ある日、少年を含めた3人が、出会った日に話していた資源を取りに海に行こうといって基地から出て行った。

夕方になって帰って来た彼らのかばんに入っていたのは自ら白色の光を放つ鉱石だった。光は鉱石の表面で散乱して虹色になり、周りを照らした。彼らは帰って来たと顔見せただけで、荷物も置かずに外に飛び出した彼らの後を残っていたみんなをお追っていくと巨大な工場があった。みんなの顔は興奮し、肌からは熱気が立ち込めていた。工場の中にはたくさんのベルトコンベアが連なっていて奥まで見渡せなかった。中にあったベルトコンベアの機械に円盤状の台が設置されていて、その鉱石を置くとそのベルトコンベアが動き出した。その大きな音と力強さに圧倒されて言葉を発せないでいる私を横目に彼らは歓声を上げて喜んだ。しだいに鉱石の輝きが小さくなっていき完全に消えてしまうとコンベアも止まってしまった。少年たちは取ってきたたくさんの鉱石を何個も何個ものせてコンベアを動かし続けていた。私には彼らが何をしたいのかが理解できずにただ彼らが同じ作業を繰り返すのを寒くなった空気のなかじっと見つめていた。

いつの間にか私は眠ってしまっていて気がつくと辺りは明るくなっていた。私はこんなところで眠りこんでしまったのかと思って辺りを見渡すとその明りは自然光では無い事に気がついた。あたりには大量の鉱石が散らばっていたのだ。

「どうだ、驚いただろう。」少年がやってきて誇らしげに言った。「この鉱石はこの星のあらゆる機械の燃料として使えるんだ。これさえあればここで暮らしていける。おまえのおかげでこれを取りに行くことができた。お前がいなければたぶん俺らはここの機械よりも食料を優先して他の町に移ってしまっていただろうから。ありがとな。」

そのあと、わたしは彼らと一緒に鉱石を何度も往復して基地まで運びこんだ。

鉱石が手に入ってからというもの、生活は一変した。初日のスープがうそのように具のたくさん入ったスープが毎日何度でも食べられるようになった。

ある日、ビルの屋上から町を見下ろしていると黒いマスクで顔お完全に覆った体の大きい人が二人、町をうろついていた。そして工場に入り少しすると出て行った。次の日には20人ほどに増えてまた来た。少年にすぐに知らせると、その団体を見た少年の表情が硬くなり、向こうの奴らだと言ってすぐに階下に降りて行った。

数日の間、私たちは屋上と地下との行き来だけで建物の外へは決して出ないようにして暮らしていた。鉱物を手に入れる為の工場は団体によってとり囲まれ既に使われてしまっているようだった。夜、寝ようとすると隣の部屋がガサゴソと音を立てて何やら騒がしい。隣の部屋の少年を訪ねると少年の表情が一瞬曇った。どうしたの、と聞くまえに「こんなんじゃ俺たちはもう生きてはいけない」少年の絶望したような顔がとても痛ましく見えて何も言えなかった。

次の日、夜になるのを待って建物からそっと出て、工場まで建物同士の間を縫うように進んでいった。工場の裏手からフェンスを越えて敷地の中に入り、建物に空いた穴からなかを覗くと鉱石の山ができていた。光り輝くそれはとてもきれいでずっと見ていられそうだった。ただ鉱物のその先に黒いマスクをつけた人影がみえて、いつまでも見とれているわけにもいかなかった。ここからでも、もろくなった建物を少し崩してはいることはできるだろうが見つかっては元も子もない。どこか視覚となるような場所は無いか。もどかしく思いながらも素早く眼を走らせた。見つけた穴は隣の倉庫に一時、鉱石を保管しておくのに輸送用に使っていた通路なのだと、以前、少年に教えてもらった通路だった。鉱石を運ぶためのトロッコ一台分の穴だったが、自分が通るには十分に思えた。

動かなくなってほったらかしにされていたトロッコの側面に体を沿わせて、足元に細心の注意を注ぎ、息を殺して一歩一歩、鉱石へと近づいて行った。そして乱雑に積まれた鉱石に手をかけ、崩さないように手で支え、詰め込めるだけ袋の中に鉱石を詰め込んだ。後は逃げるだけだ。もと来た道を戻ってトロッコに近づいた時、トロッコが突然、動きだしてしまった。大きな音が工場の天井に響く。奥に誰かいるぞ、と声をよそにとっさにトロッコに飛び乗って私は工場を後にした。

トロッコに身を任せていると、もうどうにでもなれとでもいうような気持ちになった。隣の倉庫につながっているにしては長い間トロッコに乗っていると、だんだんトロッコはスピードを落として止まった。倉庫には見えなかったけれど、先回りしようとした追っての足音が次第に聞こえてくるようになって、あわててトロッコから出て近くの井戸に飛び込んだ。井戸には水が無く干上がっていたが青々と茂った苔がクッションとなって静かに私は落ちた。

追っての様子は見えなかったけれど、トロッコに私がいないことを確認して、建物の外へと探しに行ったようだった。

随分と長い間、私はそこで休んでいたが、一向に追っては、来そうになかったので下にある苔を徐々に増やしていき井戸の外に出た。鉱石の入った袋をかかえ来た道を急いで戻った。これでみんなはここで暮らしていくことができる。

息を切らしながら、建物に戻ると、どこの部屋にも明りがともっていなかった。それだけではなく、誰ものこっていなかった。

食料も残りの鉱石もなく、ただ使い古されたベッドがそれぞれの部屋に残っていた。

もうきみはいらなくなったんだってさ、とどこからともなく表れたサソリが言って、去っていった。

星のお姫様 2

星のお姫様 2

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-23

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