蓮の咲く頃

真由

炬燵の中で目覚めた、身体中に汗をかいていて酷く不愉快だった。中原はもう起きていて『おはようてる』とニヤニヤしながら言った。炬燵から上半身を出して座る。炬燵の上には天然水と赤いビニールテープで印をつけてある注射器があった。
汗かいてて寒いわ、パケどこなん?
中原はソファーの真ん中を開けて『ここに隠しといたで』と言った。アホか隠す意味もわからんし、隠すんなら道具も隠さなあかんやろ。
パケを受けとり斜めに切ったストローで白い粉を掬い注射器の中に慎重に入れた。
『零さんでや』中原は心配そうに見ている。
入れ終わると天然水のキャップを開けて、注射器で少し多めに水を吸った。
『水多いなぁ』中原はよく喋る、顎に力が入っていて深く噛み締めながらこっちを見ている。
お前パキパキやんけ。言いながらポンプを上下させて粉をしっかり溶かす。溶けたのを確認してから注射器から空気を抜く。
右腕の袖をまくり上げ、少し力を入れながら左手で一気に太い血管に挿した。ポンプを引っ張ると赤い液体が注射器の中を駆け巡った。
左手が少し震えていたが、一気に流し込んだ。全身に電流が流れるような感覚があり、肺が痛くなり咳き込んだ。
視界が広がる、身体が寒くて震え出した。心臓からバクバクと大きな音が聞こえる。
『ちょっと多かったな、大丈夫か?でも五分もしたらパキパキや』中原は嬉しそうにしている。
あかんわ。いつものペンやないから量間違えてるわ。あの売人のおっさんなんでこんな大きいペン渡すねんクソ。
中原から返事はない。見るとスマホのゲームに夢中になっている。
あかんこいつ一人の世界入ってもうた。独り言のように呟くと炬燵から這い出て、パケと注射器だけポケットに無造作に入れた。玄関で靴を履いて、ドアを開けた。ほないぬわ。
閉める時に『はぁい』と気のない返事がした。

金融物とか言われる持ち主が行方不明になった為、格安で売買される軽自動車に乗り込んでエンジンをかけた。
車検切れんのも後三ヶ月か。最近独り言が増えたな。そう思いながら、車を走らせて家に向かった。
家に着くと元気が湧いてきた。Ipabで中国人が運営する無料のエロサイトを開いた。
触っていると少しずつ硬くなっていく、ある程度のところでコンドームを取り出し、中に少しだけローションを入れる。付けようとしたらまた柔らかくなっていて、鬱陶しさを感じながらまた硬くし、ゴムを付けた。
夢中になって自慰行為を始める。射精する時全身が震え、視界が白っぽくなり快感が全身を駆け巡った。自分のを見るとパンパンに腫れ上がっていた。色は紫色に変色し、二倍くらいの大きさになっていた。なんやねんこれ。そう呟いて原因をネットで検索する。手に付いていた細菌だかなんだかが入り込んで腫れる事があるらしい。
身体を起こして立ち上がると目眩がした。思わず倒れそうになり壁に手をついて抑えた。壁に掛けてあるクオーツ式の時計を見ると夜中になっていた。八時間もシコっとったんか、全くイカれとんな。
土壁のザラザラした感触を掌で受けながら呼吸を整える。
襖を開いて風呂へ向かった。服を脱いで洗濯機に放り込むと精液が溜まったままのゴムをブラブラさせながら風呂場に入り戸を閉めた。

山路の家は溜まり場だった。
今日も七人の男女が集まっている。住んでいるのは婆ちゃんだけ。家屋は二階建てで、一階の広いリビングが遊び場。二階は寝るかセックスで使う。まあまあ古いが中は綺麗に片付けてあった。
中原はホストで、仕事をサボって女を二人連れて来ていた。
『私が明美でこっちが真由』明るく日焼けした健康そうな女だった。真由はカーペンターズみたいな顔をしてて肌は白い、会話にも積極的に参加しようとせず、愛想笑いで誤魔化していた。
転がってあった老人と海を読みながら、時々二人の女を観察していた。
『またつまらなさそうにして、てるはホモかいな』浅岡は酔っ払ってるのか大麻吸ってるのか見分けのつかない感じでこっちを見ている。
なんでやねん、こっちは老人が鮫に獲物食われてしもうて大変なんや。飛魚のアーチでも用意して讃えたらなあかんわ。
浅岡は何言うてんねんとか何とか言った。

また本を読み始めて集中していたら、『あの』と声が聞こえた。気付いたら真由が近くまで来ていて、『飛魚のアーチって良いですね。私沖縄出身だからすぐに分かった』と笑顔で言って来た。
そうなんや。そう言われると何か恥ずかしいからやめとき。
何か自分あんま楽しそうちゃうけど、馴染みにくいか?
『そんな事ないけど、明美が聖夜君に惚れてるからついて来ただけだから』
聖夜って中原?
『そう中原って呼ばれてる人』
なんやねん聖夜って、まあええわ。仕事の話しとかせんから知らんかったわ。
『そうなんだ。変わってるね』真由は少し笑いながら言った。

『おいおい、てる一人で楽しんどるやん』成はどうやら真由を狙ってるらしかった。
さっきからうるさいねん。お前等飲み過ぎやろ。ほんで中原寝とるやんけ。
『真由ちゃん上で飲みなおそや』成は真由の近くまで来て真っ赤な顔で言った。
『あの大丈夫です』
『そうか大丈夫なら行こや』
アホそっちの大丈夫やないわ。行かへん言うてんねん。
『えーどっちなん?真由ちゃんどっちなん。バツもあるから最高やで保証したるわ絶対やから』相当酔っ払ってるらしい。呂律も回ってない。
『ごめんなさい、まだここにいます』
『ほうかほうか、バツは最高やねんけどな、もったないもったない』言いながらフラフラと二階に向かって行った。

『てるくんでしたよね?バツってなんですか?』少し怪訝な表情で問いかけられて、返事に困った。
バツ言うたらセックスドラッグや。オキシトシン系やな。

『てるくんもやるの?オキシトシンって何?』
俺はやらん!薬には手出した事ないわ。
何で嘘をついたのか自分でもわからなかった。
会話を聞いていた浅岡と目が合った。やたらとニヤニヤしながらこっちを見ていた。

蓮の咲く頃

蓮の咲く頃

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-04-22

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