買い出し(練習用7分脚本)


圭吾
  車の運転中 舞島の彼氏 精悍
  拓真と友情の盃を交わしている 
市川
  後部座席で拓真を拘束 頭いい
  少女漫画を持ち歩いている
拓真
  縛られ、口に布を詰められている。
  ※喋れない。表情・うめき声・首から上の素振りのみ。

  1台の乗用車が道路を突っ走っている。
  ハンドルを握りしめるは圭吾。後部座席には市川。その手に握られた学ランは、拓真に巻き付き、袖が固く結ばれている。
  ※会話は早口。時間がない!

圭吾 クソがッ!
市川 ねぇ圭吾くん。あと7分よ。
圭吾 分かってる。
市川 ならどうして車を止めないの。
圭吾 ……ただの風邪かもしれない。
市川 このバカッ! バカが! それで舞島ちゃんはどうなった!? 
圭吾 アイツは関係ねぇだろ!!
市川 今すべきことは! ……お気に入りの少女漫画を読むか、拓真くんを降ろすか、そのどちらかよ。
圭吾 少女漫画様には分かんねぇだろうがな、俺はな、そいつと、兄弟の盃を交わしてんだ。
市川 高熱は感染の証でしょ。
圭吾 いや、ろくに食ったり寝たりしてねぇから、風邪を引いたんだ。
市川 いいえ降ろします!
圭吾 ぜってェ降ろさねぇ!
市川 (溜息)転化するまであと7分。
  ……話し合いましょう。彼を降ろすか否か。いいわね、拓真くん。
拓真 (頷く)
圭吾 上等だァ……!

  間

市川 問題は感染経路よ。彼はこの遠征中噛まれてない。
圭吾 罹ったなら出発前か……。だがな、今朝の身体検査は俺が診た。噛み跡なんて無かった。
市川 なら感染者との濃厚接触ね。
圭吾 ……舞島か。
市川 あなた彼氏でしょ。舞島ちゃんは昨日、何してたの。
圭吾 あいつは……朝から図書室へ向かった。拓真、お前図書室に行ったか?
拓真 (頷く)
圭吾 そんで鞄を持ってきてくれと言われたから、合流して、そのまま乾パン食って……。おい、そのとき水を回し飲みしたか?
拓真 (首を振る)
市川 午後は私と裏門の見張りをしてた。拓真くんとは会ってないよね。
拓真 (頷く)
市川 そして、舞島ちゃんが熱出して……。
  ……圭吾くんの指示で、鍵のついた理科準備室でなく、隣の教室に寝かせた。
圭吾 すぐに様子を見に行くためだ。
市川 何人噛まれた?
圭吾 ……。そしてあいつは、俺に形見としてメンターム・スティックを渡してから、1人にしてくれと言った。
市川 やがて夜になり、見張り以外が寝た頃……。私は悲鳴で飛び起きた。廊下は既に地獄絵図だった……。
圭吾 待て。するとそいつ、一体いつ感染したんだ。なぁ、いつ感染したんだ!?
拓真 (もがもがもがもが)
市川 図書室、しか考えられないわね。でも同じ部屋にいただけなのに感染って……。まさか!

  市川、少女漫画をぺらぺらめくる。

市川 (ページを見せる)
  これ! 壁ドン! 壁ドンしたの!?
圭吾 壁ドンだァ!? 
市川 だって図書室で濃厚接触なんて、
  壁ドンしかないでしょ!!
圭吾 どうなんだ拓真! したのか!?
拓真 (……頷く)
市川 キャー! 素敵!
圭吾 てめェ人の彼女に!
市川 待って壁ドンじゃ感染しない! 
  なななならば顎クイ! 顎クイ!!
圭吾 まさかお前顎クイまで!?
市川 したの!?
圭吾 どうなんだ!?
拓真 (…………頷く)
市川 エクセレーーーント!
圭吾 嘘だろ兄弟! 嘘だよなァ!?
市川 待って顎クイじゃ感染しない!
  ももももしかしてキス!? キス!?
圭吾 やめろもう聞きたくない! 
  降ろそう! こいつ降ろそう!
市川 言っちゃえ~! ちゅーしたの?
圭吾 うるさいうるさい!!
市川 ちゅーしたんでしょ!!

  間

拓真 (………………頷く)
圭吾 うわぁぁぁぁ!!(急ブレーキ)
市川 きゃぁぁぁぁ!!(つんのめる)
拓真 (もがががが!!)(頭ごちーん)

  間 

圭吾 ──舞島はな、メンターム・スティックをな、キスの前に必ず塗るんだ。
  拓真、テメェはその味を! 知ってるってことだよなァ!? 降りろォ!
市川 ダメよ!
圭吾 はぁ?
市川 拓真くんは……私の彼氏にする!
圭吾 ふざけんな少女漫画ァ!
市川 だって壁ドンで顎クイでキスよ!? ねねね、舞島ちゃん死んだし付き合わない?
拓真 (首を振る)
圭吾 冗談じゃねぇ! そいつは兄弟を裏切った! もう男じゃねぇ!
市川 男じゃないから降ろすの? 
圭吾 そうだ!
市川 彼こそ男よ!
圭吾 男じゃねぇ! 降ろす!
市川 降ろさない!

  間

市川 待って電話。(電話に出る)
  もしもし……え、舞島ちゃん?
圭吾 なんだって!?
拓真 (!?)
市川 うん、うん……分かった。うん……。
   (切断)
圭吾 お、おい、舞島って……。
市川 舞島ちゃん……の妹から。
圭吾 妹!? あいつ妹いたのか。
市川 1つ下の学年よ。……ねぇ、拓真くん。さっきの話……妹のことでしょ。
拓真 (?)
市川 舞島ちゃんの妹もまた舞島……。あなたは、妹との逢瀬を訊かれたと思ったのね。
圭吾 そう……だったのか? 兄弟。
市川 だって兄弟の盃を交わしたのよ? そんな親友の彼女を奪うわけないわ。
圭吾 ……だよな。そうだ。そうだそうだ。その通りだ! なんだ妹かァ!
市川 (こっそりと耳打ち)
  ……馬鹿で良かったわ。ねぇ拓真くん、このまま妹と付き合ってたことにすれば、降ろされることはないわ。
圭吾 おい拓真、妹だったんだな。怒鳴って悪かった。
市川 いい? あなたと舞島ちゃんの間には何もなかった。そういうことにして。
圭吾 何黙ってんだ? 妹、なんだよな?
市川 さぁ、頷いて嘘をつくの。
圭吾 兄弟、そうだと言ってくれ。
市川 彼を騙すの。
圭吾 さぁ!
市川 さぁ!

  拓真、葛藤。

拓真 (……首を振る)
市川 ……な なんで
圭吾 妹じゃ ない?
拓真 (頷く)
圭吾 舞島本人と キスを?
拓真 (頷く)
市川 バカ! バカが! なんで正直に!
圭吾 ……そういうことかよ、市川。
市川 ちが、違うの圭吾くん!
圭吾 降りろ。
市川 ……嫌よ。(拓真を抱く)
圭吾 ならお前も降りろ。……俺も降りる。

  3人、車を降りる。

圭吾 おい、拓真。今からお前を殴る。
市川 ちょっと、
圭吾 そして俺を殴れ。それで許す
市川 何の意味が……。
圭吾 歯ァ食いしばれ──ッ!
拓真 (もがもが!)

  バキッ!

圭吾 痛てて……。よし、次はお前だ。
拓真 (もがもが)
圭吾 さァ、来い!
拓真 (もがもが)
圭吾 どうした時間ねぇぞ!
拓真 (もがもが……。頭突き!)
圭吾 あだァ! ……いい拳持ってんな。
市川 拓真くんかっこいい!
圭吾 よし、2人とも乗れ。帰るぞ。
市川 え、いいの? なんで?
圭吾 ワケは話す。

  3人、乗車。そして発進。

圭吾 ……拓真お前、図書室でキスしてないだろ。
市川 え。
拓真 (! ……頷く)
市川 そうなの!? な、なんで。
圭吾 舞島はキスする前に、このメンターム・スティックを必ず塗る。
  だが昨日、あいつがこれを手にしたのは、昼だ。俺と合流して鞄を受け取ったときだな。
市川 じゃあ濃厚接触なんてなくて、ホントにただの風邪ってことね……。
圭吾 もしくは、もう1つのタイミング。
市川 ! ……まさか。あなた、夜に!?
拓真 (……頷く)
市川 だから舞島ちゃんは1人にしてくれって……。
圭吾 お前は高熱を出した舞島にキスをした。風邪か感染かも分からずに。
  ……だから俺も降ろさない。
市川 でも! 拓真くんは、恐らく……。
圭吾 風邪だ。──だよな?
拓真 (頷く)
市川 (笑う)ほんとバカ。

  3人を乗せた車が去っていく……。


買い出し(練習用7分脚本)

お題:青春・ゾンビで書きました。あざまる。

買い出し(練習用7分脚本)

練習用に書いた7分くらいの脚本です。会話劇でしょ。 買い出し帰りの車内。 2人の高校生が口論するは、彼を「降ろす」か「降ろさない」か。その決断は命に関わる。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-21

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