【和風声劇台本】千本桜の舞う夜に(前編)【掛け合い】

那智琉

【和風声劇台本】千本桜の舞う夜に(前編)【掛け合い】

【和風声劇台本】 千年桜の舞う夜に(前編)

【cast】
・『桜姫』(妖名:おうひめ)/紗桜里(さおり)・・・奥山の桜の精。奥山一帯を守るため人に姿を変え神社の巫女として生きている。

・「山城成継」(やましろなりつぐ)・・・大きな体、大らかな性格、心根が真っ直ぐで優しく、野心溢れる武士。



【SCENE1】

(山の中を歩く)
「ふぅ…なんと山深い場所だ、ほんとにこんなところに人が住んでおるのか」
(一息つく)

「ん?桜の花びら?
いったいどこから…あの坂の上か」

(大きな大木を見上げながら)
「これは見事な桜だ
この巨木の何たる太さよ!」

『千年桜に近づくことは許されぬ』

「ハッ! いつの間に人が?…いや、人ならざる者か?」

『私が人か、人でないかなど取るに足らぬこと。
身なりからお武家様のようだが、このような山奥へ何用か?』

「あ、いや、これは失礼した。
拙者は…とあるお家の家臣で山城成継(やましろなりつぐ)と申す。
この奥山にある神社を目指しておりました。」

『…家臣ともあろうお方が、人も来ぬ神社などへわざわざ?』

「噂を聞いたのです。
その神社には霊力の高い巫女がおると。」

『帰られよ。邪な謀り事のために力を借りようなどと…誠に人の業というものは、愚かです』

「いや、待ってくれ!話を聞い…うわっ何だこの風っ
えっ、いない?どこへ消えた?
はぁ…何とも不思議な女だ…
まぁいい、今宵はここで夜を明かして、
明日また出直しだ

にしてもほんとに立派な桜の木だ
千年桜…と言ってたか
立派だが…(ファァ…)なんだろう…どこか、物悲しいな…(眠りに落ちる)」



【SCENE2】

「おはようございます!!!!(元気に)」

『お武家様、まさかそこで夜を明かしたのですか?』

「はい!立派な大木に抱かれて眠りましたぞ。」

『なっ!!立派な・・・そうでしたか、それはようございました。
もうお帰りなされませ』

「いえ、まだ目的を果たしておりませぬ故」

『目的・・・あぁ、霊力を借りにという』

「それもありますが・・・ただ、私が会うてみたいのです。
その巫女殿に。(純粋無垢な笑顔で)」

『会えると・・・いいですね。まぁその神社には誰でも入れる訳ではありませぬ故。』(しれっと)

「そうなのですか?そりゃあ参ったな」

『では、失礼いたします』

「あ!!!あの、あなたのお名前はなんと?」

『・・・もうお会いすることもないのでお教えする必要はありませんわ』(絶対に会うはずないという気持ちで)

「ん~ じゃあもし!!もし次に会えた時はお名前教えて下さいね!!」

『ふっ子供のような方ですね。ええ、お会い出来たら。では』

「はぁ・・・あの人なんであんなに綺麗なんだ
などと言ってる場合ではないぞ成継!
神社を探さねば!
少し下ったところに沢があったな、水を汲んでおこう。
今日はたくさん歩くやもしれぬ。」



「ここの山は本当に自然が豊かだ。
水も清らかだし、美味い。空気も澄んでいる。
いい山だなぁ。
こんなに歩いても全然疲れない。
さぁ、神社に辿り着けますように!!(パンパンッ神頼み)」

「一日中歩き通しでさすがに・・・足が棒のようだ。
今日はこのくらいにして休もう。
またここが俺の寝床だな。
お礼と言っては何ですが、沢の水でもどうぞ。なんてな。
お世話になりますっと、、、ふぁぁ・・・。」



【SCENE3】

「よし!空は快晴!風も心地いい。
沢から水ももらったし、いざ参らん!
今日こそ辿り着くぞーーー!!
お?桜の花びら。よし、これをお守りに行くか!」

「ここは・・・昨日通ってない道か?こんな道あったかな?
あ、坂の上に、、、、(何かを見つけたように)

あれは!!あのーーーー、すいませーーーん!!(遠くから声をかける)」

『あなたは!!どうしてここが!!』

「やはりまた会えましたね。その出で立ちはまさかあなたがそうでしたか!」

『ぐっ!あなたどうやって結界を』

「お名前は?(遮るように飄々と)」

『え?』

「お名前、教えてくれる約束ですよ。」

『ぁ・・・そうでしたね。お約束しました。私は、お・・・紗桜里(さおり)と申します。』

「紗桜里殿か、あなたにぴったりの名前だ。」

『あなた、ここに自力で辿り着けたと?』

「成継です。」

『え?』

「成継。私の名前。昨日一日中歩き回って見つからなかったのに
今日は、昨日と違う道に出くわして進んだらここに辿り着いたのです。
桜のおかげかな、ふふっ。(懐から手拭いに挟んだ桜の花びらを見せる)」

『成継様、また桜の木の下で過ごされたんですか?
花びらが・・・結界を通してしまったということか』(信じられないという風に)

「ほう、花びらにそのような力が?
じゃあ私は幸運だったのですね。
初めて紗桜里殿に会った時も、ここに辿り着けたのも、
ここで紗桜里殿とまた会えて、名前を交わしたことも。」

『・・・いいでしょう。こちらへ辿り着けたのです。
山の神がお許しになったということ。
どうぞ中へお入りください、成継様』

「それはそれは、光栄です。
では、遠慮なくお邪魔を、、、実は、足がもう棒のようで・・・いててて。」

『ぷっ。』

「やっと笑った。
あなたはそうやって笑うほうが似合う。」

『し、知りませぬ。今、足湯を持って参りますわ。しばしお待ちを』



【SCENE4】

『どうぞ。山奥なので何もありませんが』

「これはありがたい。喉が渇いていたのです。
美味いっ、この味は下の沢の水ですか?」

『お分かりになるの?・・・あちこち山を歩かれて
いろいろ恩恵をもらわれたようですね。山の神が気に入るはずです』

「この山は本当にいいところです。
紗桜里殿はここには長く?」

『ええ・・・ずっと居ります。ずっと』

「あなたが、噂に聞いた霊力の高い巫女、ですね?」

『・・・だとして、どうなさるおつもりですか?』

「山城成継。巫女殿にお願い奉りまする。
我が主君を、何卒、お導き下さいませ!」

『そのようなこと・・・』

「今、我が主は、隣国を始め、周りの諸国からも
攻め入られようとしております。
我が主は、主の志は、こんなとこで尽きてはならない。
あんなに民を思い、臣下を思い、政のできるお方はおりませぬ。
ですから!!主君を勝利に導いてください!!」

『人は・・・幾度となく殺戮を繰り返してきました。
民を思う?臣下を思う?戦を起こせば人が亡くなります。
そうして築き上げた人柱の上に、あなたのご主君は立ちたいのですか!
そうして多くの命を引き換えにして、守らなければならぬお人か!』

「主が討たれれば!今まで守ってきた全てが壊れます。
民は年貢が今より何倍も厳しくなり、暮らしていくことすら出来なくなるでしょう。
主が与えた領地を田畑に変え、暮らしてきた民たちは
その田畑を奪われ、男手は兵役に取られ、女は召し上げられ・・・
そんな生き地獄を過ごさねばならんのです。
我が主は、そんな民を守るために、臣下と共に戦っておられるのです。」

『では!あなたのご主君が、今後同じようにならぬ保証はあるのですか』

「あります!!私がお仕えすると決めた方です!
もしも間違った政をしようとするならば
その時は、私が止めます・・・私の手で、主を討ちます!」

『・・・成継様、そこまでの想い、受け取りました。
いいでしょう。
私に出来得ることを致します。
ですが、ご主君が道を間違えたその時は、
あなたが立つと、
私と、この山の神に誓えますか?』

「はい!!!
ご理解くださりありがとうございます!!
この山城成継、今ここに紗桜里殿と山の神、いや、森羅万象にお誓い申す。」

『誠に・・・成継様は、真っ直ぐなお方ですね、ふふっ。
では、3日ほど、私に頂けますか?
4日後の朝にお渡しするものがあります。
待っている間は、この神社にお泊り下さい』

「ここにですか?
ですがここは紗桜里殿がお住まいなのでしょう?
私などがお邪魔しては、、、私も、男です故(ゴニョゴニュ)」

『何も共に寝ようと言うてはおりませぬ。
むしろ私は夜通しすることがあるので
成継様は気兼ねなくお一人でお休み頂けますわ。』

「そう・・・なのですね、では、お言葉に甘えてお邪魔いたします。
あ、私に出来ることがあれば何なりとお申し付けください!
薪割りとか、水汲みとか、力仕事ならお任せください。」

『助かります。では、ひとつだけ。
3日目の夜にあの沢から水を汲んで来て下さい。
この竹筒に入るだけです。多くを取ってはいけませぬ。
水を汲んだら、こちらへ戻って神棚にお供え下さい。』

「わかりました。3日目の夜に水を汲んで神棚ですね!
お安い御用です。
では、薪割り行ってきますね!!」

『まったくあの方は・・・ご自身のお力に気づいておられないのか、ふふっ」



【SCENE5】


あれから毎夜、紗桜里殿は神社を出てどこかへ消えていく。
「今夜が3日目の夜か・・・
言われた通り沢へ水を汲みに行こう。」

「そういえば・・・あの桜、どうしてるかなぁ。
ついでに帰りに寄ってみるか。
あれから3日。
私の竹筒に水を汲んでまたかけてあげようかな、ふふっ。」


沢から桜の木へと道を変え、歩いていくと
桜の花吹雪が辺り一面に舞っていた。

「これは!!・・・ハッ」

桜吹雪の中、紗桜里殿が倒れていた。

「紗桜里殿!紗桜里殿!」

『・・・あ・・・成継様、どうして、ここへ』

「どうしてじゃない!こんな風に倒れるまで、ここで何を・・・ん?あれは?」

『そうです。この苗樹を大きくしていたのです。
今宵が最後なのです。夜が明けるまで、しないと、、、』

「もういい!こんなになるまでしなくてもいい」

『ご主君を、導くのでしょう?そう仰ったではありませんか(儚く笑いながら)』

「くっ・・・とにかく水を!飲んでください」

『いいえ、結構です』(抱きかかえられた腕から身を起こそうとする)

「ああっもう!失礼!んん」(起こそうとした体を再び引き寄せ、水を口移す)

『なにを、んんっ』

「はぁ・・・こうでもしないと飲まないでしょう?強情だから」

『なんてことをっ!!これだから殿方はっ』

「はいはい、致し方なかったのでお許しくださいね。
さて、残りのお水は桜の木に差し上げましょう。
ほら、3日ぶりのお水ですよ~」

『ほんとにもう!』

「それだけ元気になれば大丈夫ですね、ははっ」

『もう大丈夫ですからっ、成継様は戻って水の竹筒を神棚へ』

「はいはい。朝までに戻らなければ迎えに来ますからね。
では、また明日の朝に~」(手を振りながら神社へ戻る)

『触れた唇が・・・熱い・・・お前も、鼓動が早くなるんだな。
水をもらえて喜んだのか?』


【SCENE6】

『ん・・・私・・・ここは、神社の』

「紗桜里殿、目が覚めましたか?
朝早くに迎えに行ってみればやっぱり倒れてて
ほんとにあなたは・・・」

『成継様・・・ハッ、苗木は』

「ここにありますよ。倒れたあなたの腕にしっかり抱えられてました」

『よかった。成継殿、その苗木を神棚の水と一緒に城へ持ち帰り、
中庭に植えて、竹筒の水をかけて下さい。
その桜を通して、私と繋がります。
私の霊力を、城へ流すことが出来るのです。
おそらく城が落ちることは今後ないでしょう。
あなたの悲願を成し遂げて下さい』

「紗桜里殿、ありがとうございます。
このご恩は一生忘れません!!
ありがとうございます、ありがとうございますっ・・・」(涙ぐむ)

『さぁ、もうここを発って下さい。早く苗木を庭へ』

「ですが紗桜里殿の体が」

『私はもう大丈夫です。日が暮れる前に山を降りて下さい。』

「・・・わかりました。悲願を成し遂げたら、きっとまた参ります」

『いいえ、もうここには来てはなりませぬ。
あなたは・・・これから名のある武将になられるでしょう。
そのお力をお持ちです。
いいですか、私と山の神への約束をけして違えぬように。』

「必ずや身命を賭してでもお守り申す。
紗桜里殿、お世話になり申した」


あれから城に帰り、中庭に桜の苗木を植え、
竹筒の水をかけると驚く早さで成長を遂げ、
まさに桜は城を見守るように鎮座していた。
翌年の春には見事な花を見せてくれた。
我が主は近隣諸国との争いに見事勝利し、
今のところ善政が続いている。
中庭の桜を見るたびに、奥山の立派な桜を、
紗桜里殿の笑顔を思い出している。
あの山は今も豊かであろうか。
あの沢は今も清らかであろうか。
あの人は今も────。


前編 終了

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更新日
登録日 2020-04-19

CC BY-NC-ND
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