夏の白鳥

丸尾はるうみ

  1. 俺専用の木
  2. 待ち伏せ

俺専用の木

何もかもが嫌だった。
何をしたいのかもわからなかった。
でも、何かを探していた。

高1の夏なんて
みんなそんなもんだろう。

学校からの帰り道
後輪がパンクしやがった。
パンクした自転車ほど
情けないものはない。

引きずるように押しながら
捲ったワイシャツの袖で乱暴に汗を拭いてみたけど
ただムカつくだけだった。
ただムカつく。

さっき買った炭酸は
もうきっとぬるい。

でも、あそこで飲むんだいつも。

農業用の溜め池の
ほとりにある
俺専用の木。
なんでこんな形に伸びた?
普通、木は上に伸びるはず。
でも、地を這うように斜めに
太い幹を伸ばし
天につづく道みたいな木。

根元はまるでベンチ。
俺専用の木。

俺専用の木なのに
座っているやつがいた。

ざけんな。
女じゃんか。

白い袖のない
ふわふわしたワンピース
汚れてる。
泥だらけ。

そして髪がくるくると
いや、うねうねと長い。
なんだよ。
幽霊かよ。

追っ払う。
俺専用の木だからね。

声をかける前に振り向いた。
怖い
ただの高校生みたいな女だけど。

「ここ、座りたいの?」

あまりの勢いに
引いたよ俺。

「どくわよ今」

やせた首筋と長靴に驚く。

白いワンピースに長靴
泥に汚れた。

動けないままの俺を無視して
離れていく女。

いや、女の子
というか
何なんだあいつ。
よく顔を見なかった。

すっかりぬるい炭酸を持って
立っているだけの俺。

俺専用の木の前で。

待ち伏せ

昨日もやはりいつもの夕飯だった。

母が薬局のパートから帰ってきて
ガサガサと作る夕飯は
大抵肉か揚げ物がメイン。

小太りの母は口うるさいが
懸命に生きているようだし
めんどくさい質問には思春期を全面に出せば済むし
憎んではいない。
ただ、いろんな意味で
年老いたらどうなるのだろうかと
哀れみの感情がある。

父親は化粧品会社の研究室にいて
科学者的な?化学者的な?
二言目には地球環境の心配をする。
しかし、単純に化粧品って地球環境にいいのかよ?
といつも思ってる。

あれは趣味だな。
他に趣味という趣味はなさそうだし
不平不満を言う訳でもなく
酒に飲まれる訳でもなく
淡々とした生き方をしている。

両親のなれそめは知らない。

真面目というのが良しとするなら
両親はきっといい両親なんだろうな。

兄弟はいないんだ。
母は最初の妊娠で流産したらしい
昔チラッと聞いた。

俺は家族に期待も恨みも
何もない。
両親の遺伝子を
いや、遺伝子が
どうなるのか

むしろ冷めた目で見ながら
しらっと生きてる。


今日は雨だった。

雨の日はいつもあの木には行かないことにしている。
もちろん
座っていても濡れるからね。

何やらクラスでトラブルがあり
異常に長くなったホームルームの後

バスに乗るつもりが
やっぱり気になって

溜め池の反対側から見てみようと行った。

待ち伏せか、、

一人笑ってしまったが
いや、確認確認
一応不審者だしな。

そんないいやつではないのに俺。

しかしあのワンピースの汚れが気になる。

事件ならまずいだろ。

でも、あの女
やけに強気な言葉だったし
心配することないなと

しばらく木の辺りを眺めていたけど
いないし
アホらしくなり
俺はバス停に戻った。

夏の白鳥

夏の白鳥

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-04-16

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