インスタントカメラ

  1. インスタントカメラ
  2. 花が咲きました
  3. ユキヤナギです

地の文だったり書簡体だったり、日記だったり夢だったり。本作品は、そんなスタイルもジャンルもばらばらの短いお話たちを無理やりひとつにしたものです。
徒然なるままに撮った写真たちを眺めるような気持ちで、読んでいただけたら嬉しいです。

インスタントカメラ

――カシャッ
「あ。撮った」
伸びてきた手にカメラを奪われそうになって、背中に隠した。
「事務所通してくださーい」
「どこの事務所だよ」
突っ込むと、あははは、と大きな口を開けて笑う。その笑顔のまま、綺麗に映ったかな?と尋ねてくる。
「どうだろ。インスタントカメラだから現像しないとわかんない。もしかしたらめっちゃブサイクに映ってるかも」
「おい」
「でも綺麗に撮れてたと思うよ。たぶん」
「だめじゃん。そこは確信もってよ」
カメラの軽いボディを片手で弄ぶ。
「なんで、今どきインスタントカメラ?」
「なんか好きなんだよね。携帯で撮るのって味気ないじゃん。でも一眼レフとか買うほど力入れてもないし。ちょうどいい塩梅なのはこれかなって」
「現像しないと映りも確認できないって、わりと不便なんだけどなぁ」
「それがまたいいじゃん。なんか」
「愛しいの?」
「そう。愛しいの」
またカメラを構える。
「もうだめ!1日1枚限定です」
「いつそんな規定つくった」
だってさ恥ずかしいよ、と照れ笑いしてから、首を少し傾けてこちらを見てきた。
「あ。その顔いいじゃん」
そのままね。左目でファインダーを覗きこみ、シャッターを押した。
「撮れた?」
「撮れた」
「あー確認できないのきっつー」
「現像してみる?」
「する。コピー機下ろしてくる」
「あ、待ってインク切れてなかった?」
うそ、と声をあげてリビングを飛び出した。階段を駆け上がっていく足音が聞こえる。間もなく、ないーっ、と悲痛な叫び声が続いた。
「やっぱり。だってほら、こないだ資料作り持ち帰ってきたから。そのときに」
「うわ、あの後すぐ買っとけばよかった」
時計は15時を指している。外はじゅうぶん明るい。
少し歩いたところに、古くて感じのいい写真店がある。その近くには、お惣菜がおいしいスーパーもある。
「現像してもらいに行こう。ついでに買い物してさ」
「そうしようか。今日なににする?」
「あのスーパー、お惣菜おいしいんだよね。特に唐揚げが」
「唐揚げゲットしに行くぞ」
「おう」
拳を合わせると、勢いあまって骨がぶつかった。いった!!と叫ぶと、ふたりぶんの声がぴったりと重なった。それが面白くて、今度はあははは、と笑う。
「絶対骨折れたー」
「じゃー明日はふたりで病院だ」
「行かないわ」
手をぶらぶらと振って差し出すと、優しく握られた。
「お米買っとく?」
「え、重いからいいよ。あそこからけっこう距離あるじゃん」
「じゃあこうしよう。じゃんけんして負けたら、曲がり角まで持つ」
「うわっ……じゃんけん弱いの知ってんのに。意地悪ー」
「ジムに来たと思って頑張りたまえ」
「最悪だ。……カメラは?」
「っ忘れてた!!」


花が咲きました

突然この手紙が届いたら、どんな顔をするのかな。見てみたいから、隠しカメラも同封したいところですが、やめておきましょう。
録画していたドラマを観返していたんです。そこで出てきたセリフに心を動かされて、その勢いでレターセットを引っ張り出してきました。
言葉にしないと、伝わるものも伝わらない。
そんなセリフがあったんです。
長く一緒にいるから、それに甘えて、言葉にするのを避けていました。ちゃんと、大事なことは伝えないとだよね。言わなくてもわかってもらえるなんて、相手に甘えすぎちゃいけないよね。だから伝えます。
いつもありがとう。
やさしくて、服のセンスが悪くて、料理ができなくて、まじめで、色気がなくて、変なピアスしか持ってない、君のことがとても愛しい。
あ、歌が上手なのと、ピアノが弾けるのも追加します。今度また弾き語りしてね。楽しみです。
あぁーーーー。会いたいなぁ。会いたいです。
大好きです。


P.S.

花が咲きました。君が去年植えていってくれた花です。これなんだろう。教えてください。

ユキヤナギです

突然の手紙、驚きましたが嬉しかったです。ありがとう。あんなに字、綺麗だったっけ?(笑)
きっと、すごく時間をかけて、何度も書き直してくれたんだろうなと思います。勢いだなんて言ってるけど、そうでしょ?(笑)
そんなふうに想ってもらえていて、とても嬉しいよ。ありがとう。
君が書いてくれていた「言葉にしないと、伝わるものも伝わらない」、その言葉はふたりにとってすごく必要なものかもしれません。君と同じように、言葉にすることを避けていたところもあるから。だからちゃんと文字におこします。
いつもありがとう。
明るくて元気で、ファッションセンスはあるんだかないんだかのぎりぎりのラインを行くぐらいで、料理がそこそこできて、優しくて、写真を撮るのが上手で、ダンスが上手で、感動屋で繊細な君が本当に愛しいです。
弾き語りやります。代わりにギター弾いてね。こないだ送った曲の、リードの部分弾けるようにしておいてください。宿題です!(笑)


会いたいな。



P.S.

ユキヤナギです。剪定が必要なんだけど、君に言ってできるかな?(笑)
近いうちそちらへ行きます。

インスタントカメラ

インスタントカメラ

普通の人たちが普通のことをしている、そんなお話をたくさん書きました。奇をてらったお話は一切ございません。刺激もスリルもございません。 懐古、親近感、そういったものを感じていただけたら作者冥利に尽きます。

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-04-16

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted