マスターの相談喫茶

ヤリクリー

注意事項
①カッコ内は読んでください。
②この作品は、男性1人女性1人の合計2人の作品です。

マスターの相談喫茶

〔登場人物〕
・小野井 明正(おのいはるまさ/男)…“カフェ=リオール”の店主。
・長谷川 亜美(はせがわあみ/女)…カフェ=リオールに来た客。
(※Nは、ナレーションを指す。)


小野井:いらっしゃい、お嬢さん。

長谷川:…ど、どうも。

小野井:(おや?顔色がよろしくなさそうですね。何かお困りごとでもあるのでしょうか?後で伺ってみましょう。)

どうぞ、こちらへ。

長谷川:…、ありがとうございます。

はぁ…。

小野井:こちら、お水をどうぞ。飲んで少し落ち着いてみてください。

お客様、当店にいらしてから元気がなさそうですが。何かお困りごとでも?

長谷川:…はい、少し悩みがあって。

小野井:“悩み”、とは?

長谷川:あ!あの…。

小野井:はい。

長谷川:“ウィンナーコーヒー”と“クロノワールの大〈だい〉”をお願いします。クロノワールは、ソフトクリームを通常よりも多めで。

小野井:はい、かしこまりました。少々お待ちを。

そうだ。私の事は“マスター”とでも呼んでください。

長谷川:マスター“さん”。

…少し、私の話を聞いてもらえませんか?

小野井:どうぞ、お話くださいませ。

あと、“さん付け”はしなくても結構ですよ。

長谷川:私、最近人付き合いが上手くいってないんです。特に、友人関係で。自分の周りは結婚したり付き合ったりしていて幸せそうなのに自分は1人で仕事に精を出すばかり。恋愛もしなきゃいけない、って変なプレッシャーに駆(か)られて婚活もしてみようかなとも思っていて登録もしたのですが自分に合う人物が見当たらなくて。周りからも“早く結婚しろ”とか“早くパートナー見つけなさい”とかでうるさくて。このまま一人で過ごすのが嫌で嫌で…。

小野井:なるほど。

…で、先程の浮かない顏の原因は?

長谷川:はい…。
登録したアプリで一定期間内に見つけられなかったので強制退会。そして、結婚相談所に話を持ち掛けてみても候補がいなくて…。

“私、このまま孤独の海に溺れて誰からも助けられずに死んでいくのでしょうか…?”
…う、うぅ。

小野井:話の方は理解いたしました。先ほどの注文品の用意が出来たのでそちらを頂きながら話の続きでもしていきましょう。

こちら、ウィンナーコーヒーでございます。通常提供時よりも少し甘めにしてあります。そして、クロノワールの大も用意できました。いつもならメープルシロップだけをアイスにかけるのですが、苺シロップとブルーベリーシロップ、チョコソースを用意したのでお好きなのをおかけになっていただいてください。

長谷川:…は、はい。ありがとうございます…。

小野井:人生の伴侶探し、ですか…。少子高齢化と呼ばれていて未婚の方が多い今日(こんにち)ですが、やはり結婚はしたいものですよね。

…とか言いつつ、自分は1人暮らしで未婚です。彼女も持ったことが無いし付き合ったこともありません。ですが、それでも私は幸せです。

長谷川:…マスターは、今年でいくつなのですか?唐突にこんな質問を投げかけてしまって申し訳ありません。

小野井:いえいえ、気にしていただかなくても結構です。

私は、来月で53歳になります。

長谷川:…え?来月で53歳になるのですか?!

小野井:えぇ。周りからは45歳くらいに見えると言われるので大変うれしいのですが、如何(いかん)せん、そろそろ老後の話で頭がいっぱいで。

長谷川:…未婚って先ほど口にしましたよね?一人でも寂しくないのですか?ペットは飼っていないのですか?

小野井:ペットは飼ってはいませんが、寂しくはないです。

…正直な話をすると、奥さんが欲しいなと心の片隅では思っています。ですが、それでも幸せです。一瞬でそんなことは忘れてしまいます。

長谷川:何故そこまで寂しいと思わないのですか?

小野井:私の場合は、“職業柄(しょくぎょうがら)”というのが一番の理由ですね。今、貴女とお話をしています。私は幸せです。“話し相手がいる”、“相手の相談役になれる”、“美味しいものを頂いてお客様が笑顔になるのを見る”。こういった経験ができて満足なのです。3番目は話を別にするとしても、最初の2点は明日以降のお客様との会話で活かせるのではないかと反省をしています。“今日はこのお客様と話をし、このようなテーマだった。明日のお客様は誰なのだろう?どのような話をしてくれるのだろう?”と期待しながら1日を終えます。勿論、お客様が自分には合わない場合も当然あります。話が合わなくて喧嘩にもなりますし。やりすぎちゃうこともしばしば…。それでも、その日を振り返って、“今日はこんなことになってしまった。原因はいくつかあるけど一番の原因はアレだから、明日以降はそこに重きを置きつつ頑張ろう”ってなりますね。

このようなことを考えていると案外寂しくなくなります。

長谷川:へぇ。マスターはそんな感じで1日を過ごしているのですね。

小野井:そうですね。

貴女の場合ですが、周りのプレッシャーに押しつぶされているように私は見えます。“皆が結婚しているし彼氏さんも持っている。自分だけが仲間外れだから何とかして追いつかないと!”と焦っている様子がもろバレです。結婚願望が少しはあるようですから、それ相応の努力はしたのでしょう。ですが、残念ながらマッチングには失敗。プロフィールも変更はしているのでしょうがそれでも意味をなしていなかった。

長谷川:写真を変えてみたり口調を優しく丁寧にしてみたり。

小野井:2つ貴女に質問しますね。

“①貴女は、周りが見えていますか?把握できていますか?②食事会や飲み会の時、1人で部屋の隅にいるように閉鎖的になっていませんか?”

長谷川:ドキっ!!

小野井:BINGOのようですね。“自己中心的で自我が強い。周りには食事の時は尚更ですが、勤務中も一人の方が楽だと思っている”のでしょう。

自分は、貴女が会社でどのように過ごしているのかは知りません。ですが、その鞄(かばん)を見る限り、キャリアが素晴らしいビジネスウーマンのようですね。顔も悪くはないですし、目もキリッとしているので好きそうな方がいてもおかしくはありません。

長谷川:…私、そこまで美人ではないですよ?口調はキツめですし周りからの視線も…。

小野井:本当にそうでしょうか?

確かに、貴女のおっしゃる通り口調が厳しめなのかもしれません。キツめの言動(げんどう)なのかもしれません。ですが、“ドS”や“ドM”というワードがあるように、命令されたい方が一定数居るのもまた事実なことで。きっと、飲み会に誘われても拒否して家ですごすことが多いのでしょう。声をかけてくれた方がどのような方かは存じ上げませんが。

長谷川:それはそうですよ。飲み会で疲れて翌日に響いたら元も子もないです。

小野井:そうですね。間違ってはいません。

…ですが、ことあるごとに断り続けるのもいかがなものかと思いますよ?それに、貴女に相談したいという方も1人や2人いてもおかしくはありません。

長谷川:自炊して野菜多めの料理を作っては1人ですぐに済ませてすぐ寝ますね。

小野井:健康的ではないですか!!

長谷川:…ただ、メンタルが持たない。

小野井:なるほど。
自炊をするということは、料理の腕には自信がおありで?

長谷川:えぇ、はい。

小野井:でしたら、“ホームパーティー”を開いてみるのはいかがでしょうか?準備や後片付けが大変だとは思いますが、家から離れずに済むうえ、他の人を誘う機会となり出会いの場となる。それで、先程の貴女とお話がしたい人を誘えたならそのまま交際に発展するという可能性もありますよ。

それに、遠距離恋愛よりも近距離恋愛の方が長続きして成功しやすいです。確か、“ボッサードの法則”でしたっけ?“男女の物理的な距離が近いほど心理的な距離が縮まる”というものです。これほどに近距離でやりとりをするのもありだと私は思います。

長谷川:でも、仕事が…。

小野井:たまには仕事から身も置いてみてもよいのでは?ここは思い切って自分から変えてみてもよいと思いますよ。あ、ここでの“変えるもの”は“自分のこれまでとっていたアクション”です。飲み会に行ってないのなら行ってみるもよし。それが嫌なら、先程挙げた通りにホームパーティーを開いてみる。新たな貴女の一面を表に出来るまたとないチャンスです。逃す手はありません。
仕事の事も、一旦は離れましょう。逆にそれが原因でメンタルに支障をきたしているということもなくはないです。

敢えて厳しい言い方をするなら、“お前はビジネスしかできないアンドロイドじゃねぇ。複雑な感情が持てている。それは人間だからできること。人造人間なんかじゃねぇ。機械ではないのだ。”

如何でしょうか?

長谷川:…こ、怖い。

小野井:先に厳しい言い方をすると予告しましたよね?それだけ恐ろしく感じるのであれば、貴女は人間としてはクォーターにも届いてません。半人前以前の問題なのです。

長谷川:…はい。

小野井:“貴女の人生は貴女が決めることです。最終判断を下し実行するのは貴女。私が出来るのは、アドバイスを送る事のみです。”

頑張ってください。

長谷川:はい。頑張ります。

小野井:貴女ならできます。信じています。

長谷川:コーヒーとクロノワール、ご馳走様でした。何だか元気が湧いてきました。また遊びに来てもいですか?

小野井:えぇ、喜んで。

長谷川:じゃあ、先程の2つに“コーヒーチケット”も1綴り(ひとつづり)ください。現金で。

小野井:ありがとうございます。確かに、現金でお預かりしました。こちら、レシートとチケットです。有効期限は本日より1年間です。期限に注意してくださいね。

長谷川:はい!

本日はありがとうございました!行ってきます!

小野井:気を付けていってらしゃいませ。またのご来店、お待ちしています。


長谷川(N):こうして2、3か月後、私は初めてホームパーティーを開いてみた。女性は勿論でしたが若い男性も数人集まりました。そこで、“野田”という男性と馬が合い付き合うことになりました。そしてそれから3年後、私たちはゴールインしました。全てマスターのおかげです。通常であればマスターも式に呼ぶべきだったとは思いますがお店のこともあるので欠席でした。その代り(かわり)に、こちらからお店宛に結婚報告の手紙を写真を添えてお送りしました。今度は、旦那とお店に遊びに行く予定です。

小野井:おや?私宛に手紙ですか。
どれどれ…?

あぁ、あの時のビジネスウーマンではないですか。素敵な旦那さんを手に出来て本当に良かったですね!また来店された際は何かサービスをしなければなりませんね♪

改めて、“ご結婚、おめでとうございます”。

マスターの相談喫茶

訂正事項
・10月18日(日) 本文を一部訂正。

マスターの相談喫茶

あなたは誰に相談事をしますか?目上の方や知人、家族、行きつけの店のスタッフ。色々あるでしょう。今回は、とあるカフェを舞台にした人生相談です。相談者は、無事に解決できたのでしょうか?

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2020-04-15

CC BY
原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

CC BY