星が溶ける前に
わたしは何等星になるのかしら。そんなことをおもいながら見つめる空は土砂降りで、いくら目を凝らしても星のひとつも捉えることができませんでした。きょうは、みんなとお話できないのね。石畳を殴るように打ちつける雨が、夜空から星々を拐かしたことを物語っています。行くあてもなく、そして傘も差さずに長いこと歩いていたわたしは、いつのまにか港の埠頭近くまで来ていました。辺りには誰の人影もなく、わたしひとりが陰鬱な天の涙に曝されています。雨、やまないかなあ。靴もお洋服も、そして頭もひたひたになってしまって、その重みのせいで踏みだす一歩一歩が心もとないです。すると、うっかり脚を滑らせて、その場に倒れ込んでしまいました。辺りは無人のため、もちろん助けてくださる方などいません。雨音も大きいし、おもいきり泣いたら気が晴れるかな。そうおもいましたが、そうしたら空に行けない気がして、ぐっと涙を堪えました。寒いなあ。おなかすいたなあ。わたし、帰るところがないのです。依然として降り続く雨のように、心のなかで弱音が滔々と溢れてしまいます。こんなときに、お話のできる方がお傍にいらしてくださったら、たいそう心強いのだけれど。わたしをいつも慰めてくださる澄みきった夜空とも、星々とも、きょうはお話することができません。わたし、一体これからどこへ行けばよいのでしょうか。こんな様子では、いちばん等級の低い星はおろか、星にすらなれない気がして、なんだかとても情けなくなってきました。このままでは顔向けできる相手もいません。いつも照らされてばかりのわたしは、いつかわたしもなにかを照らせるようになりたいと、あのとき確かに、心に決めたはずです。星のかたちでなくとも、誰かにとっての星でありたいと。そうです。このままでは、いけないのです。雨がやんだ頃には、つぎの夜を迎えるまでに、わたしはじぶんの脚を、じぶんで撰び進んで行く道を、信じられるようになりたいのです。明るさなんて取るに足らないこと、星に貴賤はありません。生きている星がみずからの涙で溶けてしまわぬように、わたしも照らし、また照らされるのです。八十九番目の星座として、そこに行けるまでに、ここで輝かさせてください。あの日の約束を果たせるように。死んでもわたしが、溶けないように。
星が溶ける前に