ハズれ者の男子生徒
もしも僕が不要な生物だったなら、
僕を主人公とした映像など、この世には存在しないだろう。
けれども僕の脳味噌の中には、
確かに僕だけを主人公とした物語が存在しているのである。
仮にもしこの映像が世間全般の人間に受け入れられなかったとするならば、
僕の脳味噌は、(ひいては神様が作り出した創造物である僕の身体は、)
非秩序の中に分類されるということになる。
神様が創造したはずの僕の身体でさえ、
完璧に世間大衆の中に埋没することは不可能なのだ。
ならば地球は、どのようにして一体化することができるというのだろう。
異種同士が、完全に溶け合い分かち合う事は不可能だ。
それは違う法則によって分け隔てられており、構成されているからだ。
もともとは丸い地球という一個の生命体から生まれた物質なのに、
何故ゆえ人間は一つ一つに違う個性を持って生まれてくるのか。
複雑な思考回路をもって生まれてきた、人間という名の僕には、
この脳内の余った時間に湧き上がる細菌のような雑念が、大嫌いだ。
とかなんとかいいつつ、今日も体育の授業は終わった。
僕は晴天の青空の下、屋上のコンクリの上で、仰向きに寝そべっている。
同級生達と慣れ合うのは、苦手なのだ。といっても、体育は授業なのだけども。
例えそれが集団のルールだったとしても、
結合せずに独りで独立する者というのは、存在するのだ。
抗うのが術、そういうことだ。
そういって脳内の戯言とばかりじゃれ合っていることで生まれるデメリットというものは、
孤独、寂しさ、沸々と湧き出るハミ出し者感、少なからず確実に存在する。
それが消し去りたいというレベルにまで達してはいないが、
少なからず(二日に一度位のペース)逃避したいと感じることはある。
この世は、無駄で溢れ返っている。無駄によって構築されているのだ。
あらゆるものは消え去る運命であり、永遠などというものを手にした存在は、いない。
荒涼とした心地をもって、僕は今ある世の中の映像を目の中に収める。
大して面白くもない映像だ、などと思う。何もかも輝くことはない。
僕の寿命は、このようにして終わりを迎えていくのか、と思った。ら。
無性に、寂しくなった。
屋上から教室へと向かう階段を下りていた。
一段一段、まるでつまらない心地で。
別に、今の自分のこの境遇を嘆いている訳ではないけれど、
退屈だな、とは思った。
その時、階段の一番下で自分の方を(正しくは屋上の扉の方を)見上げている、
1人の少女と対峙して、僕は、気が変わった。
僕との距離は、わずか階段5段分。
それでも、僕と彼女の間には、10段分以上の差が開いているように、感じられた。
僕は凛と立つ彼女の姿に気を取られて、階段を下りるのを忘れていた。
でも、彼女は一向に構わない。
風のように自分の傍を擦れ違って、何も言わずに、屋上の方へと登って行った。
僕は衝動的に、彼女の体を引きずり落としたい気分に駆られた。けれど、止めた。
今の自分にはそのような力はないし、第一、彼女に嫌悪されたくはないと思った。
僕は、静かに、その場を後にした。それから、
階段下の廊下に足を付いた途端、抑えきれずに廊下を全力疾走した。
色々なありとあらゆる生徒が、こちらを見る。好奇の目で。
1人の生徒は、不思議そうな目で。向こうの端の集団は嫌悪の目で。
ありとあらゆる生徒が、いるんだなあ、と漠然と思った。
心の内でそう思いながら、形振り構わず、僕は「わあぁああ」叫んだ。
廊下の端から担任の先生が顔を出したけど、気にしなかった。
生徒からの信頼が厚い先生もいたけれど、構わなかった。
そのまま、僕は、この息詰まるような循環しない空間から、飛び出したかった。
放課後、僕はたくさんの教師から事情聴取をされた。
何が悪いのか、何を思ってるのか、何を感じているのか、何が気に喰わないのか。
本当は、何もかも知っているくせに。
僕は、ハズれ者なんだ。
だけども、僕は何も言わなかった。
僕は、ただ、傍にある窓の外側の世界に、
先ほど会った少女の姿を投影して、激しく、懐かしく思った。
ハズれ者の男子生徒