自意識ドロドロ人間〜言わざるver〜

 

なぜ私なのか


私の体の上に跨って、人間が私の胸のあたりを懸命に食べている。私は横たわっているため、今、自分に喰らいつく人のことは、頭のてっぺんしか見えない。恐ろしいほど真っ黒で綺麗な髪の毛だ。どうにかして震えそうになる声を堪えた。

なぜ私を食べるのか

おそらく、私じゃなくてもこの人間は誰でも食べることができるはずだ。
かっこいい子、性格が良い子、頼り甲斐がある子、甘えるのが上手な子、かわいらしい子
捕まえるのが難しいこの子たちを簡単に捕まえることができるはずだ。

そしてこの人は私以外の私以上の魅力あるものを見たら、すぐに喉を鳴らして食べるだろう。


なぜ私なのか
魅力ある子たちよりも前に私が先に人間に出会ってしまったからだろうか
じゃあ、私を食べたあとに、魅力あるその子たちに出会ったら、しまったと思うのだろうか


食われた箇所はすっかり空になり、ついに私の心が剥き出しになった。
人間はじっとそれを見て大事そうに手に取ると、今度は優しく口付けた。
私の心は、錆びた赤だ。



なぜ私なのか
私じゃなくても、誰かを食べることができる人間
なぜ、私だ
私じゃなくても良いはずだ



そう思うと、涙が止まらない。
人間はそれに気付くと、自分の胸の中に手を突っ込んで、そこから燃えるように赤い心を取り出した。

嘘みたいに燃えている心だ

人間は熱くて辛そうなのを我慢し、燃える心の火を消そうとして大きな片手で握り潰したが、今度は手にまで火が移り燃えていった。

「熱くて、熱くてしょうがない。貴方のことを考えるといつも。」



人間は、その燃え盛る心を、私の心が取り出され空洞になった場所に閉じ込めようとするが、私は耐えられなくて燃えてしまった。


なるほどこれは確かに熱い
これは一体なんだ


炎に包まれる私から、火元である心を奪い返すことができず、人間は眉をひそめた。

ぼんやりしていく意識の中、ようやく人間の目を見ることができた。


これを渡す相手が、なぜ私なのか
私であるための深い意味はどこにもない
もし君が、私以外の誰かに先に出会っていたらその熱い心をそいつにあげてしまう癖に
なぜそんなに苦しそうな顔をするんだ


「燃えて灰になりかけている貴方から、心を取り返せないことは好きだという理由にはならない?」


なぜ私なのか

「なぜこんなに燃えるのか自分でもよく分からないのに、それが貴方にわかるわけがない」


声にならないどろどろした言葉が、頭をよぎって、私は燃え尽きた。
そして灰になり、しばらく風に弄ばれ漂った。
私の錆びた心を人間に渡したままでいることをすっかり忘れて

自意識ドロドロ人間〜言わざるver〜

自意識ドロドロ人間〜言わざるver〜

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-11

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted