夜が明けたらパウンドケーキ

 のらねこにも、みすてられた真夜中ほど、むなしいものはない。
 パウンドケーキを焼いたので、のあに、あそびにおいでよとメールしたら、のあから、食パンの絵文字が七つ並んだだけの返信がきて、なんとなく、世の中のものすべてが、ばかみたい、と思った。絵本にでてくるような、ドライフルーツをねりこんだパウンドケーキは、しょうじき、じんせいでいちばんうまくできたといいきれるほど、わたしてきには、うまくできたので、どうしてものあに、食べさせたかった。のあ、ケーキ、食べにきてよ、と、あらためてメールを送ると、のあから、りょ、という二文字だけの、返信があった。朝の六時だった。わたしは、ねむれない夜に、お菓子をつくるのが、好きなのだ。明け方は、ときどき、朝のバケモノがあらわれるので、町は、どことなく、じめっとしていた。雨が降ったわけでもないのに、これから降る予報でもないのに、じめっとしていた。これは、いつも湿っぽい、朝のバケモノが、夜が明けたばかりの町を、無遠慮に撫でるから、で、あるらしかった。のあ、いわく。のあは、学校の、生物のせんせいに恋をしていて、でも、その、生物のせんせいというのが、のあ以外の女子からみれば、なんかちょっとダサい、せんせいで、のあ、趣味悪いねと、まわりはいうのだけれど、わたしは、でも、いいなあと、ひそかに思っていた。まわりに流されず、好きなものを好き、といえる、のあが、かっこよかった。パウンドケーキを切り分けながら、もうすぐ、のあが、くるような気がしていた。のあが、うちにくるときは、ふしぎと、家のなかの空気が、わずかにふるえるのだった。

夜が明けたらパウンドケーキ

夜が明けたらパウンドケーキ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-09

CC BY-NC-ND
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