自選歌集 2020年1~3月
遷都せよとの神託に従わず腐りはじめる巨大な果実
オレンジを片手できつく搾る日も静かに近づいてくる砂漠
円舞の輪右へ左へまわるうちカチリとひらく開かずの扉
コロコロと転がっている認め印クルクルまわっても鏡文字
歴史書を書き変えるたび溜まっていく砂消しゴムの灰色の砂
on the rock の氷はすべて溶けきってどのあたりから惰性だったか
どれぐらい笑っていいの生きのいい蛸がこれから切り刻まれる
新しい流行り病に名がついて不死を装う黒衣の少女
ちょうどいい鉄の棒だと思ったらそれはだいたい武器の大きさ
そらじゅうが欠伸している屋上でまだ滅ぶのはやだねと君が
大丈夫ひいじいさんが買い占めた百年分のちり紙がある
生命が生まれるまでの十億年ただただエロかったんだ地球は
逃げきれず半島になる半島にそこより早くやってくる朝
屋根裏に変なけものが住みついて鼻をさわるとヌコっと笑う
優男猫を拾って猫になりいっしょにたんぽぽを売っている
遠くから来て遠くへと帰るからあなたはずっと謎めいている
恋人に会いに行くのに延々と椿もしくは山茶花の道
信号が青になるまで待ってから白いラインに裸足で触れる
透明であっても傘は存在し君を少しは守ってくれる
靴底がめくれる頃に春が来てセーフかと問われるならセーフ
どうしたの難しい顔目の前のパンを麺麭だと思っているの?
夕闇に見失われて影のない子供がずっと遊んでいます
牛乳をミルクと呼んで温めてみんな死ぬって知ると寂しい
飯店の裏庭に咲く桃の花ずっとこどものままの白犬
投函のあとのぼんやりした指が頼れるものを探そうとする
推敲の結果すべてを失くしても誰かがコロッケを揚げている
※「投函の~」、「推敲の~」は #短詩の風、他は「うたの日」で投稿したものです。
自選歌集 2020年1~3月