水彩

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 何十年ぶりかの景色が広がっている。最近は若い子にもハイキングが人気と見える。彼らの若さに焦がれる一方、私自身はもう若さの炎には耐えられないだろうと思う。
 子供の頃から見慣れていたはずの景色。新しいビルが建つ前は、何が見えたか思い出せない。霞か排ガスか、故郷の街は煙っている。

「俺もう無理だよ」
 泣きださんばかりの少年が立っている。見覚えがある、と思うと同時、すぐに思い出した。
 少年は、私の親友だ。ジャージを着ている。頭上の夕空から察するに、部活の帰り道のようだ。
「もう無理だよ、なんでいつも俺ばっかり……」
 この時のことは、よく覚えている。彼はいじめに遭っていた。そして私は、この時答えを間違えた。それから、彼を「親友」とは呼べなくなった。
 何故かこの時が繰り返されている。これは人生をやり直すチャンスだ、と私は直感した。

 私は考えた。何度も自分に問い直したことだ。しかし、正解は何なのか、分かったためしはなかった。
 氷の融けるような時間が流れた。汗が垂れた。しかし私の舌は、渇いたように動かなかった。
 日はほとんど没していた。蝙蝠が飛び交っていた。私は、それに一瞬気を取られたふりをした。
「ごめん、ありがとう」
 彼は言った。私は再び失敗した。

 私は相変わらず昔の故郷の景色を思い出せずに突っ立っていた。後悔が水彩絵の具のように心に染みた。
 異郷を背に、私は歩き出した。砂利を踏む。この足音。これこそが私の心音、生きている証だ。

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-04

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