希望

昔に書いたやつ

美咲は読み終えた小説を机に置いた。机には朝陽が差し込み、小鳥の囀りが朝を深く実感させる。
「これで最後の一冊よ」
勇気を振り絞って、声を震わせながら、美咲は小声で言う。
今更ながら、死に対する恐怖が、まるで死神が寄り添い、鎌を首にあて、今か、今か、と待ち構えているようであった。
死なねば真の平和は得られぬことは世の真理である。
美咲にとって真の平和とは、静寂の中での、安らかな眠りであった。
だが、頭では理解しても、身体の本能が死を前に暴れるのだ。
死にたくない、死にたくない、と叫ぶ。

「イエスは十字架に磔になられたあの瞬間、神の沈黙にさえ意味を見出したのだろうか」
と脈絡のない自問自答を繰り返す、それだけで一日が終わるのである。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ」

発狂したのように叫び、机の本を投げつけ、頭を掻き毟る。

「怖い...。私は死ぬのが怖いのだ」

美咲はロープを買うなど、諸々の準備をして、さあ、死のうとなった瞬間に、真夜中の森で一人で死ぬのが、急に怖くなった。
かさりと己が枯葉を踏んだ音に悲鳴をあげて逃げ出したのである。

人様の家のぽつりと、月のように暗闇に浮かぶ灯りに、ほっとして、胸を撫で下ろすと、徐々に深い絶望が身を蝕んでいくのである。

これから何十年も生き続けることに途方もない恐怖と、眩暈を感ずるのである。

希望

希望

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2020-04-04

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